2024年6月26日水曜日

「泣けない人」その108


 

108 、上京五日目.5

守叔父さんの自宅の中に入る事ができ、その生活状況を把握する事ができた。

朝駆けを無事に成功させたこととなり、胸がしめつけられるような緊張感から徐々に力が抜けて、リラックスできるようになっていた。

精神的な余裕を取り戻すことによって、気がついた事があった。

気がついた事とは、守叔父さんの話し声がとても小さいことである。

私もまた、その守叔父さんの声量に合わせて、自然に小さな声で話していた。

ヒソヒソ話のような会話が続いていたのである。

鉄筋コンクリート建てのマンションの部屋であるので、それなりの壁の遮音があるだろうから、ヒソヒソ話をする必要はないだろう。

そのことに気がついた私は、あえて、通常の声量に戻して話してみた。

すると、守叔父さんは、自分の口元に指を立て、「シー」と言った後、その指で、守叔父さんの両隣の部屋をそれぞれ指差して、「ダメ、ダメ」と小さな声で言った。

隣室とのトラブルを避けるために、小声で話していることがハッキリした。

見た目と異なり、隣室との防音性能が悪い建物なのだろうか? 

平日の朝6時過ぎだとまだ、就寝中の人が多いかもしれない。

生活リズムの異なるお隣さんが居住しているのだろう。

ともかく、守叔父さんは、ご近所さんに迷惑をかけない様に、周囲を気にしながら静かに生活している事もわかった。

 





しばらくすると、守叔父さんは外出する準備ができたようだ。

腕時計を確認すると7時過ぎであった。部屋に入ってから、すでに1時間経過していた。

どこに行くのか確認するために、

 

「仕事に行くの?」



と問うと、

 

「キョウハ、イカナイ」
(今日は、行かない)



との答えが返ってきた。

 

「今日、仕事は休みなの?」



と聞くと、

 

「ソウ」
(そう)



との返事が返ってきた。元々の守叔父さんの予定では、本日は仕事に行くと言っていた。念のため、

 

「いつ、休みが決まったの?」



と聞いたものの、

 

「イカナクテ、イイノ!」
(行かなくて、良いの!)



としか答えてくれず、仕事の予定がいつ変わったのか教えてもらえなかった。 徒歩で行ける範囲の職場のようだったので、

 

「職場は近いんでしょ!
会社は何処なの?
どっちなの?」



「東西南北」をそれぞれの方位を指差しながら尋ねたものの、守叔父さんは答えてくれなかった。

なんだか、私が職場に近づくことを嫌がっており、首を横に振って、嫌がるような表情をしていた。

何らかの仕事上のトラブルが起こったのだろうか・・・? 

トラブルのため仕事が休みになったのだろうか・・・?

(つづく)
 

2024年6月12日水曜日

「泣けない人」その107

 


107 、上京五日目.4


守叔父さんのマンションの間取りは、2DK バストイレ別であった。

異なるサイズの衣服や靴などはともかく、守叔父さんの趣味以外の装飾品なども見当たらなかった。

女性物と思われる衣服や化粧品などもなかった。

間取り、寝具の数、食器の枚数、歯ブラシなどを考慮すると、まず間違いなく一人暮らしであるだろう。

キッチン周りのゴミは、キチンと分別されており、生ごみを溜めていることもなく、気になる匂いもなかった。

全体的に部屋の状況を端的に評すると全体的にキレイであった。

守叔父さんは、掃除や洗濯をマメにしていることが推察できる。 

クルマのメンテナンスと同様に、室内のメンテナンスが行き届いていることになる。

 





守叔父さんに対して、

 

「日頃、家ではどんな物を食べているの?」



と質問すると、冷蔵庫の中を見せてくれた。

冷蔵庫は高さが180cm位のものであり、一人暮らしには必要なさそうな大きなサイズであった。

開き扉が1つ、引き出しが3段の計4ドアのタイプであり、上から冷蔵室、2段の冷凍室、一番下段が野菜庫であった。

冷蔵室には「ペットボトル」の飲み物が数本と「栄養ドリンク」の小瓶が数本、電子レンジで加熱調理できる「レトルト食品」が数食入っているだけで、料理するための食材などは一切入ってなかった。

野菜庫は完全な空であった。

それらに比べて、冷凍庫には「ボンレスハム」や「焼き豚チャーシュー」などの加工肉の大きなブロック肉が大量に入っており、二段ともほぼ一杯になっていた。

調理器具としては「電気ポット」「電子レンジ」くらいしかなく、「ガステーブルコンロ」「IHクッキングヒーター」などは無かった。

道具や材料が無いことから分かるように、キッチンで調理している様子はなく、シンクもキレイだった。

数種類のカップラーメンが電気ポットの横の棚に積まれていた。

家での食事では、朝食「パン」、昼食「カップラーメン」、夕食「レトルト食品」のようだ。

外食と家での食事の割合は分からないが、家で食べているものだけを考えると、偏った食事をしているのだろう。

(つづく)
 

2024年6月5日水曜日

「泣けない人」その106

 


106 、上京五日目.3


守叔父さんは、玄関ホールの照明を消した後、

 

「コウイウトコロ、
モウ、ヤリタクナインダヨ。」
(こういうところ、
もう、やりたくないんだよ。)



と言い残すと、また、真っ暗な部屋の中に入ってしまった。

守叔父さんの意味不明な「行動」「言動」は、私を混乱させ、頭の中には疑問符「?」が大量に並びはじめていた。

一旦は、照明が点いて少し安堵していた心が、暗転によって再度キュッと潰されたようになってしまっていた。

私は、いつでも逃げられるように片手で玄関扉を押し開いて、閉まらないようにしていた。

そして、外廊下から差し込む光を頼りにしながら、目を凝らして中の様子を伺った。

すると、数秒後に玄関ホールの隣りの部屋がパッと明るくなった。

私は、前触れなく明るくなったことに驚き、思わず

 

「おー、点いた、点いた!」



と少し「はしゃいだ声」を出してしまった。 恐怖心から解放された安堵感からつい口から出た言葉だった。

とは言え、先ほどと同じように数秒で灯りを消されて暗くなるかもしれないと心配しつつ、不用意ではあるが、慌てて靴を脱ぎ、中に入り部屋の様子を見ることにした。

 





八王子の豊治叔父さんから、「守の家に入る際は細心の注意を払え!」と念押しされている。

まずは、守叔父さん以外に、他の人がいないかどうかを確認せねば!と考えて行動した。

玄関ホールの隣の部屋はダイニングキッチンだった。

守叔父さん以外の人の気配を探しつつ、

 

「起きてても、
電気(照明)点けてなかったの?」



と問うと、

 

「ソウ、ボクハ、ヨジカラ
ズーット、オキテイタ。」
(そう、僕は、四時から
ずーっと、起きていた。)



と守叔父さんは言った。 今は6時過ぎ、2時間も灯りもつけずに、一体何をしていたのだろうか?

日頃は、早く起きて仕事に行くと言っていたのに、今日の仕事は無いのだろうか?

 





守叔父さんの話を聞けば聞くほど、次々と私の頭の中の疑問符「?」が増えていきそうなので、それらの前に、他に人がいないかどうかを確認せねば!

どこかに他人が隠れており、背を向けた時に不意打ちをくらうかもしれないし、念には念を入れなければ・・・。

守叔父さんの話を聞く前に、遠慮せずに、強引に部屋の中の案内をして貰うことにした。

不動産の内見(内部見学)のごとく、全ての部屋、押し入れ、トイレ、風呂など、人が入れそうな場所は開けて見せて貰った。

守叔父さんは、嫌な顔をせずに、それぞれを見せてくれた。

 





結果として、誰も隠れていることはなかったので、とりあえず、一安心できた。

人探しと同時に監視カメラや盗聴器などが設置されていないかどうかも探っていたが、可能性は少なさそうと感じた。

盗聴器は目視では見つけられないだろうから、別途、スパイの七つ道具の盗聴器探知機で探さなければならないが、さすがに守叔父さんの面前では、探索はできないな・・・。

守叔父さんがトイレに立った時など、別のタイミングを待って探すことにした。

(つづく)