2022年11月30日水曜日

「泣けない人」その41

 


41 、上京二日目.15

守叔父さんは、うどんを少し食べた後、話し始めた。

 

「ダカラ、ソレデー、アノー、
ボクガ ヤッテルノガ、
カ、スイ、モク、キン、
タッタ コノ ヨッカカン シカ
ムコウニ イカナインデスヨ。」
(だから、それでー、あのー、
僕がやってるのが、
火、水、木、金、 
たった、この四日間しか
向こうに行かないんですよ。)



仕事の話なのだろうか?  「向こうって、お仕事の事?」 と質問すると、

 

「ソウソウ、オシゴトジャナイケド、
マァ、ソコ イッテネ、
イロンナコトヤルトカ。
イヤー、ムズカシイ。」
(そうそう、お仕事じゃないけど、
まぁ、そこ行ってね、
いろんなことやるとか。
いやー、難しい。)



そして、続けて、

 

「ヒャッ、ハッ、ハッ」
(ひゃっ、はっ、はっ、はっ。)



と守叔父さんは笑った。

「オシゴトジャナイケド」というところが少し気にかかったが、月曜日は、毎週カイロプラクティックに通い、火曜〜金曜はなんらかの「仕事?」をして、土日は休むというスケジュールで行動しているようだ。

以前は、休めるときに休むという不定期なスケジュールで仕事をしていたが、現在は、定期的に休めるようなスケジュールとなったようである。
「イヤー、ムズカシイ」とは、どういう意味なのだろう?

難しい仕事をやっているという事だろうか、それとも、私に対して「守叔父さんの意思」を伝える事が難しいって事なのか、はたまた、単なる口ぐせなのだろうか・・・?

 





今日は火曜日(2021年11月30日)なので「仕事?」の日である。守叔父さんは、この後、「仕事?」の予定があるのかもしれない。

子供のように食べている理由は、午後の「仕事?」に戻るために急いでいるのかもしれないと思った。  そのため、私も急いでうどんを食べなければいけないのだろうか?

ゆっくりと話せるのはいつになるのだろうか?、次に会えるのは12月4日土曜日なのだろうか?

明日(水曜)〜金曜の間は何をやって時間を過ごそうかな・・・?と予定を考えていると、守叔父さんは、胸ポケットからスマホを取り出しながら、

 

「オレダケハ、イヤ ホントニ
ニヒャクマン、ニヒャクマン、
ズゥーット トッテタノニ、
アノ アンザイ カラガ ゼンブ オカネ 
トッテタモンナ、ヒドイヨ。
オレントコニ マッタク デンワ コナイノニ、
ヘンナ ショルイデサ、コレヲ ナントカシテ、ナントカッテ、
アイツ バカダヨネ。」
(俺だけは、いやホントに
200万、200万、
ズゥーっと取ってたのに、
あの安西からが全部お金
とってたもんな、ひどいよ。
俺んとこにまったく電話来ないのに、
変な書類でさ、これを何とかして、何とかって、
あいつはバカだよね。)



と言い出した。そして、スマホの画面を私に見せながら、

 

「ホラ、コンナノ オレンントコ
クルンダヨ、バカ ダヨネ。
ダカラ、オレカラ イツモ
ヒャク ナンマン、ヒャク ナンマン トッテテ、
イチネン クライ ヤッタトキニ、
ホラ、イチバンシタニ アルジャナイデスカ、
アンザイ」
(ほら、こんなの俺んとこ
来るんだよ、バカだよね。
だから、俺からいつも
100何万、100何万取ってて、
1年間位やったときに、)
ほら、一番下にあるじゃないですか、
安西)



と言った。

スマホの画面は、安西さんから届いた二通のショートメッセージであった。守叔父さんからスマホを借りて、そのメッセージを見せてもらった。

 

7月1日
「至急立替金のお振込みをお願いいたします。
立替金○○○○○○円です。下記の口座にお振込みをお願いいたします。
○○銀行○○支店口座番号○○安西逢子
2019年7月末日に貴殿代理人にもお伝えしました、立替金です。」


 

11月27日
「立替金○○○○○○円です。
下記の口座にお振込みをお願いいたします。
○○銀行○○支店口座番号○○安西逢子」



それらのメッセージから、守叔父さんは安西さんに対して十数万円の負債があるようだ。そして、それは2年以上前のものであることが分かった。

守叔父さんの口から出てきた言葉では、安西さんに「100何万、100何万」お金を取られたような言いぶりであるが、安西さんのメッセージでは、逆に安西さんに返さなければならない「十数万円」のお金があることになる。

また、守叔父さんには代理人がついていることもわかった。

代理人とは誰だろう? そして、その代理人に聞けば、トラブルの内容がわかるのだろうか?

(つづく)
 

2022年11月23日水曜日

「泣けない人」その40

 


40 、上京二日目.14


満面のニコニコ顔の守叔父さんと私は、うどん屋さんの列にならび、注文の順番待ちをしている。

壁に掛けられたポスターサイズの大きなメニューには、商品の写真とともに番号と商品名が書かれていた。守叔父さんは、そのメニューを見ながら、


 

「ナンバン?」
(何番?)



と聞いてきた。「ぶっかけ温玉うどん!」と答えた。すると、守叔父さんは、少し困ったような顔をしながら、メニューを指差した。その指は、どれだろう・・・?といった感じの迷い指の動きをしていた。そして、

 

「ドレ?」
(どれ?)



との言葉が返ってきた。「11、ぶっかけ温玉うどん」を指差しながら、「11番」と答えると、安堵の表情とともに、

 

「オッケー!」
(OK!)



との返事が返ってきた。「ナンバン?」と聞かれたのだから、素直に「11番」と答えればよいのだか、あえて「ぶっかけ温玉うどん!」と答えてみたのだった。

私の推測では、言語に何らかのトラブルを抱えているのだろうと考え、それを確かめるために、すこしイジワルな返事をしたのである。そして、その結果として、言葉の理解に若干の難がありそうなことが分かることとなった。

少し待つと先にいた4人のお客さんが、それぞれ商品を受け取り、私たちの順番が回ってきた。

守叔父さんは、

 

「ジュウバン ト ジュウイチバン!」

(10番と11番!)



と言いながら、人差し指で「1」を表現していた。


お代の支払いで、自分の分を支払おうと、千円札を守叔父さんへ渡そうとしたら、

 

「ダイジョウブ!」
(大丈夫!)



との言葉とともに手のひらを私に向けて横に振り、「要らない」というジェスチャーをした。

「オ、カ、ネ、ナ、イ・・・。」と言っていた守叔父さんに、ご馳走して貰うことになった。

 





一分少々待った後、商品を受け取った。 守叔父さんの注文した品は、きつねうどんであった。

そのきつねうどんを受け取る際の叔父さんの表情は、子供が大好物の食べ物を手に入れた時のような感じであり、心の底から嬉しがっている様子であった。

商品受け取り場所の隣のテーブルに、お箸やレンゲ(汁受け?)、爪楊枝、七味唐辛子などと共に、トッピング用の刻みネギが山盛り入ったドンブリがあった。 守叔父さんは、その刻みネギを指差して、

 

「タクサン、ダイジョウブ!」
(たくさん、大丈夫!)



と言い、私に多量の刻みネギをトッピングする事を勧めてくれた。

 





私が、トングで何度かネギを挟み移している短い時間のあいだに、守叔父さんはいつの間にか、居なくなっていた。周りを見渡し探してみると、すでに移動し、テーブル席へ着席していた。

流行り病のためか、お昼時より少し早いためか、フードコートのテーブル席の8割ほどは、空いていた。そのため、好きな場所を選んで座る事ができる状況であった。

しかし、守叔父さんの着席場所には少々問題があった。

おそらく、守叔父さんは、うどん屋さんから一番近い空席を選び着席したのだろうが、そのため、すぐ近くにもお客さんがいる席に座っていたのである。

流行り病のために、なるべく他の人との距離をとった方がよいとされるご時世、先に座って食事していたお客さんは、近寄って来た守叔父さんを少し嫌がっているようにみえた。

そのため、私は守叔父さんへ、他の人たちから少し離れた席に移動しようと促し、周りに人が居ない席に移動した。

対面して着席できたので、やっと、守叔父さんの表情を正面からじっくりと見ながら話せる状況となった。

あらためて挨拶し、のんびりと近況報告など、ゆっくり話をしようと思ったら、守叔父さんは、「イタダキマス」の言葉とともに箸で麺を摘まみ上げ、そして、フゥーと息をかけ食べ始めた。 

よほど、お腹が空いていたのか? それとも、大好物なのか・・・? その一連の行動は、子供が大好物の食べ物を目の前にして、待てずに食べだす様な感じであった。

そして、一口食べ終わった後、

 

「オイシイ!」
(おいしい!)



と言葉を発した。

着席からその言葉がでるまでの時間があまりにも短かったこと、そして、喜びながら食べている表情をみると、よっぽど美味しいのだろう! 

私も話をせずに、食べることにした。「いただきます!」と言ったあと、麺を一つまみ食べてみた。 関西風の透明なだしの味はたしかに美味しく、 守叔父さんの好物なのだろう!と理解できる味であった。

その後、何か足らないな・・・?と思いつつも、とりあえず、うどんを食べることにした。

(つづく)
 

2022年11月16日水曜日

「泣けない人」その39

 


39 、上京二日目.13

守叔父さんの歩きは、思いのほか速かった。その歩みは、遊園地において次の乗り物へ急ぐ子供のような感じであった。

エレベーターホールへ向かう途中で、私の方を振り返り、ニコニコした満面の笑みで、

 

「ココハ、オモシロイヨ!」
(ここは、面白いよ!)



と言った。ここのイトーヨーカドーは何か特別な店舗なのだろうか?と思いつつ、守叔父さんの後を追った。

守叔父さんの歩みは、エレベーターホールでは止まらず、その横の階段ホールへ進んで行った。そして、子供のごとき軽快なステップで、ポン、ポン、ポンと一段飛ばしで階段を駆け下りていった。

守叔父さんは、66歳! だいぶ前に赤色のちゃんちゃんこに袖を通した人である。その叔父さんが階段を一段飛ばしで走って降りてゆく!!!  非常に元気そうであり、快活そのものであった。

一階下のエレベーターホールに進み出ると、その先にはテーブルやイスがたくさん並んだフードコートが広がっていた。

グルメな叔父さんだと思っていたので、まさか、フードコートに連れて来るなんて、思いもしなかったが・・・。

ふと、一週間前(11月23日午前)の電話での言葉「オ、カ、ネ、ナ、イ・・・。」を思い出していた。

私は、特に好き嫌いがあるわけでなく、特別なグルメでもない。 今は、守叔父さんの様子をみることが主目的であるので、食べ物にこだわることもない。

クルマに乗った直後に守叔父さんの言っていた、

 

「オモシロイトコロニ イコウ。」
(面白いところに行こう。)

「ズゥーーット イッタトコロノ ヒダリニ、
イッパイ タベルモノガアルノ!」
(ずーーっと行ったところの左に、
いっぱい食べるものがあるの!)



とは、イトーヨーカドーのフードコートの事であったのだ。

たしかに、色々な種類の食べ物がある。 子供の頃ならば、楽しい場所の一つであろうが、・・・。

今は、守叔父さんの行動を細かく見る方が大切である。 特に要望したわけではないが、豊治叔父さんのアドバイスとおり「なるべく広くて見晴らしの良い落ち着けるところで食事でもしながら話しを聞いて下さい。」の状況となった。

フードコートを見渡すと、ハンバーガー店、丼物店、ステーキショップ、蕎麦屋さん、うどん屋さん、などがあり、計8店舗ほどの店が並んでいた。 

一足先に着いた守叔父さんは、店内案内図の手前で立ち止まり、私の方を振り返っていた。そして、その案内図を指差しながら、

 

「ココデ、ナニ、タベタイ?」
(ここで、何、食べたい?)



と聞いてきた。

その案内図には、それぞれの店名とそれぞれの食べ物の写真が掲載されていた。

私は、何でも良いな・・・。と思いながら、「何が良いかな・・・?」と相づちを打つと、守叔父さんは、

 

「オレハ、コウイウノ、イツモ タベタイノヨ!」
(俺は、こういうの、いつも食べたいのよ!)



と、うどんの写真を指差しながら言った。消化もよさそうだし、話をしながら食べるのにはもってこいの食べ物だと思ったので、同意することにした。

それにしても、あっさりと私の選択権は消失したな・・・。

もちろん、フードコートなので、好きなモノを、好きなお店で購入し、持ち寄って食事できる訳だが、あえて守叔父さんと同じモノを選び、日頃の食事を観察することにした。「それで、良いよ」と答えると、目をキラキラさせながら、

 

「イク?」
(行く?)



と再度、聞き返してきたので、「うどんで良いよ!」と答えた。すると、ニコッとした表情をした後、スタ、スタ、スタと歩きはじめた。

周りの店舗には目もくれず、それぞれの店舗の前を躊躇なく通り過ぎ、奥の方へ歩み進んで行った。その歩みから通い慣れた場所であることがよく分かった。

一番奥の店舗がうどん屋さんであった。 先に4人のお客さんが並んでおり、その列の後ろに二人とも並んだ。

守叔父さんは、立ち止まると共に、振り返り、パントマイムによってうどんを食べる様子をした。その後、

 

「ココ、オイシイ!」
(ここ、美味しい!)



と、笑みを浮かべながら言った。 うどん屋さんの壁に掛かったポスターサイズの大きなメニューには、番号と共に写真が並んでおり、きつねうどん、肉うどん、天ぷらうどん等、十数種類の商品があった。 必要に応じて、トッピングもプラスできるようだった。

守叔父さんは、一体、どのうどんを注文するのだろう・・・?

(つづく)
 

2022年11月9日水曜日

「泣けない人」その38

 


38 、上京二日目.12


守叔父さんは、目的地の大きな建物を指さしながら、

 

「アソコニ ホラ、イチバン ウエニ アルカラ、
アソコカラ、クルマデ ピューット イッタラ、
コノ ネダンデ、イチネン、ア、イチネンジャナイ、
アノ、イチマンエン クライカ、
ソウスルト、コレ マッタク オカネ トラレナイカラ。」
(あそこにほら、一番上にあるから、
あそこから、クルマでピューと行ったら、
この値段で、一年、あ、一年じゃない、
あの、一万円位か、
そうすると、これまったくお金取られないから。)



と言い出した。 どういうこと??? 「何?、 何?」と聞き返すと、軽くハンドルを叩くフリをしながら、


 

「コレハ、 ゴハン タベテ、アノ、マッ、
アノ ズーット シタヘ モドルト、
ゼンゼン、 オカネ トレナイ。」
(これ(この車)は、 ご飯食べて、あの、まっ、
あのずーっと下へ戻ると、
全然、お金取れない。)



と言い、説明し終わった様子で、

 

「イミ ワカル?」
(意味わかる?)



と聞いてきた。 私は、正直、何を言っているのかチンプンカンプンだったので、素直に、
「分かりません。」と答えた。 すると、

 

「イケバ、ワカル!」
(行けば分かる!)




との答えが返ってきた。行けば、分かる!ならば、行けば良いだけ!

その時の守叔父さんの口調は、これらの説明がさほど重要ではない様子だったので、聞き返すことはしなかった。

 





目的地の建物と車道の間には、車道よりも広そうな歩道があり、また、その歩道と建物の間には、植栽を伴う駐輪場もあった。

駐輪場の間を通り抜けて、建物内へ進入した。建物の周囲の環境は広々としているため、建物内もゆったりとしているのかな?と予想したが、その予想に反して、進入後はすぐにスロープがはじまった。そして、そのスロープは思いのほか急な上り坂であった。

その坂は軽自動車ならば、アクセルをかなり踏み込まねば登らないようなものであったが、守叔父さんのクルマはスイスイ登って行った。

駐車場は何層もあるようだったが、その一番最初のフロアーに空車ランプが光っていた。守叔父さんは、そのランプを指差し確認した後、「ダイジョウブ」との言葉とともに、入場券の発券機の横にクルマを一旦停止させた。

入場券を受け取ると、ゲートバーが上昇し、クルマを発進させて駐車場内へ入った。

11時15分頃の駐車場には、多くのクルマが既に停まっていたが、チラホラと空いた駐車エリアがあった。エレベータや階段近くの空きエリアを見つけ、その駐車エリアへ止めることとした。

全長の長い高級外車ならば、 立体駐車場の狭いエリアの中で、何度も前後しつつ切り返しをして駐車するものと思いきや、守叔父さんは、前後左右のクルマのそれぞれにギリギリ近づくものの、たった一度のバックで、その駐車場エリアへクルマをとめた。

クルマから降りて、左右の白線とのクルマの間隔を見てみると、ど真ん中にとまっていることがわかった。さすが!!

 

「守叔父さん! さすが、運転うまいね!」



と声を掛けた。すると、

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫!)



との返事が返ってきた。

大丈夫と言われたものの、なんだか、少し違和感を覚えた。

周囲を見回してみると、守叔父さんがクルマを止めたその駐車エリアは、身障者用のエリアであった。 その場所が、エレベータに近いのも納得できた。

他の場所にも空いているスペースがあったので、守叔父さんへ、

 

「ココは、身障者専用だよ! 別の場所にとめ直そう!」



と伝えたが、同じく。

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫!)



との返事が返ってきた。ベンツの不法駐車に関して、注意してくる者は居ないって事なのか? それとも、身障者専用の意味が分かっていないのだろうか・・・? 念のため、もう一度、

 

「身障者用だよ!」



と、言ったみたが、守叔父さんは、再度、

 

「ダイジョウブ!」
(大丈夫!)



との返事とともに、エレベーターの方向へ歩みを進めた。以前も、駐車禁止の場所に、平気でクルマを停めていた事もあったので、ルールから逸脱することに慣れっこなのだろうか・・・?と感じた。

エレベーターの横にライトアップされた建物のフロア毎の案内表示があった。その表示から、今居る場所はイトーヨーカドーの建物内であることがわかった。 

久しぶりに会った甥っ子との会食は、イトーヨーカドーの店内なのだろうか???
私に何を食べさせ、本人は何を食べたいと考えているのだろうか・・・?
 

そして、「ダイジョウブ!」と何度も繰り返して言っている事に意味があるのだろうか・・・?


(つづく)
 

2022年11月2日水曜日

「泣けない人」その37

 


37 、上京二日目.11

立体交差の高架道路を登り、そして降りると片側4車線、計8車線の広い道路へ出た。

都内を南北に走る基幹道路の一つだと思われる。のちに調べると、第一京浜であった。その道路を北上している。 

 





守叔父さんは、理解し難い話を続けている。

 

「イマハ、モウタイヘン!」
(今は、もう大変!)



と、言い出した。そして、

 

「ドウダトオモウ・・・、オレノオカネ?」
(どうだと思う・・・、俺のお金?)



と、言った。 お金の事をどう思うかと聞かれても、答えようが無いのだが・・・。 現在の守叔父さんの収入額を推測させたいのだろうか? と思いついたタイミングに、

 

「サンジュウマンシカナイ。」
(三十万しかない。)



と言いながら、少し情けなさそうにハッ、ハッ、ハッと笑い声をあげた。
続けて、

 

「ソンデ、クルマノトコロニ、ヒャクニジュウマン ヲ ハラッテサー、」
(そんで、クルマの所に、百二十万を払ってさー、)



言った。三十万の収入に対し、何らかの出費が百二十万円!!!???
一体どういうことだろう??? それは、本当に大変なことであることに間違いない!

そして、ボソッと

 

「タイヘンダヨナ!」
(大変だよな!)



と言った。私は、守叔父さんが、大きな金銭トラブルを抱えているかもしれないことに、たまらず、「どういうこと?」と質問を返した。すると、

 

「テドリガ、サンジュウマン デ、 オレノトコロニ クルジャン。
ツウチョウガネ、ソンナカニ、オレハ、ソコデ、イツモ、
ジュウニマン、ジュウニマン ッテ、ハラッテルンデス」
(手取りが、三十万で、俺のところに来るじゃん。
通帳がね、その中に、俺は、そこで、いつも、
十二万、十二万って、払ってるんです)



と答えた。相槌として、「車代を十二万払っているの!」と言うと、

 

「ソウ!、ソウスルト、ジュウニマンデ、ノコッタノガ、
ジュウハチマン クライシカ ナイジャン」
(そう!、そうすると、十二万で、残ったのが、
十八万位しかないじゃん)



と言った。「百二十万を払ってさー」とは、何だったのだろう?
手取りが30万円、車代が12万円、残りが18万円ならば、120万円は何のお金なのだろう・・・? 私の疑問は未だに解決していないが、守叔父さんは、説明し終えた表情をしていた。

守叔父さんは、続けて、首の後ろに手を回しながら、

 

「ココガ、カタクテ、ホラ、
カイロ、カイロ ニ マイニチ イッテルノ」
(ここが、固くて、ほら、
カイロ、カイロに毎日行ってるの) 



と言い出した。カイロプラクティックなどの整体に毎日通う必要があるのだろうか?と思っていると、

 

「ゲツヨウビ、ゲツヨウビ、ゲツヨウビ ト ズーット カヨッテイルノ。」
(月曜日、月曜日、月曜日、ずーっと通っているの。)


と言っている。毎週と言うところを、毎日と言い間違えたのだろうか? 確かに、週一通いならば、カイロプラクティックも納得できる。「毎週月曜日にカイロ行くの?」と聞き返すと、

 

「ソウ!」
(そう!)



との答えが返ってきた。
言葉遊びではなく、言葉の誤用なのだろう。
先ほどの、「120万円」は、「12万円」と言い間違えた事だったのだろうか・・・?

私の頭の中は、守叔父さんの言葉を反すうしつつ、その状況を少しずつ理解しつつあった。

 





第一京浜を北上し、大きな交差点を3つほど通り過ぎた後、守叔父さんは、左にウィンカーを入れて、左折レーンへ進み入れた。

道路標識は、左折がJR大森駅方面である事を示していた。

信号を左折し進むと、すぐに京急本線の高架下を通過した。その後、100mくらい進んだところで、再度、左ウィンカーを点滅させはじめた。

目的地に到着したらしい。歩道の先に大きな建物が見え、その建物の上階には立体駐車場があるようだ。

(つづく)