2022年11月9日水曜日

「泣けない人」その38

 


38 、上京二日目.12


守叔父さんは、目的地の大きな建物を指さしながら、

 

「アソコニ ホラ、イチバン ウエニ アルカラ、
アソコカラ、クルマデ ピューット イッタラ、
コノ ネダンデ、イチネン、ア、イチネンジャナイ、
アノ、イチマンエン クライカ、
ソウスルト、コレ マッタク オカネ トラレナイカラ。」
(あそこにほら、一番上にあるから、
あそこから、クルマでピューと行ったら、
この値段で、一年、あ、一年じゃない、
あの、一万円位か、
そうすると、これまったくお金取られないから。)



と言い出した。 どういうこと??? 「何?、 何?」と聞き返すと、軽くハンドルを叩くフリをしながら、


 

「コレハ、 ゴハン タベテ、アノ、マッ、
アノ ズーット シタヘ モドルト、
ゼンゼン、 オカネ トレナイ。」
(これ(この車)は、 ご飯食べて、あの、まっ、
あのずーっと下へ戻ると、
全然、お金取れない。)



と言い、説明し終わった様子で、

 

「イミ ワカル?」
(意味わかる?)



と聞いてきた。 私は、正直、何を言っているのかチンプンカンプンだったので、素直に、
「分かりません。」と答えた。 すると、

 

「イケバ、ワカル!」
(行けば分かる!)




との答えが返ってきた。行けば、分かる!ならば、行けば良いだけ!

その時の守叔父さんの口調は、これらの説明がさほど重要ではない様子だったので、聞き返すことはしなかった。

 





目的地の建物と車道の間には、車道よりも広そうな歩道があり、また、その歩道と建物の間には、植栽を伴う駐輪場もあった。

駐輪場の間を通り抜けて、建物内へ進入した。建物の周囲の環境は広々としているため、建物内もゆったりとしているのかな?と予想したが、その予想に反して、進入後はすぐにスロープがはじまった。そして、そのスロープは思いのほか急な上り坂であった。

その坂は軽自動車ならば、アクセルをかなり踏み込まねば登らないようなものであったが、守叔父さんのクルマはスイスイ登って行った。

駐車場は何層もあるようだったが、その一番最初のフロアーに空車ランプが光っていた。守叔父さんは、そのランプを指差し確認した後、「ダイジョウブ」との言葉とともに、入場券の発券機の横にクルマを一旦停止させた。

入場券を受け取ると、ゲートバーが上昇し、クルマを発進させて駐車場内へ入った。

11時15分頃の駐車場には、多くのクルマが既に停まっていたが、チラホラと空いた駐車エリアがあった。エレベータや階段近くの空きエリアを見つけ、その駐車エリアへ止めることとした。

全長の長い高級外車ならば、 立体駐車場の狭いエリアの中で、何度も前後しつつ切り返しをして駐車するものと思いきや、守叔父さんは、前後左右のクルマのそれぞれにギリギリ近づくものの、たった一度のバックで、その駐車場エリアへクルマをとめた。

クルマから降りて、左右の白線とのクルマの間隔を見てみると、ど真ん中にとまっていることがわかった。さすが!!

 

「守叔父さん! さすが、運転うまいね!」



と声を掛けた。すると、

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫!)



との返事が返ってきた。

大丈夫と言われたものの、なんだか、少し違和感を覚えた。

周囲を見回してみると、守叔父さんがクルマを止めたその駐車エリアは、身障者用のエリアであった。 その場所が、エレベータに近いのも納得できた。

他の場所にも空いているスペースがあったので、守叔父さんへ、

 

「ココは、身障者専用だよ! 別の場所にとめ直そう!」



と伝えたが、同じく。

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫!)



との返事が返ってきた。ベンツの不法駐車に関して、注意してくる者は居ないって事なのか? それとも、身障者専用の意味が分かっていないのだろうか・・・? 念のため、もう一度、

 

「身障者用だよ!」



と、言ったみたが、守叔父さんは、再度、

 

「ダイジョウブ!」
(大丈夫!)



との返事とともに、エレベーターの方向へ歩みを進めた。以前も、駐車禁止の場所に、平気でクルマを停めていた事もあったので、ルールから逸脱することに慣れっこなのだろうか・・・?と感じた。

エレベーターの横にライトアップされた建物のフロア毎の案内表示があった。その表示から、今居る場所はイトーヨーカドーの建物内であることがわかった。 

久しぶりに会った甥っ子との会食は、イトーヨーカドーの店内なのだろうか???
私に何を食べさせ、本人は何を食べたいと考えているのだろうか・・・?
 

そして、「ダイジョウブ!」と何度も繰り返して言っている事に意味があるのだろうか・・・?


(つづく)
 

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