32 、上京二日目.6
宿に戻り、守叔父さんの到着を待つこととした。
あえて、一旦部屋まで戻る事とした。
守叔父さんの車移動時間(空港〜宿)は約20分で、自分の徒歩移動(駅前〜宿)が10分のため、宿前で待つのは10分程度となる。
10分位ならば、部屋に戻らずとも宿前で待てば良いと言われるかもしれないが、部屋に戻ったのは念のための行動であり、守叔父さんの来訪状況を観察するためである。
部屋にはベランダがあり、宿前の道路を一望できる。そのおかげで、守叔父さんがどんな車で来るかを近づくことなく安全に確認できる。
守叔父さんの自宅前にとまっていた車での到来ならば問題無いが、別の車でやって来た場合は、注意が必要だと考えている。
また、一人で来るのかどうかの確認も必要である。 仮に他の人と一緒に来た場合は、「拉致・監禁」の監視役の可能性があると考えなければならない。
頭の片隅に、「安全が確認できなければ、簡単には近づけない!」と意識する必要があることを忘れずに行動しなければならない。
部屋に戻り、冷蔵庫で冷やしておいたペットボトルの水をグラスに注ぎ、往復20分弱の徒歩移動で少し渇いたのどを、ゆっくり潤した。
時間つぶしにテレビをつけて、何か面白そうな映像は無いかな・・・?とチャンネルをザッピングしていると、思いのほか早く電話が掛かってきた。
まさか、まだ着いていないだろう! どこかで迷っているのかな・・・?と思いながら電話に出た。
「ツイタヨ!」
(着いたよ!)
との守叔父さんの言葉が返ってきた。
慌ててベランダに出て、下を覗くと、そこには、シルバーのベンツが停まっていた。ナンバープレートは見えないが、叔父さんの家前の駐車場にあった車で間違いないだろう。フロントガラスの内側にサンシェードを広げられていた車は、ちゃんと動くものであったようだ。
なぜ、時季外れにサンシェードを広げて駐車していたのだろう・・・?と思いながら、
「今から下に降ります。」
と返事をし、部屋を出て、一階へ降りることにした。
宿の出入口ドアガラス越しに、その車に乗った守叔父さんの顔が見えた。後席もスモークガラスではなく、車中に他の同乗者がいない事がわかった。 また、通りの左右を見て、車の周辺に人影の無い事と、同行車のない事を確認した。
守叔父さんの単独の来訪であり、「拉致・監禁」等に関しては、問題がなさそうである事が確認できたので、 外に出て、ゆっくりと車に近づいた。
私に気付いた守叔父さんは、ニコッとしながら軽く手を振ってくれた。
念のためナンバープレートをチラ見すると、叔父さんのマンション駐車場にとまっていたものと同じ番号であった。
駐車場にとまっている際には見えなかった車の後部の様子を見ても、パッと見てわかるような傷や凹みはなく、年式は古いものの綺麗な状態の車であり、洗車も行き届いていた。
車の見た目から判断すると、守叔父さんの運転には問題が無さそうである。
「拉致・監禁」でないとするならば、認知症か何かの病気を患っている可能性を疑うことになる。
認知症を患っている人がトラブルを起こさずに、車を所有し、管理し、そして、運転ができるのだろうか・・・?
目の前に停まっている車、笑顔の守叔父さんの両方を見て、短い時間の観察・分析の結果として、豊治叔父さんの心配は不要だったのではないかとさえ感じた。
豊治叔父さんから「認知症の可能性がある」、「何らかのトラブルに巻き込まれている可能性がある」、「会社の乗っ取り騒ぎがあった」、「盗聴、盗撮の可能性がある」、「拉致・監禁の可能性」などのいろいろな可能性を聞かされていたわけだが、無事に迎えに来てくれたこと、守叔父さんの笑顔、そして、綺麗な車を目の前にすると、どれも当たっていないようにも思われる。
(つづく)