2023年10月25日水曜日

「泣けない人」その82

 


82 、上京三日目.24

浮島通り(国道409号)を海に向かって走っている。この先に浮島IC(首都高速湾岸線)があり、その付近に目的地の浮島町公園がある。

しばらくして、「目的地周辺に到着しました。」とスマホのナビが告げた。

浮島ICに最も近い交差点において、赤信号で停車しているときであった。 

周囲を見回したが、「駐車場」の案内標識は見つからなかった。

公園には駐車場があるだろうと、私自身が勝手に思い込んでいたのが間違いだった。 

浮島町公園には、残念ながら駐車場が無かったのである。

交差点を直進すると、そのまま高速道路に入ってしまうため、 

 

「ヒコウキハ ダメ! ヒコウキハ ダメ!」
(飛行機はダメ! 飛行機はダメ!)



と守おじさんがプチパニックになってしまった。

仕方なく路側帯に停車し、信号が変わるのを待った。信号が変わるとUターンして、今来た道を逆に戻ることになった。 

まさか、駐車場が無いとは・・・。

(後日、近隣に有料駐車場があることを知った。事前の下調べが足らなかったことを反省することになった。)

浮島町公園に行かずとも、他にも飛行機が良く見える場所があるかもしれないと考え、守おじさんにその旨を伝え、見晴らしの良さそうな場所を探すことにした。

たまたまではあるが、多摩川の河川堤防の近くに出た。堤防に上れば対岸が羽田空港である。

交通の邪魔にならない場所にクルマを停め、歩いて河川堤防へ上った。

 



予想通り多摩川の対岸に羽田空港が見えた。

多摩川の川幅の分だけ離れているため、昨日の城南島海浜公園に比べて、飛行機を大きく見ることができなく、迫力がなかった。 

数機の着陸を見ることができたが、イマイチだったので帰ることにした。 

 



空港を背にして、クルマに向かって歩き始めた直後、何らかの遠くの喧噪が徐々に近づいてくるような感じがした。

振り返ると、その音の正体は、近づいてくる飛行機であった。

離陸直後の飛行機のようで、徐々に高度が上がってきた。 慌ててカメラの電源をONにして撮影した。

 

 


まさか、ほぼ真上を飛行機が通過するとは!

予期していなかったので、「ラッキー!」と感じた。

守おじさんも、

 

「キタ! キタ! キターーー!」
(来た! 来た! 来たーーー!)



と声をあげつつ、目を丸くして喜んでいた。 

もう少し待てば、また頭上を飛行機が通過するかもしれないが、思いがけない飛来に一度だけで満足できたので、そのまま、帰ることにした。

堤防から戻る途中、守おじさんのクルマを後ろから撮影した。 クルマを
後ろからしっかりと見たのは初めてであった。

 


撮影後、見直してみても、擦り傷や凹みなどがなく、綺麗なクルマであることがわかった。
年式は古いが、無事故、無修理のクルマなのだろう!

(つづく)
 

2023年10月18日水曜日

「泣けない人」その81

 

 


81 、上京三日目.23

「かっこ良くて、ピコピコ、パチンパチンするものとは何?」から導き出された「パチンコ」について、守おじさんは何を言いたいのだろうか?

 

 

「パチンコがどうしたの?」



と聞くと、

守おじさんは、目の前を走行している大きなトラックを指差しながら、

 

「カッコイイネ!
オレモ、コウイウノ、
デッカイノ
ヤッテタ!
デッカイノ!」
(カッコいいね!
俺も、こう言うの、
デッカイの
やってた!)



と言った。以前、運送業を営んでいた頃の話のようだった。

 

「ピコピコスルヤツヲ、
アアイウノデ、ゼンブ
スクッテ、
ソレヲ ココカラ
ゼンブ ツメテ
ズゥーットイッテ」
「ピコピコするやつを、
ああ言うので、全部
掬って、
それを ここから
全部積めて、
ずぅーっと行って)



と言った。

「パチンコ台」を大型トラックに積載し、東京から青森へ運んだという事を言っているようだ。そして、

 

「ヨカッタ!
イッテ、キテ、
120マンクライカナ。」
(良かった!
行って、来て、
120万位かな。)



と話が続いた。 「パチンコ台」の運送で120万円を稼いだということが言いたかったようだった。

たったの一回の運送で、120万円の運送料を稼ぐ事ができるのだろうか・・・?と、私はいぶかしく思ったが、守おじさんの表情は笑顔で、良い思い出の一つのようだった。

「凄いだろう!」といった誇らしげな感情も含まれていたので、嘘では無いのだろう。

パチンコ業界のお金の価値は、他の業界とは違うのだろうか・・・?

 



守おじさんは、運転中にもかかわらず、片手で何らかのジェスチャーをはじめた。

腰の近くに左手を持っていき手首を振りながら、

 

「パチン、パチン、
ワカル?」
(パチン、パチン、
分かる?)



と聞いてきた。 「パチンコ」と同じく「パチン、パチン」と言っているが、「パチンコ」ではなさそうだった。

何だろう?と考えていると、守おじさんは、同じジェスチャーを繰り返していた。なんだか、ムチでお尻を叩いている事を表現しているみたいだった。

「パチン、パチン」の声とともに腰の近くで手首を振った後、次に、左手を本人の顔の前に出し、指揮者が指揮をするような仕草をしていた。細かく例えると、4拍子ではなく2拍子の指揮の仕草であった。そして、また、「パチン、パチン」を繰り返す。

 

「ワカル?」



と聞かれても、何だろう・・・?  守おじさんがもう一度繰り返したときに、指揮者との違いに気が付いた。

手の動きに合わせて、頭も前後し、体も前後に動いていた。何らかの一定のリズムに合わせて動いているようだった。

私は、頭の中で、その体の動きをイメージしてみた。そして、「競馬のジョッキー」のジェスチャーではないかと思い、

 

「競馬?」



と聞いてみると、

 

「ソウ、ソウ、
オレモ、ムカシカラ、
15マンエンクライシカ モラエナカッタケド、
ソノトニ(競馬)イッテ、
100マントカ、280マントカ、
イツモイッテマシテ、
カッコイイデショ!
オカネアルトキ、リリィチャント、
ソウイウ オミセニ イッテタノ。」
(そう、そう、
俺も、昔から、
15万円位しか貰えなかったけど、
その時に(競馬)行って、
100万とか、280万とか、
いつも行ってまして、
カッコいいでしょ!
お金あるとき、リリィちゃんと
そう言うお店に行ってたの。」


と言った。

守おじさんの月収が15万円位の頃、競馬で何度か大勝ちした事があったようだ。

100万円以上の配当金を得るには、仮に万馬券を当てたとしても、最低でも一口1万円以上の賭け金が必要である。280万円ならば3万円ほどの賭け金となる。

手取りの月収が15万円の者が、そのような賭け事ができたのだろうか・・・?  ギャンブル依存だったのだろうか・・・?

守おじさんの話は、「ああ言う」「こう言う」「そう言う」などの言葉が多用され、理解に苦しんだ。

「そう言うお店」とは具体的にはどんなお店の事なのだろうか・・・?

 

「そう言うお店って何?」



聞き直してみたが、

 

「ワカラナイ」
(分からない)



との条件反射的に答えが返ってきた。 直前に本人の言った言葉の説明ができないのはなぜだろう・・・?

その後も、お金に関わる話が続いた。 そして、昨日と同じ「お金を騙し取られた話」を聞かされることになった。

(つづく)
 

2023年10月11日水曜日

「泣けない人」その80


 

80 、上京三日目.22

浮島町公園へ向かう車内。

「マスク」を正しく装着している守おじさん。

 流行り病の対策はどうなのだろう?

 

「流行り病のワクチン注射は受けたの?」



と質問した。守叔父さんの返事は、

 

「ワカラナイナ」
(分からない)



であった。私が 注射を打つ真似をしながら、肩の辺りの注射する場所を指し示すと、

 

「ココニ ツクヤツ?」
(ココに付くやつ?)



と肩を触りながら、注射が嫌いだというジェスチャーとともに、

 

「ヤッテナイ。」
(やってない。)



との返事が返ってきた。  

ワクチンの有効性の有無に関係なく、「注射嫌い」でワクチンを打たない人もいるだろうと納得できるが、「ここに打つ」ではなく、「ここに付く」という表現は何なのだろうか・・・?

 



しばらくして、守おじさんが、
 

「ニホンノ イチバンウエ、
ワカル?」
(日本の一番上、
分かる?)



と聞いてきた。

 

「一番上?」




上と言っても、高いところではなく、北の事だろうと思い、

 

「北海道?」




と伝えたが、違うらしい。 何が言いたいのだろう・・・?

 

「北方領土、北方四島?」



と伝えてみたが、違うようだ。 本州で最北端かな?

 

「青森?」


 

「ソウ、ソウ!
ソコ、ソコ!」
(そう、そう!
そこ、そこ!)



そして、続けて、
 

「ピコピコ、
パチンパチン 
スルヤツ。
チョウ カッコイイヤツ!
ワカル?」
(ピコピコ、
パチンパチン
するやつ。
超かっこいいやつ!
分かる?)


と言った。

「かっこ良く」て、「ピコピコ」「パチンパチン」するものとは何だろう? 

三つのヒントで何が導き出されるだろうか? 分からなかったので、素直に、

 

「分からない。」

 


と答えた。すると、守おじさんがジェスチャーをはじめた。

一見すると、ドアのハンドルを回すような仕草ではあるが、手首の角度が違っていた。

手のひらを前方に向けて、指先を丸め、時計回りに回転させるものであった。

「パチンコ」を打っている時の右手の動きのように見えたが、 「パチンコ」がかっこ良いのだろうか・・・? 

「ピコピコ」ではなく、「ピカピカ」ならば納得できるのだが・・・。 

「パチンパチン」と言っているので、さすがに「パチンコ」ではないだろうな・・・と思いつつ、

 

「パチンコ?」



と答えると、

 

「ソウ、ソウ!」
(そう、そう!)



との答えが返ってきた。 本人が「パチンパチン」と言っているのに、「パチンコ」という言葉が出てこないのはなぜだろう・・・?

(つづく)


余談ですが・・・。

試しに、マイクロソフトWindows 11の新機能 AI「Microsoft Copilot(プレビュー)」

「かっこ良くて、ピコピコ、パチンパチンするものとは何」

と質問してみました。

以下、Microsoft Copilot(プレビュー)の回答

「かっこ良くて、ピコピコ、パチンパチンするものとは何と聞かれても、答えに困りますね。😅

私は、指パッチンというものを思い浮かべました。指パッチンとは、親指と中指をこすり合わせて音を鳴らすことです。指パッチンはフィンガースナップとも呼ばれ、音楽やマジックなどで使われることがあります。1

指パッチンのやり方は、中指を少し曲げて親指に押し付け、中指を手のひらに向かって弾くようにすることです。音が出るのは、中指が手のひらに当たった時に空気が弾かれるからです。2

指パッチンで大きな音を鳴らすには、薬指も一緒に弾くと良いと言われています。また、手のひらの形や大きさも影響するので、自分に合った方法を見つけることが大切です。3

指パッチンは簡単そうに見えますが、実際にはコツが必要です。上手にできるようになると、かっこ良くてピコピコ、パチンパチンするものになるかもしれませんね。😊」

以上
 

2023年10月4日水曜日

「泣けない人」その79

 


79 、上京三日目.21


帰路の車中。

守叔父さんが、

 

「ドコカ ヨリタイトコ アル?」
(どこか寄りたいとこ(所)ある?)



と聞いてくれたので、

 

「飛行機の見えるところ、
浮島町公園へ行きたい!」



と伝えた。 昨日の城南島海浜公園が楽しかったからなのだろうか、守叔父さんは笑顔で、

 

「オッケー!」



と即答してくれた。

浮島町公園は、飛行機の撮影おすすめポイントの一つであり、多摩川の南岸の河口付近にある。 羽田空港に着陸する飛行機を真横から見ることができる場所である。 

横浜方面から宿へ戻る途中に立ち寄るのに都合の良い場所だろうと考えた。

昨日同様に飛行機の撮影を楽しめるだろう!

 



ルート案内は、スマホのナビに任せて公園を目指した。

ナビを設定すると今朝通った道を逆に戻る “ような” ルートの案内がはじまった。

ナビの音声ガイドを聞きながら、守叔父さんが、

 

「ソレ、ヒコウキニ ノルヤツ?」
(それ、飛行機に乗るやつ?)



と聞いてきた。 「飛行機に乗るやつ」とはなんだろう?と思っていたら、

 

「クルマ デショ!
ヒコウキハ ダメ!」
(クルマでしょ!
飛行機はダメ!)



と守叔父さんが言った。 

飛行機の見える公園へ行く事は「オッケー!」なのに、「飛行機はダメ!」と言っている。

守叔父さんは何を私に伝えたいのだろう???

 



ナビの道路案内は、最短時間の経路が選ばれており高速道路を使うルートを案内していた。

ナビの案内どおりに進んでいると、守叔父さんが前方の「何か」に気が付いたらしく、指を指した。

指した方向の先には、高速道路インターへの案内標識があった。

その標識を指差して、

 

「ヒコウキハ ダメ!」
(飛行機はダメ!)



と言った。守叔父さんの言葉「飛行機」とは、「高速道路(有料道路)」を意味していた。

「高速道路はダメ!」と言ってくれれば良いのに・・・。 守叔父さんは変な事を言うな・・・。

一般道でも、たいして時間は変わらないだろう! 

ナビの設定を変えようとスマホをいじっていると、信号待ちのタイミングで、守叔父さんが、

 

「ナンゼンエン ハラッテ キタノ?」
(何千円払って来たの?)



と言いながら、紙幣を渡そうとしてきた。 突然の申し出に、私は少し躊躇し、申し出を断る術を考えながら、

 

「俺、タカリ屋みたいじゃん!
要らないよ!」



と伝えた。断ったものの、守叔父さんから再度、

 

「ハイ、ドウゾ!」
(はい、どうぞ!)



と、笑顔とともに両手を添えて差し出されたので、仕方なく、

 

「ありがとう」



と感謝の言葉を伝え、そのお金を受け取ることにした。 

渡された紙幣は、千円札で2枚。 「何千円払って来たの?」の言葉のとおり、千円単位の紙幣であった。

昨日、私が飛行機で鹿児島から来たことを伝えたが・・・。 二千円では飛行機には乗れないのだけど・・・。

守叔父さんは、私がどこから来たと考えているのだろう・・・? 

金銭的な事が理解できないのだろうか? それとも、私が鹿児島から来ていることを覚えていないのだろうか? 

下手に高額なお金を受け取らずに済んで良かったと思いながらも、守叔父さんが金銭的な事を正しく理解できなくなっているのかもしれないという疑問が増えたことに戸惑いを感じていた。

食事代、駐車場代、自動販売機でのお金の使い方、支払いはできているのにな・・・。 思い過ごしであれば良いなと考えていた。

(つづく)