78 、上京三日目.20
ランドマークタワーの展望台で観覧を終えた後、地下駐車場に向かっている。
守叔父さんの発した言葉「クルマが歩いてる」は、マイペースに歩く守叔父さんの後について歩いていくうちに、いつの間にか忘却していた。
翌日、「歩いてる」の言葉の意味が分かることになるが、その時までは他の記憶に埋もれていることになった。
ふと、豊治叔父さんやめぐみ叔母さんからのリクエスト「健康状態の確認」を思い出した。
ここまでのところ、守叔父さんの「身体の外観、動き」、「食欲」、「飲み薬の有無」などから身体的な病気を患っているようには見えなかったが、「健康状態の確認」の一環として、守叔父さんに対して、
「健康診断受けてる?」
と聞いてみた。
周囲の雑音は少なく、私の声は正しく届いていると思うが、守叔父さんは頭を少し傾げるのみで返事が無かった。もう一度、
「一年に一回受ける定期健康診断だよ。
健康診断を受けてないの?」
と聞き直してみたが、質問の意味が通じないような感じであり、明確な返答は無かった。
「はい / いいえ」のどちらかで答えられる質問なのに、なぜ、答えないのだろうか?
流行り対策のためマスクは、昨日、今日とも、キチンと装着していることから推察すると、健康には気をつけているようではあるが、、、。
「健康診断」の意味が分からないのかな?と考えていると、
「マンナカハ イイヨナ!
スエッコハ ダメ!」
(真ん中は良いよな!
末っ子はダメ!)
と、昨日も聞いた同じセリフが返ってきた。
「真ん中」とは、私の事を指すのだろうが、私の何が良いのだろう? そして、
「タノシカッタ、
アリガトウ!」
(楽しかった、
ありがとう!)
と、不意にお礼の言葉を聞くことになった。
本来、私が言うべき言葉だと思うし、今は言うタイミングでもないだろう。 守叔父に言われてしまったので、慌てて、
「叔父さん、ありがとう!
楽しかった!」
と伝えることになった。 別れ際ではないので、なんだか変な気持ちになったが、お礼の言葉は何度も言っても良いだろう!と考え直した。
「健康診断の受診有無」について聞き出すことができなかった。