90 、上京四日目.1
目覚まし時計をセットせずに就寝したため、のんびりとした新しい朝を迎えた。
昨夜のめぐみ叔母さんとの会話のおかげで、精神的に一つの区切りが付いたようで、ぐっすりと寝ることができた。
緊張感が抜けてきたのだろうか、昨朝より二時間遅れの7時前の起床となった。
スマホの画面で現在の時刻を確認すると、めぐみ叔母さんからのメッセージが4つも届いていた。
昨夜の就寝後1時間位に届いたようだが、全く気づかなかった。
メッセージの内容は、昨夜、私がめぐみ叔母さん宛に送信した写真に対しての質問、感想であった。
二枚の写真を送信していた。一枚目は守叔父さんの自宅外観写真、二枚目は守叔父さんから見せてもらった女性の写真である。
朝の挨拶とともに、まとめてメッセージを送ることにした。
「めぐみ叔母さま
こんにちは、おはようございます(^_^)/
鉄筋コンクリート製の低層タイプ。家賃12万と言われれば、妥当な金額だと思います。
引き戸(スライディングドア)は、二つずつありますね!
なので、2Kまたは、1LDKの間取りかな?と想像しています。
守おじさんから見せてもらった写真(紙)をスマホで再撮影したものです。
写真そのものは、私に見せるために準備していたのか?車の中にずっと積載していた物な
のかは区別できてません。ただ、撮影日が6年前のものなので、
車内にずっと積んでいると、若干の色褪せがあっても良いと思うのですが、
綺麗な発色のものであったので、僕に見せるために持ってきたのかも
知れませんね。もし、もと彼女さんの写真を見せたいなら、今日も別のもの見せてくれる
かもしれませんね。
では、朝食の買い出しにチョット出てきます。」
2021/12/2(木) 6:57
メッセージを送信すると空腹を感じた。
「一晩寝かせたカレー」は美味しいと言うけれど、朝食として食べる気分とはならなかったので、朝食の買いだしに出かけた。
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コンビニで調達した朝食を済ませたのち、シャワーを浴びて着替えをして外出の準備を済ませた。
守叔父さんからの連絡は何時にくるだろう?
昨朝は、守叔父さんの家への朝駆けに失敗し、無駄に近所を歩き回ることになった。
今朝は同じ事を繰り返したくなかったので、宿で待機することにした。
部屋でボ〜っとしながら待つのは退屈なので、宿の外階段を使って、最上階へ上がってみる事にし、守叔父さんからの連絡が入ったら、いつでも出かけられるような状態で待つことにした。
最上階ならば、飛行機が見られるかもしれないと思ったからだ。
最上階は遠くまで視界が開けており、東京スカイツリーも確認できた。 空を見わたすと昨日同様、ほとんど雲のない晴天であった。
羽田空港の方向を見ると予想通り飛行機が飛んでいるのを見つけることができた。
カメラを向けて撮影しはじめてすぐに、メッセージ着信音が鳴った。
「終りました。
10時にはおっけいです。」
2021/12/2(木) 9:04
すでに、守叔父さんは仕事を終えたようである。
「早いです❕
待ってます☀」
2021/12/2(木) 9:12
「ありがとう☺」
2021/12/2(木) 9:13
昨日の様にならないよう、待ち合わせ場所が宿であることの確認のため、居場所を伝えることにした。
「今、ホテルの最上階で飛行機を見てます!
ちょっと小さいけど(^_^)/」
2021/12/2(木) 9:16
「OK」のスタンプ(絵文字)
2021/12/2(木) 9:20
9時50分ごろ、宿の玄関へ行き、クルマの到着を待つことにした。
待ち始めてすぐに、通りの向こうから守叔父さんのクルマが現れた。
助手席側のパワーウィンドウが下がり、「おはよう!」との声と共にニコニコした守叔父さんの笑顔が見えた。
私は、「お邪魔します!」と声を掛けながら、ドアを開けてクルマに乗り込んだ。
今日は、どこへ行くのだろう?
昨日、守叔父さんは羽田空港を指差しながら「コンド、イコウヨ!」と言っていた。今日、羽田空港へ行くのだろうか?
どこに行くのか説明の無い状態で、クルマはゆっくりと発進した。
羽田空港の方角は東であるが、クルマは現在のところ西方へ進んでいる。
第一京浜(国道15号線)に突き当たると、左折して南方へ進んだ。
右手前方に京急蒲田駅が見えた。駅前をそのまま通り過ぎて、少し進むと大きな交差点があった。(環状八号線:東京都道311号と交わる交差点)
その交差点は、南北方向に地下バイパスがあり、そこへ進めば信号機がなくて進めるようになっていた。
羽田空港を目指すならば、地下バイパスには進まず、この交差点を左折すればよい。
守叔父さんは、左折することなく直進してその地下バイパスの方へクルマを進めた。 行き先は羽田空港ではなさそうだ。
地下バイパスへ入るとすぐに、渋滞のためクルマが止まった。
バイパス内では、直前のクルマが小型乗用車であったため、前方の視界は広く、遠くまで一望でき、クルマがたくさん並んでいるのが見えた。
「混んでるね!」
と私が伝えると、守叔父さんが、前方を見ながら、
「ア・ル・イ・テ・ル」
と言った。私は、その言葉に対して、
「歩いてる?」
と心の中で、復唱していた。 そして、周囲に「人」がいるかどうかを確認した。
しかし、守叔父さんの視線方向の先や、クルマの周囲など、前後左右をみわたしたものの、私の視界の範囲には、「歩いている人」は見つけられなかった。
立体交差の地下バイパスであり、自動車やバイク以外は通行できないところであるため、路肩に歩道はなかった。
登り坂の先は見えていない状態であり、限られた視界の中での話である。
守叔父さんには、私には見えないものが見えているのだろうか・・・?
幽霊か人魂か何らかのものが歩いているのだろうか・・・?
少し、背中がゾクゾクするのを感じた。
そして、ほどなくして、前のクルマが動き出し渋滞が解消した。
守叔父さんは、クルマを進めながら、
「ホ・ラッ!」
と言った。
何に対して、「ホ・ラッ!」と言ったのだろう・・・?
「俺の言った通りだろう!」といった感じの優越感の漂った言葉であった。
「ア・ル・イ・テ・ル」と「ホ・ラッ!」に何らかの関係がありそうだが、その時には分からなかった。
(つづく)