2023年6月28日水曜日

「泣けない人」その68 

 


68 、上京三日目.10


右手に海を見ながら山下公園通り(横浜市主要地方道82号山下本牧磯子線)を進んでいる。 立派なイチョウ並木であり、「横浜にキターーー!」と思わせてくれる風景の一つである。

その後、クイーン(横浜三塔:横浜税関)のある交差点を右折して、国際大通り(横浜港臨港幹線道路)へ進んだ。

視界がパッと広がると、左手にランドマークタワーが、そびえ立っているのがドカンと見え、右前方には赤レンガ倉庫が見えた。

この先の交差点には楕円形の歩道橋(新港サークルウォーク)があり、その先の交差点付近に目的地のよこはまコスモワールドがある。

守叔父さんは、赤レンガ倉庫交差点を左折して、斜め左方向へ進んだ。

次の交差点(万国橋)で右折レーンに入った。右前方の建物を指差し、

 

「ココイコ!」
(ここ行こ!)



と言った。 その建物は横浜ワールドポーターズであった。交差点角には特徴的なカラフルなからくり時計のカリヨン時計がある。

信号が青に変わり、右折して進むと、ワールドポーターズの駐車場に入った。駐車場内に入るとすぐに、

 

「キョウ、ツイテルネ!」
(今日、ついてるね!)



と守叔父さんは言った。「ツイテル」とはどういう意味だろう? ”幸運” と言う意味だろうか? 駐車場に入ってすぐにラッキーな事があるのだろうか?

とりあえず、

 

「そうだね!」



と返事をした。すると、

 

「チュウシャジョウハ、
ココニテレビアルネ!」
(駐車場は、
ココにテレビあるね!)



と守叔父さんは言った。私は周りを見渡したが、テレビなどのモニター類などは見つからなかった。何を見て、テレビが有ると言ったのだろう??? 「ツイテル」と共に意味不明な言葉が続いた。

場内には、空いた駐車スペースがすぐに見つかり、無事に駐車することができた。 
 




ワールドポーターズ内で、食事をするようだ。

1階のグルメ&ファンタスティックワールドをぐるりと一周したものの、守叔父さんが納得するお店は無いようだった。

飲食店は、別のフロアにもあるので、エスカレーターを探した。

エスカレーターに乗ってフロア移動の間に、昔の話をしようと思った。 そのきっかけとして

 

「(守叔父さんは、)以前、
中野に住んでたよね!」



と私は話しかけた。

 

「ナカノ?」
(中野?)



守叔父さんの返事は、なんだかピンときてない様子だった。 私は続けて、

 

「中野ブロードウェイに
連れて行ってもらった事、
憶えているよ!」



と話したが、守叔父さんの顔には反応がなく、憶えていないようだった。

話をしている間に、2階〜4階を通過して、5階のエンターテイメント&グルメワールドに着いた。

フロアをぐるりと一周した後、「とんかつ かつ楽」の前で立ちどまり、

 

「ココデ、イイ?」
(ココで、良い?)



と守叔父さんが聞いてきたので、「良いね!」と返事をして、店内へ入った。
 




オススメランチメニューから守叔父さんと同じ物を選ぶことにした。

呼び鈴のボタンを押し、店員の来るのを待った。

店員さんが来ると、守叔父さんは、メニューの写真を指差して、

 

「コレ、フタツ!」
(これ、二つ!)



と伝え、続けて、

 

「コレ、オイシイデスヨネ?」
(これ、美味しいですよね?)



と質問気味に、店員さんに話しかけた。

店員さんは、予期せぬ質問の言葉に対して、不意討ちを喰らったような表情となった。

さすがに、大手を振って「美味しいです!」とは、答えにくいようで、少しだけ、間があった後、「アッ、ハイ!」と肯定的に返事をしてくれた。 

守叔父さんは、その店員さんの肯定的な答えに対して満足そうな顔をした。

私は、守叔父さんが店員さんに対して、答えにくい事を質問したことに、少しだけ驚かされた。

(つづく)
 

2023年6月21日水曜日

「泣けない人」その67 

 


67 、上京三日目.9

産業道路を南下している途中、大黒線バイパス入口交差点を左折して、海岸方面へ進んだ。

しばらくすると、正面に特徴的な建造物が目に入った。

二本の巨大な橋脚のそびえ立つ横浜ベイブリッジとその横にある大黒ふ頭の大きなロータリーである。

大黒ふ頭から横浜ベイブリッジを経由して、本牧ふ頭側へ渡るようだ!

 


ベイブリッジからの眺めは、「横浜にキターーー!」って感じさせてくれるものである。

ヨットの帆の形状をしたインターコンチネンタルホテルや超高層ビルであるランドマークタワーなどのビル群がそう思わせるものであった。

そして、今日は、それらのみならず、それらの背後に輪郭のハッキリした富士山が見えた。 そのあまりの綺麗さに、私は思わず、

 

「富士山が見える! 凄く綺麗に見えるよ!」



と声を発してしまった。運転中の守叔父さんも、少しよそ見をして富士山を見つけると、

 

「キレイ! キレイ!」
(綺麗! 綺麗!)



と言った。

守叔父さんは、言葉を発すると同時に、クルマのハンドルを両手の手首から肘の辺りで押さえつけながら、自由になった指先で富士山の形を描くようなジェスチャーをした。

 

「今朝、雨が降ったから空気が澄んでるんだね! 
こんなに富士山が近くに見えることなんて初めての経験だよ!」



と伝えた、すると、再度、

 

「キレイ! キレイ!」
(綺麗! 綺麗!)



と言いながら、指先で富士山の形を描いていた。 なぜか、守叔父さんの口から「フジサン」という言葉はでてこなかった。

 



相変わらず、運転は的確である。道順にも迷いがない。 

 

「守叔父さんは、道に詳しいね!」


と伝えると、

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫)



との返事が返ってきた。

道路標識からクルマは横浜元町方面に向かっていることがわかった。目的地が変わった様子はない。

 

「テンキガ、ウエカラ
ドンドン オチテクル。
スゴイネ!」
(天気が、上から
ドンドン落ちてくる。
スゴイね!)



と守叔父さんが言い出した。 何だろう?? 意味が分からないが、とにかく、肯定的な返事が必要だろうと、

 

「スゴイね!」



と相槌をうった。 すると、

 

「ソウ!、ソウ!」
(そう!、そう!)



と満足そうな笑顔を返してくれた。「天気が落ちてくる。」とは何だったのだろう?

 



クルマは、山下公園、氷川丸の横を通り過ぎようとしている。

すると、守叔父さんは、公園の方面を指差しながら、

 

「ココモネ、フネガ アル。
コンシュウノ ニチヨウビ、
チョット イッテミル?」
(ココもね、船がある。
今週の日曜日、
ちょっと行ってみる?)



と言った。

 

「おじちゃんの行きたい所で良いよ!」



と伝えると、守叔父さんは、

 

「オレ、ゼンゼン、
ドコモ イッテナカッタカラ、
アンタハ、イイヤ、
マンナカダカラ!
マンナカノコハ ヨイヨ!
チョウナンモ スキデナイ!」
(俺、全然、
どこも行ってなかったから、
あんたは、良いや、
真ん中だから!
真ん中の子は良いよ!
長男も好きでない!)



と言った。私は、

 

「親に感謝しなきゃ、好きで真ん中ではないから!」



と、すこし嫌味っぽく答えた。守叔父さんは、屈託のない笑顔で、

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」



と笑って応えてくれた。私の嫌味の含まれた言葉は、全然伝わっていないようだった。

(つづく)
 

2023年6月14日水曜日

「泣けない人」その66 

 


66 、上京三日目.8


「女の子」「メキシコ」「ついている」という言葉は何を意味するのだろう・・・?

誰なのか?、どこなのか?、特に「ついている」とは何なのだろう・・・?

 

「女の子って誰の事?」



と聞き返してみたものの、守叔父さんは説明ができない様子で、

 

「ワカラナイ」
(分からない)



と返事をした。同じ質問を繰り返して聞いたけれど、再度「ワカラナイ」との返事だった。

運転中につき、これ以上困惑させるのは危険なような気がするので、追及することはやめた。 食事の際に、続きを聞くことはできるだろう。

少し気まずい空気が漂うつつ、次に守叔父さんが発した言葉は、

 

「イマノ、オトウサンハ、チョウジョ?」
(今のお父さんは、長女?)



であった。 

一体、何を言い出すのだろう!!!!??? 
もしも、私と守叔父さんの会話を他の人が聞いていたら、どう思っただろうか。

私は、至って普通の家庭で育った。 普通の家族とは曖昧な言葉であるけれど・・・。

特別に複雑な家庭環境で育ったわけではない。 父母が同性カップルであるわけでもなく、LGBTQ的な問題もない。 そのため、父は男性であり、母は女性である。

また、私の父母は離婚歴や再婚歴などはない。そのため、当然のことながら、私に継父・継母などもいない。

守叔父さんは、私が誰であるのか分かってないのだろうか?  と少し不安になった。

単純に言い間違えたのだろうということにして、

 

 

「父は、長男だよ!、姉が二人いるから三番目だけどね。」

 

 

と返事をした。 すると、

 

「スエッコハ、ダメダヨネ!
リリィチャンハ ヨカッタ!」
(末っ子は、ダメだよね!
リリィちゃんは良かった!)



と言い出した。 昨日も同じ事を言っていた。彼女と別れたことが悲しい事を伝えたいのだろうか? 父は、四人兄弟姉妹の第三子であるため、末っ子ではない。

それにしても、末っ子がダメって、守叔父さん本人は7人兄弟の末っ子である。 自分が末っ子なのに、末っ子はダメって言う。 すると、

 

「オレ、スエッコ、
ダカラ、ダメ!」
(俺、末っ子、
だから、ダメ!)



と続けて言った。 昨日も同様に、守叔父さん本人の続柄が末っ子だから、自分はダメなんだというようなセリフを言っていた。 自分のダメな事を責任転嫁しているようにしか聞こえないので、少し嫌な感じがした。

たしかに、続柄によって特徴があり、性格が違うかもしれない。 そして、性格が違う分、他人との相性の良し悪しがあるかもしれない。

それであっても、続柄が末っ子だからダメと言う理由にはならない。 などと考えていると、守叔父さんが、

 

「チョウナン ハ  アワナイ!」
(長男は合わない!)



と言った。 私は長男なので、

 

「僕、長男だよ!」



と答えた。すると、守叔父さんは、

 

「アンタ、マンナカ! ウエ、イル。
マンナカ ハ イイ。アンタ、ヤサシイ!」
(あんた、真ん中! 上、いる。
真ん中は良い。あんた、優しい!)



と守叔父さんは答えてくれた。 

私には姉と弟がいる。長男ではあるけれど第一子ではないし、末っ子でもない。 

守叔父さんは、私に姉と弟がいることは分かっているようなので、私の事が誰であるかも理解しているのだろう。 昨日も、遠くから(鹿児島から)来ている事を理解していた。

守叔父さんは、第一子の長男とは相性が合わないということを言いたかったようだ。

(つづく)
 

2023年6月7日水曜日

「泣けない人」その65 

 


65 、上京三日目.7


横浜へ向かっている車中。 

昼食で、何を食べるかについての話をしていた。

 

「和、洋、中なら、和かな、和食が良いね!」



と伝えた。 すると、

 

「ナンダロウ? ワカラナイ
ソンナノガアルノ?
カッコイイナ!」
(何だろう? 分からない
そんなのがあるの?
カッコいいな!)



と守叔父さんが言った。 食事の種類を「カッコいいな!」と言うことに違和感を感じた。 

昨日と同じようにおかしな事を言っている。 昼食は、行き先で店選びをすれば良いだろうと思い、追及しなかった。

 





乗車直後から、LINEの着信音が何度となく鳴ったのは気付いていたが、守叔父さんとの会話を優先していたため、誰からの着信なのかを確認せずに後回しにしていた。

少し、会話が止まったタイミングで着信音が再び鳴ったので、ポケットからスマホを取り出し、誰からのメッセージなのかを確認した。

メッセージは、めぐみ叔母さんからの写真であった。めぐみ叔母さんはメキシコ旅行中であり、何枚かの現地の写真を選びつつ送信してくれたようだった。最後の写真には、めぐみ叔母さんとマイケル叔父さん夫婦の二人が写っていた。

守叔父さんから、

 

「ダレカラ?」
(誰から?)



と聞いてきたので、「めぐみ叔母さんからだよ!」と伝えると、

 

「メグミッテ、ダレ?」
(めぐみって、誰?)



との返事が返ってきた。誰と言われても、守叔父さんの実姉であり、私の母の実妹である。兄弟姉妹の事がわからないのだろうか? どう返事しようと悩んでいると、

 

「オレノ スグ ウエノ ヒト? ダレ?」
(俺のすぐ上の人? 誰?)



と守叔父さんが言った。 ちょうど、信号でクルマが止まったので、二人の写った写真を見せることにした。すると、

 

「アァ、アァ、アァ、アァ、
オトコトオンナネ!」
(あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、
男と女ね!)



と理解したような返答ではあったが、「姉さん夫婦」と言う言葉ではなく、「男と女」という表現には戸惑ってしまった。

その後、守叔父さんは、写真を指差しながら、

 

「オレ ココニハ サンカイ クライ イッタカラ!」
(俺、ここに三回位、行ったから!)



と言いだした。 守叔父さんがシアトル(米国)に何度か行ったことは知っているが、二人が写っている写真だけでは、その写真がどこで撮られたものなのかはわからない。

シアトルではないことを知らせるために、

 

「これ、メキシコなんだって」



と伝えると、

 

「オンナノコガ、メキシコニ、ツイテイルモンネ!」
(女の子が、メキシコに、ついているもんね!)


と守叔父さんが返事をした。「女の子」とは誰だろう? 「ついている」とは何だろう・・・?

またまた、おかしな事を守叔父さんが言いだした。

(つづく)