2023年6月21日水曜日

「泣けない人」その67 

 


67 、上京三日目.9

産業道路を南下している途中、大黒線バイパス入口交差点を左折して、海岸方面へ進んだ。

しばらくすると、正面に特徴的な建造物が目に入った。

二本の巨大な橋脚のそびえ立つ横浜ベイブリッジとその横にある大黒ふ頭の大きなロータリーである。

大黒ふ頭から横浜ベイブリッジを経由して、本牧ふ頭側へ渡るようだ!

 


ベイブリッジからの眺めは、「横浜にキターーー!」って感じさせてくれるものである。

ヨットの帆の形状をしたインターコンチネンタルホテルや超高層ビルであるランドマークタワーなどのビル群がそう思わせるものであった。

そして、今日は、それらのみならず、それらの背後に輪郭のハッキリした富士山が見えた。 そのあまりの綺麗さに、私は思わず、

 

「富士山が見える! 凄く綺麗に見えるよ!」



と声を発してしまった。運転中の守叔父さんも、少しよそ見をして富士山を見つけると、

 

「キレイ! キレイ!」
(綺麗! 綺麗!)



と言った。

守叔父さんは、言葉を発すると同時に、クルマのハンドルを両手の手首から肘の辺りで押さえつけながら、自由になった指先で富士山の形を描くようなジェスチャーをした。

 

「今朝、雨が降ったから空気が澄んでるんだね! 
こんなに富士山が近くに見えることなんて初めての経験だよ!」



と伝えた、すると、再度、

 

「キレイ! キレイ!」
(綺麗! 綺麗!)



と言いながら、指先で富士山の形を描いていた。 なぜか、守叔父さんの口から「フジサン」という言葉はでてこなかった。

 



相変わらず、運転は的確である。道順にも迷いがない。 

 

「守叔父さんは、道に詳しいね!」


と伝えると、

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫)



との返事が返ってきた。

道路標識からクルマは横浜元町方面に向かっていることがわかった。目的地が変わった様子はない。

 

「テンキガ、ウエカラ
ドンドン オチテクル。
スゴイネ!」
(天気が、上から
ドンドン落ちてくる。
スゴイね!)



と守叔父さんが言い出した。 何だろう?? 意味が分からないが、とにかく、肯定的な返事が必要だろうと、

 

「スゴイね!」



と相槌をうった。 すると、

 

「ソウ!、ソウ!」
(そう!、そう!)



と満足そうな笑顔を返してくれた。「天気が落ちてくる。」とは何だったのだろう?

 



クルマは、山下公園、氷川丸の横を通り過ぎようとしている。

すると、守叔父さんは、公園の方面を指差しながら、

 

「ココモネ、フネガ アル。
コンシュウノ ニチヨウビ、
チョット イッテミル?」
(ココもね、船がある。
今週の日曜日、
ちょっと行ってみる?)



と言った。

 

「おじちゃんの行きたい所で良いよ!」



と伝えると、守叔父さんは、

 

「オレ、ゼンゼン、
ドコモ イッテナカッタカラ、
アンタハ、イイヤ、
マンナカダカラ!
マンナカノコハ ヨイヨ!
チョウナンモ スキデナイ!」
(俺、全然、
どこも行ってなかったから、
あんたは、良いや、
真ん中だから!
真ん中の子は良いよ!
長男も好きでない!)



と言った。私は、

 

「親に感謝しなきゃ、好きで真ん中ではないから!」



と、すこし嫌味っぽく答えた。守叔父さんは、屈託のない笑顔で、

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」



と笑って応えてくれた。私の嫌味の含まれた言葉は、全然伝わっていないようだった。

(つづく)
 

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