2023年12月27日水曜日

「泣けない人」その87

 


87 、上京三日目.29

私は、カレーを煮込み続けながら、豊治叔父さんから届いたメッセージについて考えていた。

私の報告を読み、豊治叔父さんはどう思い、どの様に考えたのだろう?

そして、どの様な気持ちで、返答メッセージを送ったのだろうか?

豊治叔父さんは、弟(守叔父さん)の「”脳”力」が落ちている事を認めたくない心情を吐露しているのかもしれないと考えると、納得できるものであった。

還暦を過ぎた大人に対して、「学び」云々を指摘する必要は無いだろう。

弟が「認知症」である可能性を否定したいという気持ちが出ることは、当然のことで自然だろう。

 





この二日間で、守叔父さんの言語に対する「”脳”力」に問題があることを私は理解した「つもり」でいる。 

理解したと言うより、問題があることに気が付いただけかもしれないが・・・。 

そして、その原因が何かを究明することが必要であろうと考えはじめている。

豊治叔父さん、めぐみ叔母さんに対して、私の現状の報告がうまく伝わることを望んでいる。

もし、正しく伝われば、両人とも、私に対して、守叔父さんを病院へ連れて行って欲しいと要望するだろう。 そして、医者の診断を仰ぐことになるだろう。

病院へ行き、検査や診察を受ける事によって、診断結果がでる。

その診断結果は、「認知症」となるかもしれない。

などと考えながらも、あえて、文頭に「つもり」という言葉を使ったのには、理由があった。

 





私の頭の中では、私の考えは正しいと思う一方、私の考えが間違っていれば良いなとの「自己否定的な考え」とが葛藤していた。

この自分の葛藤は、豊治叔父さんからの返答メッセージから導きだした心情と同様のものかもしれないと感じた。 

守叔父さんは「認知症」でなく「正常」であり、遊び心で、私をからかい続けていると考えたい、もう一人の自分がいることに気付かされた。

つまり、「認知症」的な演技・振る舞いをし続けて、私を欺いているかもしれない。 

その様に考えることによって、私の心を「楽」しようと無意識で考えていたのかもしれない。

 

 





「病院に行くから病気になるんだよ!」 と言う人がいる。

確かに、外傷などは、そのキズを負った瞬間に発症するが、病気は、その発症のタイミングが分かりづらいものも多い。

病院において医師より病名を伝えられた時点で、病気となる(病気と確定される)ので、「病院に行くから病気になるんだよ!」 も、間違いではないかもしれない。

私は、守叔父さんを病院に連れていく事を少し躊躇している自分が居るかもしれない。

そして、その「自己否定的な考え」を払拭するための情報が自分の頭の中にないかどうか探しはじめた。

そして、その情報を豊治叔父さんへ追加メッセージとして伝える事が必要だと考えた。

伝えるべきことが思い浮かび、いざ、メッセージを 書きはじめたタイミングで、豊治叔父さんから、もう一通のメッセージが届いた。


「又、守叔父が土曜日に会う相手の素
生も調べれる必要が有りそうですね」
2021/12/01 17:16



豊治叔父さんの指摘どおりであるが、今の段階で相手の素性が調べられるのだろうか?

「自宅が盗聴されているかもしれないから気をつけろ!」と豊治叔父さんに言われている以上、安易に守叔父さんの周辺の人に接することはできないし・・・。 

人間関係を調べる事は、慎重にやらなければならない。 

土曜日までに、その下準備ができるだろうか・・・? 

とりあえず、守叔父さんの「認知症」かどうかに判断に関わらず、必要な作業であるが、「次の次の段階」の指示と捉える事にした。

今の段階では、守叔父さん本人の健康状態を確認をする事が最優先される。

その次は、生活環境の確認。

そして、その次が人間関係の調査だろう。

 





メッセージを書いて、豊治叔父さんに送信した。


 

「成田、運、は常識の範囲の文字だと
思います。それが、読めないとい
う、識字認知能力が落ちていると推
察しています。 あと、人の名前
が、出てきません。 私の名も、姉
由美子、弟甘次もでてきません。 た
またま、めぐみ叔母さまからマイク
とのツーショットの写真が送られ
てきたので、それを見せたところ、
知ってる男、知ってる女、女は私の
姉。との事、 めぐみと言う名は出
てきませんでした。」
2021/12/01 17:45



ふと、母の父である正(ただし)爺ちゃんと守叔父さんの事が共通点として、気付いたことがあったので、続けて、病的な可能性について指摘するメッセージを送信した。 

 

「軽い脳梗塞があるかもしれません
ね。 そういえば、顔の揺れが少な
くなっているかも。 以前は、正
祖父の手の揺れのように、守叔父さ
まは、頭が左右に揺れてたのです
が、昨日今日と気付きませんでし
た。 明日、もう少し気を付けて観
察します。(^_^)/
2021/12/01 17:53



とりあえず、本日の豊治叔父さんへの報告は終了した。

さて、カレーの煮込み具合はどうだろう? 

確認してみると、もう少し煮込んだほうが良さそうな状態であった。

(つづく)
 

2023年12月20日水曜日

「泣けない人」その86

 


86 、上京三日目.28

カレーを煮込みはじめた。 赤ワインの香りがほんのりと漂いはじめた。

あとは、ほぼ出来上がりを待つだけ!

 

ある程度煮込んだら、「ルー」を投入。そして、また煮込むだけ!

時間が経てば、おのずとカレーは完成する。

煮込んでいる間に、豊治叔父さんとめぐみ叔母さんへの報告のための文書を書き始めた。

 





しばらくすると、無事に報告を書き終えることができた。

カレーを作る事に集中したおかげで、頭の整理ができていたので、文書作成は思いのほか早く終わった。

まず、豊治叔父へメッセージを送信した。  めぐみ叔母さんへは、叔母さんから、何らかの連絡が来た時に送信しようと考えた。 なぜなら、現在の米国の時刻は、真夜中の1時過ぎだからである。 おそらく、めぐみ叔母さんは、起床後すぐに、連絡をくれるだろうと考えた。

 

「豊治叔父さま お疲れ様です(^-^)/
甘太郎です。 

今朝、豊治叔父さまとの電話の直後に、
守叔父さまから電話が入りました。

仕事が早く終わったとの事で、
ホテルの下にいると言われてしまい。。。
慌てました。

どうにか合流し、横浜のみなとみら
いへドライブ、昼食、
ランドマークタワー展望台訪問。

富士山が最高にきれいでした。 

といった感じの遊びとなりました。

 本筋の話としては、空間的な認知能力の
低下はあまり見られない。 運転ができたり、
みなとみらいの建物内を歩き回って
目的地へ向かう。 駐車場の車を探したり。

若干の記憶違いはあっても、
日常生活には問題ない感じです。
 
しかし、言語に問題が多いかもしれません。
 
読めない漢字がいくつかありました。
 
成田ナンバーを見て、はねだと読み、 
はねだって、どこだっけ?って
質問されました。

千葉だよって答えるとそうなんだ。
という返答が帰ってきました。

運という字も、なんて読むんだっけ? 
って感じなので、
識字能力がダイブ落ちているのは
間違いなさそうですね。 

食事の勘定の際、割引券を
なにかお持ちじゃないですか?との問いに、
分からないと答えてましたし。。。 
昨日今日と、”分からない”と言う言葉を
発する回数が多いように感じます。

 年金の状況、新型コロナの予防接種のこと、
いくつか質問に対して、”分からない”との
返答が帰ってきました。 

明日も、仕事が早く終わったら、迎え
に来てくれるとの事なので、じっくり、
状況把握に努めたいと思います。」
2021/12/01 17:04




メッセージを送信した後、カレーの煮込み具合を確認した。 「ルー」を投入しても良さそうだ!

 

「ルー」と投入し、ゆっくりかき混ぜた。 後は、弱火で煮込むのみ!

その後、豊治叔父さんからの返事が届くのを待つ間に、「スパイカメラ」「ボイスレコーダー」のデータ確認をし、バッテリの充電など、機材のメンテナンスをした。

10分程すると、豊治叔父さんからの返事が届いた。

 

「以前から本を読めと言って来ました。
テレビも新聞も見ないでは自分から

情報を得られません。

 

だから他人の説明に乗せられてしまうのです。

 

読めない字は調べれば良いのです。

 

タブレット端末やスマホを持っているのならば

調べるのは簡単です。」

2021/12/01 17:14


豊治叔父さんの見解として、「成田」という文字が読めない理由は、守おじさんが本を読まず、テレビ、新聞を見ないからだという事になる。

読書などの「学び」が足りないから「成田」が読めない。
ホントにそんな日本人がいるのだろうか・・・? 

戦前・戦後の生まれに関わらず、父・母より若い世代の人で、「成田」を読めない国民がどれだけいるだろう・・・? 

義務教育を受けてさえいれば、ほぼ100%の人々は「成田」が読めると思う!

「成」は小学4年生で、「田」は小学1年生で学ぶ文字であり、ともに常用漢字であるし・・・。

日本を代表する空の玄関口である「成田空港」を知らない人もほとんどいないだろう!

仮に、「成田」などの地名の漢字が読めないとすると、守おじさんは運送業を営むことが出来たのだろうか?

荷物を運ぶのには、地名を読まなければならない。

様々な荷物を運んできた実績を考えると、「成田」は読むことができたと考えた方が妥当だろう。

そのため、以前は読めた文字であるが、現在は読めないと考えた方がよいと思われる。

私としては、守おじさんの「”脳”力」が落ちている事をメッセージで伝えたつもりであったが、・・・。

豊治叔父さんは、本当に「学び」に原因があると考えているのだろうか・・・?

(つづく)
 

2023年12月13日水曜日

「泣けない人」その85

 


85 、上京三日目.27
 

守叔父さんを見送った後、私は宿のロビーに入り、この後に何をしようかな?と思案しはじめた。

豊治叔父さんや、めぐみ叔母さんへの現状報告の連絡を入れる事以外には、特にやることがない。 

明朝になって、守叔父さんからの連絡が入るまでは、ある意味では自由な時間である。

外はまだ、十分に明るいし、このタイミングで直接、部屋に戻るとその後の外出が億劫になるかもしれないし・・・。

そのため、夕食までは、まだまだ時間があるが、とりあえず、今夜の夕飯を考えることにした。

「外食」にするか、「コンビニ食」か、それとも、「自炊」するか?

いつまで、東京に滞在することになるのか未定の状態で、外食を続けるにはお金の心配もあるし、コンビニ食は健康を考えるとなるべく避けたい。

昨日と比べ、疲労は溜まらなかった感じがし、自炊する余裕がありそうに感じたので、自炊することを選択した。

昨日は、叔父さんの一挙手一投足や表情を細かく観察する事に資力をフル活用したため、疲労困憊であったが、今日は、昨日に比べると無理せずに、時の流れに身を任せる自分がいたようだった。

 





夕食どきまでは時間がたっぷりあるので、時間をかけた料理ができる!

フロントで、調理用具や食器類を借りる事にした。

宿には、簡単な料理なら出来るキッチンがある。

シンクはもちろん、一口の電磁調理コンロ、電子レンジ、小型とは言え製氷もできる冷凍冷蔵庫も備えられている。

宿から200m位のところにスーパーがあり、生鮮食料品も買える!

 





部屋に戻り休憩することなく、そのまま、買い物に出かけることにした。

お店に入って、野菜コーナーへ行くと、鹿児島の地元スーパーでは見かけないものが目に留まった。

それは、複数の異なる種類の野菜が袋詰めされている商品であった。

透明なビニール袋の中には、「じゃがいも」「玉ねぎ」「ニンジン」が入っており、カレーライスやシチューを作るための「野菜セット」であった。

迷わずに、その「野菜セット」を一袋、買い物かごに入れた。

その袋を見つけたことにより、ほぼ自動的に献立が決まることとなったのである。

メニューは、「カレーライス!」に決定!

他に必要なものは、「カレーのルー」「お肉」

カレーの料理は、適当にカットして、後はのんびり煮込むだけ!

気分転換や時間潰しになるだろう!

料理中と食事中に、それぞれ飲むために缶ビールを2本買い、宿に戻った。

その後、実際に食事をしながら気付くのだが、カレーライスの添え物の「らっきょう」「福神漬け」を購入することを忘れていた。

 





小さなキッチンであり、かつ、限られた道具のため、日頃とは勝手が違い、手順や方法を工夫しつつ料理を進めた。

一種のパズルゲームを解くような感じでの作業での料理であった。 

料理に集中することによって、自然と今日一日に起きた事象について、頭の中で勝手に整理されていった。

 





守叔父さんの状態は、昨日と今日と大きく変わらず、他人(私)を欺いているような不自然さもなく、終始一貫マイペースであったな・・・。

そのため、守叔父さんが、なんらかの脅迫を受けているとは考えられないし、隠し事がある様にも思えなかったな・・・。

 





野菜と肉が程よく炒められたので、昨夕購入した赤ワインの残りを使って煮込む事にした。

そうすれば風味の高いものとなるだろう!

(つづく)