77 、上京三日目.19
展望フロアを一周し、ふたたび、横浜港を見下ろす場所に戻ってきた。
守叔父さんは、遠くの方で「何か」を見つけたようだった。
私の肉眼では、守叔父さんの見つけたものが「何か」分からなかった。
守叔父さんは指差して方向を教えた後、ジェスチャーをはじめた。
手のひらを下に向けたまま、肘を曲げて手をベルトの横におき、そこから腕を伸ばして手を斜め上に挙げるというものであった。 何回か同じような動きをしていた。
何だろう?と思いながら、守叔父さんの指差す方向にカメラを向け、ファインダーを覗き、拡大してみた。
すると、そこには数機の飛行機が確認でき、上昇中であることも分かった。
守叔父さんは、飛行機が羽田空港から離陸する様子をジェスチャーしていたのであった。
「飛行機が飛んでいる。」と言ってくれれば良いのに、ジェスチャーで表現するのはなぜだろう・・・?
ファインダーを覗きながら写真を撮影していると、横にいる守叔父さんが、
「アルイテル」
(歩いてる)
とつぶやいた。
展望フロアの69階から見下ろせば、眼下には人がたくさんいるだろう。そして、誰かが歩いていると思う。
守叔父さんは目が良いな・・・。と思った。
私の視力では、300メートル以上離れたところにいる人が、歩いているかどうかの判別はできないだろう。
私はカメラのファインダーから目を離して、守叔父さんがどこにいる人を見て、歩いていると言っているのだろうかと確認した。
守叔父さんが「歩いてる」と言いながら見ている方向は横浜港、海の方向であった。
海の上を歩いている???
「どこ?」
と聞くと、守叔父さんは指差してくれた。その方向には、大きな船が海に浮かんでいた。
望遠レンズで船名を確認すると日本を代表する豪華客船である「飛鳥Ⅱ」であった。その「飛鳥Ⅱ」を指差しながら「歩いている」と言ったのであった。
船上のデッキを歩いている人でも見えているのかな・・・? 望遠レンズでも確認できないのにな・・・。変なことを言う叔父さんだな・・・。と思ったけれど、この時はさほど気に留めずに言い間違いのたぐいなのだろうと聞き流していた。
しばらく観覧した後、下りのエレベーターに乗った。
エレベーター内で、
「富士山、綺麗だったね!」
と伝えると、
「ヨカッタネ!」
(良かったね!)
との返事が返ってきただけで、ここでも「フジサン」という言葉は戻ってこなかった。
来たときの道順を逆に戻り、駐車場へ向かった。
途中、「クイーンズスクエア」のコンコースで4階から1階へ移動するエスカレーターに乗った。 守叔父さんは、その時に、
「ヨンコダネ!」
(4個だね!)
と言った。 何が4個なのだろうか・・・?
そして、続けて、
「イッショウケンメイ、
クルマガ アルイテル。」
(一生懸命、
クルマが歩いてる。)
と言った。 「クルマが歩いてる。」とは何だろう・・・? 先程も船を見ながら「歩いてる」と言ったけどな・・・。
不思議な事を言う守叔父さんである。
(つづく)
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