2023年10月18日水曜日

「泣けない人」その81

 

 


81 、上京三日目.23

「かっこ良くて、ピコピコ、パチンパチンするものとは何?」から導き出された「パチンコ」について、守おじさんは何を言いたいのだろうか?

 

 

「パチンコがどうしたの?」



と聞くと、

守おじさんは、目の前を走行している大きなトラックを指差しながら、

 

「カッコイイネ!
オレモ、コウイウノ、
デッカイノ
ヤッテタ!
デッカイノ!」
(カッコいいね!
俺も、こう言うの、
デッカイの
やってた!)



と言った。以前、運送業を営んでいた頃の話のようだった。

 

「ピコピコスルヤツヲ、
アアイウノデ、ゼンブ
スクッテ、
ソレヲ ココカラ
ゼンブ ツメテ
ズゥーットイッテ」
「ピコピコするやつを、
ああ言うので、全部
掬って、
それを ここから
全部積めて、
ずぅーっと行って)



と言った。

「パチンコ台」を大型トラックに積載し、東京から青森へ運んだという事を言っているようだ。そして、

 

「ヨカッタ!
イッテ、キテ、
120マンクライカナ。」
(良かった!
行って、来て、
120万位かな。)



と話が続いた。 「パチンコ台」の運送で120万円を稼いだということが言いたかったようだった。

たったの一回の運送で、120万円の運送料を稼ぐ事ができるのだろうか・・・?と、私はいぶかしく思ったが、守おじさんの表情は笑顔で、良い思い出の一つのようだった。

「凄いだろう!」といった誇らしげな感情も含まれていたので、嘘では無いのだろう。

パチンコ業界のお金の価値は、他の業界とは違うのだろうか・・・?

 



守おじさんは、運転中にもかかわらず、片手で何らかのジェスチャーをはじめた。

腰の近くに左手を持っていき手首を振りながら、

 

「パチン、パチン、
ワカル?」
(パチン、パチン、
分かる?)



と聞いてきた。 「パチンコ」と同じく「パチン、パチン」と言っているが、「パチンコ」ではなさそうだった。

何だろう?と考えていると、守おじさんは、同じジェスチャーを繰り返していた。なんだか、ムチでお尻を叩いている事を表現しているみたいだった。

「パチン、パチン」の声とともに腰の近くで手首を振った後、次に、左手を本人の顔の前に出し、指揮者が指揮をするような仕草をしていた。細かく例えると、4拍子ではなく2拍子の指揮の仕草であった。そして、また、「パチン、パチン」を繰り返す。

 

「ワカル?」



と聞かれても、何だろう・・・?  守おじさんがもう一度繰り返したときに、指揮者との違いに気が付いた。

手の動きに合わせて、頭も前後し、体も前後に動いていた。何らかの一定のリズムに合わせて動いているようだった。

私は、頭の中で、その体の動きをイメージしてみた。そして、「競馬のジョッキー」のジェスチャーではないかと思い、

 

「競馬?」



と聞いてみると、

 

「ソウ、ソウ、
オレモ、ムカシカラ、
15マンエンクライシカ モラエナカッタケド、
ソノトニ(競馬)イッテ、
100マントカ、280マントカ、
イツモイッテマシテ、
カッコイイデショ!
オカネアルトキ、リリィチャント、
ソウイウ オミセニ イッテタノ。」
(そう、そう、
俺も、昔から、
15万円位しか貰えなかったけど、
その時に(競馬)行って、
100万とか、280万とか、
いつも行ってまして、
カッコいいでしょ!
お金あるとき、リリィちゃんと
そう言うお店に行ってたの。」


と言った。

守おじさんの月収が15万円位の頃、競馬で何度か大勝ちした事があったようだ。

100万円以上の配当金を得るには、仮に万馬券を当てたとしても、最低でも一口1万円以上の賭け金が必要である。280万円ならば3万円ほどの賭け金となる。

手取りの月収が15万円の者が、そのような賭け事ができたのだろうか・・・?  ギャンブル依存だったのだろうか・・・?

守おじさんの話は、「ああ言う」「こう言う」「そう言う」などの言葉が多用され、理解に苦しんだ。

「そう言うお店」とは具体的にはどんなお店の事なのだろうか・・・?

 

「そう言うお店って何?」



聞き直してみたが、

 

「ワカラナイ」
(分からない)



との条件反射的に答えが返ってきた。 直前に本人の言った言葉の説明ができないのはなぜだろう・・・?

その後も、お金に関わる話が続いた。 そして、昨日と同じ「お金を騙し取られた話」を聞かされることになった。

(つづく)
 

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