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2023年4月26日水曜日

「泣けない人」その60

 


60 、上京三日目.2

日曜日に会うつもりでいたのに、「11時30分には、行きます。」との守叔父さんの返事には、面喰い、そして戸惑いを感じた。

昨日の別れ際の守叔父さんの言葉は、一体何だったのだろう?

そんなに簡単に、スケジュールを変更できるのだろうか・・・?

私が連絡を入れたわずか2分後の返事であった。

その2分間で職場もしくは、仕事相手に対して連絡を入れて、早退の旨を伝える。その後、私に返事をする。といったプロセスを踏んでいるのだろうか?

私の感覚では、その様な間があったように感じていない。 守叔父さんの独自の判断だけで、スケジュールが変更できると考えた方が良いだろう。

まぁ、会えるのならば会った方が良いに決まっているが・・・。
雨も降っているし、ノンビリしようと思っていた心が、それを少しだけ拒否しようとも動いていた。

守叔父さんが、宿の前にクルマで来てくれたら、その時は、気分が変わり外出したくなるだろう!
4時間以上先の話だ! とりあえず、ノンビリとコーヒーを飲むこととした。

 





コーヒーを飲みつつ、スパイ7つ道具のメンテナンスをはじめた。

ボイスレコーダーやスパイカメラの充電や内部データのバックアップなどである。


昨日のデータも再度、内容を確認しておいた方が良いだろう。
聞き逃した言葉、見逃した情報があるかもしれないし・・・。

 





ボイスレコーダの音声は、二通りの方法で再生できる。

一つ目は、本体に、外付けのコントローラを接続して再生する方法。

二つ目は、USB接続で内部メモリに記録された音声ファイルをPCやiPad等にダウンロードし、音声ファイル再生ソフトで再生する方法である。

最初、一つ目の方法で試してみたが、コントローラの操作性がいまいちであること、そして再生音が悪かったので、二つ目の方法を試した。

音声ファイルは、WAVファイルでPCでもアップルでも使えるものである。

iPadとボイスレコーダーを接続し、音声データをダウンロード。

iPadで再生を行った。 思ったよりノイズが少ない状態で音声が記録されていた。

スパイカメラの方は、microSDカードに動画が記録されるので、そのmicroSDカード内のデータをiPadへコピーし、動画を再生した。

音声ファイル、動画ファイルをそれぞれ、早送りで視聴したが、これと言って、特に気になる事を見つけることはできなかった。

 





集中して、それらの事をやっているといつの間にか3時間経過し、午前10時になっていた。

外を見ると雨は既に止んでいた。 ベランダに出て、雨後の澄み切った空気を肺に入れると、少し体に活気が戻ったような気がした。

ベランダでの深呼吸によって、私の心の中の「やる気スイッチ」のボタンがONになったようだった。

11時30分に来るって事なので、その少し前に守叔父さんは仕事から帰宅するだろう!

自宅前で待ち伏せし、仕事からの帰り道を確認しようと思い、11時位に守叔父さんの家に着くように出かけることにした。

最短の道のりで宿から守叔父さんの家に向かえば、早く着きすぎるので、呑川の川沿いや、海岸沿いの道を選択して、時間を調整することとした。

海岸沿いの道を選んだのは、時間調整だけでなく、飛行機の写真が撮れるかもしれないと言う期待からだった。

呑川の河口付近には、腰掛けるのに丁度良い高さの階段状の護岸があった。

30分位、その場所で羽田空港への飛行機の飛来を待ち、その写真を撮って時間調整をしようと考えた。

望遠レンズを構え、遠くの飛行機を撮影していると、携帯電話のバイブレーションとともに着信音が鳴り始めた。 カメラを下ろし、電話を受話しようとしている最中に着信音が消えてしまった。

発信元は、守叔父さんであった。 予定よりほぼ1時間早い10:35であった。

予定時刻よりだいぶ早く、着信音も短かったため、再度、電話を掛けてくれるだろうと思い、再度、カメラを構え、飛行機を撮影し始めた。

呑川の河口から飛行機の航路は1km以上離れているため、機影は小さなものしか撮影できないが、4機ほど撮影すると、再度携帯電話が鳴り始めた。

守叔父さんからの電話である。

受話し、「もしもし」と伝えると、

「着いたよ!」との返事が返ってきた。

「えっ?」と思わず、声が出てしまった。

迎えに来てくれる予定は、11時30分なのに、今は、10時40分。

守叔父さんは、今、私の宿の前に到着したようだった。 

職場から直接、宿に向かったのだろうか? それとも、仕事を1時間も早く終わらせる事ができたのだろうか・・・?

待ちぼうけを食らうより、早く来てもらう方が嬉しいが、こちらの計画が乱されるのに少し戸惑いを感じた。

(つづく)
 

2023年4月12日水曜日

「泣けない人」その59

 


59 、上京三日目.1


朝5時過ぎに目が覚めた。 昨晩は、ビールやワインのアルコールの力を借りたとはいえ、早く床についたので、昨日よりも2時間ほど早く目が覚めた。 まだまだ、緊張感が抜けていない事も影響しているのかもしれない。

カーテンを開けたが、まだ空は暗く、光は入ってこなかった。

窓を開けると、しとしとと弱い雨が降っている事に気が付いた。 日の出前であり、かつ雨雲のために暗かったのであった。

ベランダに出てみると、乾燥した室内と異なり、外気は湿り気たっぷりであり、乾燥した肌を一時的に潤してくれているようであった。

深呼吸をして体を目覚めさせた後に、部屋に戻った。

ボーっとした頭を活性化するため、インスタントコーヒーを入れ、ゆっくりと飲んだ。

テレビをつけると良いタイミングで天気予報をやっていた。午前中いっぱいは雨のようだ。
その「雨の予報」は、自然(天気)が私に少し休みなさい!と啓示してくれているような感じがした。

そう考えると、昨日の疲れが、まだ少し残っているようだ。午前中は、部屋でゆっくりして、午後に出かけようかな!と考えた。

 





しばらくして、コーヒーで活性化してきた頭で、何をしなければならないかを考えた。

そうだ! めぐみ叔母さんへ連絡を入れなければ! 昨晩は、時差を考慮して連絡を入れるのを遠慮していた。日本時間の早朝ならば迷惑はかからないだろう。

LINEでメッセージを送信した。

 

「おはようございます。こんにちは。 
昨日は、深夜の連絡で失礼しました。 
今、昼食後に眠い状況では? 
守叔父さまの自宅へ 夕方17時半くらいに訪問しました。
電気もついていなく、人の気配がなかったので、 
守叔父さまの車の前から電話を掛けてみました。 
すると、寝ていた模様。電話に驚いた様子でした。 
寝巻きの格好で、ベランダに出てきてくれました。 
日頃、朝3時〜5時くらいに起床し、早い時間に出社しているみたいです。
上京初日、訪問した時間は、19時半、22時だったので、 
安眠中だったってことですね。 翌朝は8時に訪問。
すでに出社していたと言う事になります。 今朝も、
訪問しようと考えていたのですが、 雨が降っているので、
いくかどうか思案中です。」 
2021/12/1(水) 5:31



ほどなくして、めぐみ叔母さんからビデオ電話が掛かってきた。

メッセージの内容にプラスして、昨日の守叔父さんの様子を詳細に伝えた。もう少し、守叔父さんと会話をして様子をみてくださいとの事であった。

守叔父さんに関する話しの他、いろいろな話をしていたので、一時間近くの会話となった。

シアトルに居ると思っていためぐみ叔母さんは、バカンスでメキシコに行っているようだった。 この時期、シアトルは曇り空が多いため、日光を求めてメキシコの観光地へ行っているようだった。 ビデオ電話の画面を通して、メキシコの大きなヤシの木や雲一つない真っ青な空を見せてもらったおかげで、自分の心も少し晴れたような気がした。

 





めぐみ叔母さんと会話した後、二杯目のコーヒーを入れ、ゆっくり飲みながら、守叔父さんへ、昨夕の突然の訪問に対しての非礼のお詫びのメッセージを送ることにした。

 

「おはようございます。柑太郎です。
天気予報通りの雨ですね😭
今日は、ホテルでのんびりしようと思います。
昨夕は、突然の訪問で、
びっくりさせてしまい、ごめんなさい。
まさか、すでに寝てるとは思いませんでした。
片道20分くらいでしたので、
丁度良い散歩距離でした。」
2021/12/1(水) 7:00 



すると、守叔父さんからすぐに返事が返ってきた。

 

「11時30分には、行きます。」
2021/12/1(水) 7:02



エエエエエーーー??? どういう事??? 
予想外の返事が返ってきた。

次に会えるのは、日曜日と昨日言っていたのに、「行きます。」とは・・・?
私のメッセージを他の人(仕事関係の人)からのメッセージと勘違いしているのだろうか?

確認のために、メッセージを送信した。

 

「今日も相手してくれるんですか?」
2021/12/1(水) 7:02



すると、即座に、
”OKAY”というスタンプが返ってきた。
2021/12/1(水) 7:03


間違いでは無いようだ。まだ、7時過ぎの状況で、仕事を早退することができるような感じである。


 

  「ありがとうございます。
では、待ってます。」
2021/12/1(水) 7:03



とメッセージを送信した。すると、


先程とは異なった
”YES”というスタンプが返ってきた。
2021/12/1(水) 7:04


スタンプにはスタンプを返した方が良いと思い、

 

”ありがとう”という
スタンプを送信した。
2021/12/1(水) 7:04

 

昨日の時点では、次いつ会える?と聞いたら、「今週の日曜日」って言っていたのに、今日も迎えに来てくれるようだ!

 少し、キツネにつままれた様な気持ちになった。

(つづく)
 

2023年4月5日水曜日

「泣けない人」その58

 


58 、上京二日目.32


八王子の豊治叔父さんとのメッセージのやり取りが続いた。

 




 

(私)
体型は、痩せても、
太ってもいなく て、
 若々しい❗️
感じでした(>_<) 
2021/11/30 18:41

 

(豊治叔父さん)
それは今年の初めに会って確認しています。
アンチエィジング注射をしてるとの話しでした。
翌日に回数を 減らすように言って置きました。
問題は如何にしてMRI検査を受けさせるかです。 
2021/11/30 18:46

 

(私)
そうですね。
取っ掛かりを見つけた
いと思います(^_^)/ 
何らかの、守叔父さまの言動に
不一致があれば良い のですが。。。
2021/11/30 18:53

 

(豊治叔父さん)
やはり、守叔父の休日を聞き出し、 
東京は久しぶりだからと言って一日中を
一緒に遊びまわってみたら如何 でしょう。 
2021/11/30 19:35

 

(私)
今のところ、
日曜日に会う約束をしています(^_^)/
 なので、豊治叔父さまに会いに
行けるかなと考えてます。
2021/11/30 19:37

 

(私)
土日が休みで、土はすでに
予定あり との事です。
2021/11/30 19:38

 

(豊治叔父さん)
土曜日に来るならなるべく早く来て下さい。
晴れているなら丹沢や奥多摩にドライブにでも
行って食事でも しましょう。
2021/11/30 19:45

 

(私)
はーい(^_^)/
 楽しみです。
朝型生活 に変え、
朝一に向かえれば良いなと
思います☀️ 
2021/11/30 19:47

 

(豊治叔父さん)
今回の君の上京目的は家内には秘密です。
あくまでも君の用件で来たことにして下さいね! 
2021/11/30 19:51

 

(私)
承知しました(^_^)/
今回の目的は、 飛行機の写真撮影に、
羽田空港に来 たと言うことにします(^_^)/ 
一眼レ フ&望遠レンズ持参しています(^_^)/
2021/11/30 19:53

 

(私)
ワイドバンドレシーバーも(^_^)/
2021/11/30 19:54

 

(豊治叔父さん)
了解です。待ってます。
2021/11/30 19:55

 

(私)
では、また、変わった事があったら
連絡します(^_^)/ 
2021/11/30 19:56

 

(豊治叔父さん)
OK 
2021/11/30 19:56


 





電話による肉声で伝えるならば、5分程で済む内容ではあったが、1時間半ほどのやりとりとなった。

アラフィフで、老眼も少しずつ進んできたため、スマホの小さな画面をフリック入力するのは難儀である。 まだ、キーボードで入力した方が早いのにな・・・、と思った。

豊治叔父さんは、70歳を超えている! のに、スマホを使いこなしているな!!!と感心する。

 





めぐみ叔母さんへの連絡は、明朝に入れよう!と思い、本日の作業は、全て完了!となった。

一段落すると、急にお腹が空いてきた。 まだ、夕飯を食べてない!

宿近くのコンビニに行って、ハンバーグ&豚生姜焼弁当、500mlの缶ビール一本、そして、スリムボトルの赤ワインを購入し、夕食とした。

弁当を食べつつ、ビールを一本飲み終わっただけで、だいぶ酔いが回っていた。 疲れているんだな・・・。と感じた。 

宿の備え付けの食器にはグラスがなく、マグカップしかなかったので、そのマグカップでワインを飲むことになった。 少し味気ないけど、仕方がない。

ワインで酔いを深くした後、床に就いた。

(つづく)
 

2023年3月29日水曜日

「泣けない人」その57

 


57 、上京二日目.31


午後5時半には熟睡していた守叔父さん!!!

あまりにも早い就寝には、さすがに驚いた。 

そして、就寝時刻が異常に早いことは、大切な情報だと考えた。そのため、守叔父さんの家から宿に戻る途中、歩きながら八王子の豊治叔父さんへ電話を掛け報告する事にした。

守叔父さんの状況を伝えると、豊治叔父さんから、

 

「なぜ、そんなに早く寝るんだろう・・・?」



と、不思議そうなニュアンスの返事が戻ってきた。 「僕が、守叔父さんの家を訪問した昨日の夕方、夜には、既に守叔父さんは寝ていたのかもしれない! そして、今朝は、すでに外出していたのかもしれない。」 と伝えた。すると、豊治叔父さんは、

 

「そうかもしれないな・・・、報告ありがとう。 
今、夕飯の準備中で手が放せない!
じゃ、またあとで。」



という事で、短い電話となった。

電話を切ったあと、守叔父さんが床に就いたのは何時だったのだろう・・・?  そして、起床は何時なのだろう・・・? と、守叔父さんの生活リズムを推測しながら、宿に戻ることになった。

 





午後5時に床に就き、睡眠8時間とすると、起床は午前1時となる。

仕事の開始時刻は、午前3時頃かもしれない。

勤務時間を8時間と考えると、午前11時の終業となる。つまり、午前中で仕事を終えることになる。

守叔父さんは、仕事を少しだけ早退したような事を言っていたので、守叔父さんの言っていることは、辻褄が合っているようだ。

守叔父さんは、時間指定の荷物を運ぶ仕事に就いており、その荷物は早朝の配送ってことなのだろう。

勤務の時間が丑三つ時から始まるってことで、早朝勤務であり週4日の勤務でも良いのだろう。

 





限られた情報をもとに、適当に推測し、そして、守叔父さんの言動と辻褄が合っているだけで、すこし安堵した。

とは言え、まだまだ、守叔父さんが軟禁されていないという事は、証明されてはいないが・・・。

 





宿にもどり、ゆっくりシャワーを浴びた。

 昨晩のシャワーでは単に汗を洗い流すだけの行為であったが、今日は、一仕事終えたって感じで、リラックスして温かいシャワーを浴びる事ができた。

 





守叔父さんと次に会うのは、日曜日の予定である。

それまでの時間をどの様に過ごそうか?

明日から土曜日の間に、八王子を訪問し、本日の報告をしようかな・・・。

簡単な報告と共に、豊治叔父さんの都合を聞こうと考え、ショートメッセージを送信した。

 

「ホテルでシャワー浴びて、一段落し
ました。 昨晩、今朝にわたる三度
の訪問で人の気配がなかったのです
が、夜はすでに寝ていて、朝は不在
だったということですね。ちょっ
と、ホットしました。 豊治叔父さ
まのお宅にも伺えればと思っていま
す。ご都合はいかがでしょうか?」
2021/11/30 18:27



豊治叔父さんからの返事は、

 

「ひょっとしたら仕事をしているかも
と考えて早寝早起きを思い出して君
にメッセージを送りました。良い方
に当たってホッとしました。めぐみ
叔母さんにも電話する時間を考える
ように言って置いて下さい。」
2021/11/30 18:33



であった。私は、

 

「承知しました(^_^)/ 守叔父さまは、
3時~5時位に起床、出社と言うこ
とですね。 明日、私の起床時間次
第で、守叔父さまの自宅へ、散歩の
呈で、伺えればと思います(^_^)/」
2021/11/30 18:40



と返事した。すぐに、豊治叔父さんから返事がきた。

 

「了解です。宜しくお願いします。」
2021/11/30 18:41


(つづく)
 

2023年3月23日木曜日

「泣けない人」その56

 


56 、上京二日目.30


守叔父さんの家へ向かう第四陣。 

午後5時を少し過ぎたタイミングで、宿を出発した。 昨日の初陣出発よりは、一時間半ほど早い時刻である。

日の入り後、30分ほど経っていたが、まだまだ明るく薄明の空であった。 

大通りを走るクルマは、チラホラとヘッドライトを点けはじめていた。

守叔父さんの家へと向かう道は、既に見知らぬ道から通い慣れた既知の道へとなりつつあった。 そのため、昨日の初陣、第二陣、今朝の第三陣とは異なり、その道程はリラックスした状態で歩くことができた。

20分ほど経ち、守叔父さんの家に着くころには、「秋の日はつるべ落とし」のごとく、だいぶ暗くなっていた。 周囲を走るクルマのヘッドライトは、ほとんど点いていた。

 





守叔父さんの家の駐車場には、守叔父さんのクルマが今朝と同じ場所、そして、今朝と ”同じ状態” で駐車されていた。 つまり、サンシェードがフロントガラスに設置されていたのである。 

守叔父さんが、このクルマで宿の前に迎えに来てくれるまでは、このクルマが夏場から放置されているものかもしれない!と勘違いしていた。

守叔父さんの車が、年式は古くとも車内が良い状態だったのは、日々、サンシェードを設置し、紫外線対策をしているからだと納得した。

守叔父さんにとって、サンシェードは夏場だけのものではなかったのである。クルマを大事にするための一つの習慣であったのだ。

クルマの状況を確認したおかげで、一つの疑問が解決した。

 





そして、守叔父さんの部屋の様子を見ると、窓の内側の遮光カーテンは、駐車場側の二部屋とも、キッチリと閉まっていた。

それぞれのカーテンの隙間からは室内の光が見えなかったので、室内の灯りは消えているようだった。

午後5時半に室内の灯りが消えているってことは、守叔父さんは外出中で不在ってことだろう。

なんらかの用事があるようだったので、私と別れた後、駐車場にクルマをとめ、その後、徒歩で外出したのだろうと思った。

守叔父さんは、どこに行っているのだろうか・・・? 

徒歩で出掛けているならば、近い場所だろうか?

用事が終わった後に、夕食を一緒に食べることもできるかもしれないし・・・。 

 





とりあえず、守叔父さんへ電話を掛けることにした。

電話の呼び出し音が何度か繰り返されたが、守叔父さんは、なかなか電話に出てくれなかった。

あきらめて、終話ボタンを押そうと思ったタイミングで、電話が繋がった。

 

「モ、 シ、 モ、 シ、・・・。」



と、間の伸びた声が聞こえてきた。「もしもし、柑太郎です。 今日はありがとう。」と伝えた。すると、守叔父さんから、

 

「ネ・テ・タ。」
(寝てた)



との返事が返ってきた。 思わず「えっ?」って心の声が、口から出てしまった。午後5時半に寝ていたようだ。 守叔父さんから、

 

「ドウシタノ?」
(どうしたの?)



と聞かれたので、「めぐみ叔母さんに聞いたら、ホテルから叔父さん家までは、近いってことが分かったので、散歩のついでに来たんだけど・・・。」と伝えた。

 

「エッ? ドコニイルノ?」
(えっ? どこにいるの?)



と聞かれたので、「家の前にいるよ!、叔父さんのベンツの目の前にいるよ!」と伝えた。

 

「チョット、マッテ!」
(ちょっと、待って!)



との言葉の後、少し待つと、遮光カーテンの隙間から室内の灯りが点くのがわかった。そして、遮光カーテンが開き、続いて窓が開いた。

守叔父さんが、パジャマ姿で頭を搔きながら、ベランダに出てきた。そして、

 

「ドウシタノ? 」
(どうしたの?)



と改めて聞いてきたので、 「散歩!、歩いて来たの! まさか、寝ているとは思わなかった。 寝てるところ、起こしてごめんなさい。」と伝えた。すると、

 

「ドウスル?」
(どうする?)



と聞いてきたので、「どうもしなくて良いよ!、おやすみなさい。 今度、日曜日ね!」と伝え、宿に帰ることにした。

守叔父さんの家を後にしつつ、昨日の初陣、第二陣の時には、既に守叔父さんは寝ていたのかもしれない! と考えた。

(つづく)

 

2023年3月15日水曜日

「泣けない人」その55

 


55 、上京二日目.29


LINEトークのテキストメッセージのやり取りによって、めぐみ叔母さんとの会話がしばらく続いた。

音声による会話と異なり、メッセージを打ち込むのに時間を要するため、送信側、受信側のそれぞれに時間が掛かり、ゆっくりしたターンでの会話が進んでいった。

メッセージのやり取りは、1時間ほど続いた。

そのゆっくりした時間のおかげで、守叔父さんの事をじっくりと振り返ることができ、頭の中を整理することができた。

 



 



守叔父さんの現状をリストアップすると、次のようになる。

#1 見た目は、以前とあまり変わらず、特に痩せたり、太ったりしていない。
実年齢よりすごく若くみえる。

#2 仕事は、火曜〜金曜の4日間。
土日月は休み、月曜はカイロプラクティックに通っている。

#3 クルマを上手に運転する。クルマには目立った傷などはない。

#4 私と守叔父さんとの関係(叔父と甥の関係)や、私の家族構成(兄弟姉妹の数など)を正しく理解している。

#5 会話によるコミュニケーションが不自由だと思われる。理由としては、限られた人の名前以外は出てこない。 私の事を「柑太郎」と呼ばない。

#6 クルマの車種名(ベンツ)や、地名(鹿児島、羽田、東京)など、固有名詞が会話に出てこない。代わりに、「外車、あっち、こっち、ずっと向こう、ずっと遠く」などの言葉とともに手によるジェスチャーによって意思を伝える。

#7 守叔父さん本人は、会話によるコミュニケーションが不自由だと言う自覚がなく、そのことを心配してなさそうである。

#8 金銭的トラブルがあるかもしれない。

 





めぐみ叔母さんから届いたメッセージには、

「出来るだけ何回も会うようにして下さいね。」

「そう、出来るだけ答えはあげないで色々聞いてみると良いかも。」

「アンチエイジング使い過ぎで脳が子供になってしまった。。。とか? 😨」

などがあった。

豊治叔父さんからの指示と同じように、私が守叔父さんと何度も会って、状況を把握するように依頼された。 

「アンチエイジングで、子供になる!」とは、面白い発想だな・・・。と少し笑ってしまった。 プラセンタの注射で、若返り、脳も若返ったのかな・・・。

そして、送信したメッセージに関して、うまく伝わっているかどうかを確認するために、めぐみ叔母さんへ音声通話を掛けた。 

めぐみ叔母さんは、呼び出し音を少し聞いただけで、すぐに電話に出てくれた。

私のテキストメッセージは、それなりにうまく伝わっているようではあったが、細かいニュアンスは端折っているので、それぞれの項目についての詳細を伝えることにした。

中でも、守叔父さんのクルマの運転の上手さや、クルマ本体には目立った傷などが無かったことなどを伝えると、めぐみ叔母さんにとっては、予想外であったようだった。 

まともな会話のできない人が、クルマの運転ができる訳がない!と思ったのだろう。 私も、守叔父さんが颯爽とベンツで現れた時には自分の目を疑ったしな・・・。 

自分の目で見なければ、信じがたい状況かもしれない。

 





守叔父さんの様子に関しての話だけでなく、私の泊っている宿の所在地や周辺の様子、宿のシステムなどの話をしていると、いつの間にか音声通話が1時間ほど経過していた。

電話を切った時には、午後5時になっていた。

豊治叔父さんとのテキストメッセージのやり取りが1時間、めぐみ叔母さんとのメッセージのやりとりおよび音声通話は2時間、計3時間におよんでいた。

宿に戻った直後は、目の前にあるベッドへ飛び込み、休憩したいと思ったけれど、この3時間の間にだいぶ疲労感が薄らいでいた。

次に守叔父さんに会う予定の日曜日までは、時間・日数があるため、その間は守叔父さんの家の周辺を調べることになるだろう。盗聴電波の有無等も調べなければならないな・・・。 

今日できることが無いかな・・・?と考えた。

もう一度、守叔父さんの家を訪問すれば、もう少し分かることがあるかもしれない。

もしも、部屋のカーテンが開いていれば部屋内の様子が、少しでも分かるかもしれないし・・・。 守叔父さん以外の人影がなければ、ピンポンしても良いしな・・・。

駐車場にクルマがとまっている場合、フロントガラスにサンシェードが設置されているかどうかも気になるところだ。

(つづく)

2023年3月8日水曜日

「泣けない人」その54

 


54 、上京二日目.28


本日、守叔父さんと一緒に行動した時間は、わずか3時間程度であった。

短い時間ではあったものの、その間での疲労は思ったより大きかった。

宿の部屋に入ってからの最初の欲求は、目の前にあるベッドへ飛び込み、休憩することであった。

しかし、休憩の前に、豊治叔父さんや、めぐみ叔母さんへの連絡を先にしなければ、心配するだろうと思い、それぞれへ連絡を入れることにした。

まず、豊治叔父さんへ、ショートメッセージを送信した。

 

「守叔父さまと食事し、その後、私の
リクエストで、飛行機の良く見える
公園へ行きました。先程、別れまし
た。 車で、宿まで迎えにきてくれ
ました。昨日、今朝、守叔父さまの
家の前で見たシルバーのベンツで颯
爽と現れました。運転は特に問題な
く、普通の運転してました。 日曜
日に時間を作ってくれるとの事で
す。」
2021/11/30 13:58



一番重要な情報である「守叔父さんの意味不明な言動」については、ここでは、あえて触れなかった。

なぜなら、それらの言葉をショートメッセージでは、うまく伝えることができないし、かつ、今日の時点では、意味不明な言動であっても、今後、理解できるものなのかもしれないと考えたからだ。

つまり、現時点では、私自身は、守叔父さんが ”変” であるという事を確信できていないのである。と言うか、 ”変” であることを認めたくない自分がそこには居た。

メッセージを送信して、5分ほど待つと、豊治叔父さんからの返事が届いた。

 

「本当は、一緒に生活して様子見する
のが良いと思いますが、何回も会っ
て聞き忘れた事を質したりして本質
を見極めて下さい。」
2021/11/30 14:05



現時点では、守叔父さんが自宅軟禁されていないという確信もなく、盗聴器の有無の問題が解決した訳でもない。 守叔父さんの家の中に入ったことすらもまだ無い状況で、「一緒に生活して」とは、だいぶ先の事を言っているな・・・。

わずか、3時間一緒にいただけで、疲労困憊なのに・・・。「一緒に生活することになったら大変だろうな・・・。」、と考えながら、メッセージを送信した。

 

「承知しました。(^_^)/」
2021/11/30 14:13



返事を送信した後、しばらく待ったが、豊治叔父さんからのメッセージが送られてこないので、豊治叔父さんへの報告を終えたと考えた。

続いて、めぐみ叔母さんへメッセージを送ることにした。豊治叔父さんへ送信したものをコピペ(Copy& Paste)したものをLINEで送信した。

 

「守叔父さまと食事し、その後、私の
リクエストで、飛行機の良く見える
公園へ行きました。先程、別れまし
た。 車で、宿まで迎えにきてくれ
ました。昨日、今朝、守叔父さまの
家の前で見たシルバーのベンツで颯
爽と現れました。運転は特に問題な
く、普通の運転してました。 日曜
日に時間を作ってくれるとの事で
す。」
2021/11/30 14:35



米国との時差の事を考慮して、

 

「昼食です(^_^)/」
2021/11/30 14:35 



との情報を追記して送信した。 

めぐみ叔母さんは、守叔父さんとの以前の会話によって、その会話が変であることを理解していたので、少しだけ情報を加えてメッセージを再送信した。

 

「若干、人の名前が出てこないなどの
状況ではありますが。。。」
2021/11/30 14:37



めぐみ叔母さんからのリアクションを待っていると、豊治叔父さんからのメッセージが届いた。

 

「しかし、何かが普通で無い時がある
とすると、その原因は何なのか?プ
ラセンタ注射との関連は無いのか?
又、年金や健康保険証は有るの
か?、借金の有無等をじっくりと聞
いて下さい。」
2021/11/30 14:39



豊治叔父さんからのメッセージを見ながら、次の事を考えた。

年金の状況や、健康保険証の有無は、守叔父さん本人から聞き出すことができなくても、それぞれの関連の役所に相談すれば教えてもらえる可能性はある。

しかし、「守叔父さんの意味不明な言動」と、守叔父さんが受けているらしい「プラセンタ注射」との関連の有無を調べる方法があるのだろうか・・・? 

もし、関連があるならば、プラセンタの注射には問題があるだろう。

守叔父さん本人に、注射によってのなんらかの異常に関する自覚症状があれば、おのずと注射することはやめるだろう。それらの自覚症状がなければ、守叔父さん本人に聞いても関連は分からないだろう。

医者や医学に携わる研究者ならば、その関連の有無を調べられる可能性もあるだろうが、それは、ある種の薬害の認定をするようなものとなる。 そのため、そのハードルは非常に高く、困難だろう。

豊治叔父さんは、難しい事柄を簡単にリクエストするな・・・。と思ったところに、めぐみ叔母さんからのメッセージが届いた。

 

「へえ、未だ運転できるんだ。。。🤔 
柑さんや家族の事を覚えていましたか? 
健康状態はどんな具合?」
2021/11/30 14:51



めぐみ叔母さんは、守叔父さんが運転できることが不思議なようだ。

私自身が守叔父さんに感じている違和感と同じものなのだろう。 

なぜ、言葉の不自由な人が、クルマの運転を器用にするのか???

(つづく)
 

2023年3月1日水曜日

「泣けない人」その53


53 、上京二日目.27


私の伝えた「トラックだらけだ!」をきっかけに、守叔父さんは、本人がなんらかのトラブルに巻き込まれているような話をしているが、守叔父さんの説明では、イマイチ、内容がよくわからない。

分かった事として、「騙しとられたお金は二百万円超であること。騙された相手が女性であること。銀行の通帳の残高がその証明となること。」である。

解決できるものならば解決してあげたいと思うが、詳細な話を聞かなければ対応できないし、銀行のお金の動きも調べなければならないだろう。

城南島海浜公園から宿までの移動時間は短いため、今日は詳細を聞き出すことは無理がある。後日、再度会って、その時に詳細を聞くことになるだろう。

次、いつ会えるかを聞き出そうと思っていると、

 

「ヨシ、 コンシュウノ、 エート、 ニチヨウビ!、
アノー、 イッタアトダカラ、 アノー、ムコウニネ、
エットー、ナンダッケ、 フネガ アルンダケド、
ソコニ イッテミヨウカ! ノレルヨ!」
(よし、今週の、えーと、日曜日!
あのー、行った後だから、あのー、向こうにね、
えっとー、なんだっけ、船があるんだけど、
そこに行ってみようか? 乗れるよ!)



と守叔父さんが言った。 こちらから、聞き出すことなく、会う予定が決まったことになる。

とはいえ、今日は、火曜であり、今週の日曜日は既に過ぎているが・・・。5日後の日曜日って事だろう。 「ありがとう! じゃ、日曜日に!」と返事した。 

船があると言っているので、久しぶりに船に乗れるかもしれない! 

以前、小型船舶のブローカーをしていた守叔父さんが、今も自由に使える船があり、その船に乗ることができるのかもしれないなと思った!

 





移動中の車内には、カーステレオのFMラジオが流れていた。その音量は、ここまでのところ、会話を邪魔しない程度の小さな音量であった。 

守叔父さんは、運転中にFMラジオの選曲ボタンを度々押していた。そのタイミングは、ラジオのパーソナリティのしゃべり声が聞こえてくるのとほぼ同じタイミングであり、好んで音楽の流れているチャンネルを聞いているようだった。

少し、会話が途切れていた時に、

 

「コレ、スゴインデスヨ!」
(これすごいんですよ!)



と言った後に、カーステレオのボリュームをどんどんアップさせていった。音量マックスまで上げたためFMラジオの音楽が車内で爆音となって響いた。

しかしながら、さすがのベンツのオーディオ! 音は大きいものの、ひずんだり、ビビり音などは一切なく、ライブホールなどの喧噪の中にいるようであった。

ボリュームを少し下げて、

 

「スゴイデショ!」
(すごいでしょ!)



と言った後に、笑い出した。

その後の宿に向かう車内では、ラジオから流れてくる大音量の音楽を聞き続けることになり、ほとんど会話のできない状態であった。

 





20分程度の移動時間で、宿の前に到着した。宿の前は、車寄せなどは無いため路駐車となる。狭い道であり駐車禁止であるため、私はすぐに下車した。

守叔父さんは、
 

「ジャ、ニチヨウビネ!
マタ、レンラクスル。」
(じゃ、日曜日ね!
また、連絡する。)


と言って、颯爽とクルマを走らせて、帰っていった。

守叔父さんの帰路を見送ると、自分の部屋へ戻った。 カギで玄関を開け、部屋の中に入ると、一挙にドッと疲れていることに気が付いた。

守叔父さんの状況を理解するためには、もう少し話しをする必要を感じたが、わずか数時間一緒にいただけで、これだけ疲れるとは思いもしなかった。

一応、無事に宿に戻れただけでも良かったのかもしれない。

豊治叔父さん、めぐみ叔母さんへの報告もしなければならないな・・・。

(つづく)
 

2023年2月15日水曜日

「泣けない人」その52

 


52 、上京二日目.26


守叔父さんが、次の飛行機の離陸準備の状況を言わないな・・・。と思っていたら、予告無しに、

 

「イキマスカ!」
(行きますか!)



と言い出し、駐車場に向かって歩き始めた。 前もって、残りの滞在時間を教えて貰えれば、それに合わせた撮影ができたのだが・・・。 マイペースな守叔父さんである。

たしかに、「頭上を飛行機が通り過ぎると、すでに、次の飛行機が滑走路の端で離陸の準備をする。」といったローテーションが続いたので、いつ、その場を離れて帰路につくのか、タイミングの取りづらい状況であった。

 後ろ髪を曳かれる感じではあったけれど、「おすすめの撮影ポイント」で、それなりに、飛行機の撮影ができたので満足であった。 そして、守叔父さんの後を追った。 

 





海岸と駐車場の中間点位に、飲料水の自動販売機とアイスクリームの自動販売機が並んでいた。 守叔父さんは、その自動販売機の手前で止まり、振り返って、

 

「ナニカ タベル?」
(何か食べる?)



と聞いてきた。 ”食べる”と言うから、アイスクリームの自販機かな?とも思ったが、小銭を準備して投入しようとしているのは、飲み物の自販機の方であった。

イトーヨーカドー店内の自動販売機にて痩身お茶を買ってから、まだ1時間も経ってないのに、またもや、飲み物を”タベモノ”として勧めてきたのであった。

 「要らないよ!」と返事したものの、守叔父さんは、胸元からお財布をだし、自販機へ小銭を投入して購入するよう勧めてくれた。 トクホ(特定保健用食品)認定の飲み物があったら、ボタンを押そうと思い、商品を見わたした。 今回も痩身お茶を見つけたので、ボタンを押すことにした。

 宿に戻って、ゆっくり飲ませて貰おうと思い、ありがたく頂いた。

自販機横のお手洗いに立ち寄り、用を済ませた後、駐車場へ向かい、クルマに乗った。 

乗車後の守叔父さんは、

 

「ホテルニ イケバ ヨイ?」
(ホテルに行けば良い?)



と聞いてきたので、「お願いします!」と答えた。 まだ、午後一時、時間が早いので、守叔父さんとこの後も、もう少し話しができるかな?とも思ったけれど、素直に守叔父さんの言うことに従うことにした。 

 





一つの目的である飛行機の撮影を終え、あとは宿に戻るだけ。

そのため、車外の様子をじっくり見る余裕ができた。平和島や大井埠頭には大型のトラックがたくさん走り、道路脇にもたくさん停車していた。

さすが東京の物流の一つの心臓地域だな・・・。と思ったので、「すんげー、トラックいっぱい! トラックだらけだ! 東京の(物流の)心臓だね!」と守叔父さんへ伝えた。すると、守叔父さんは、

 

「デモネ、イマハ、ソンナニ クルマガ、
ハシッテ ナインデスヨ。
オレガ、 マエ、ヤッタトキハ
ニヒャクマントカ。」

(でもね、今は、そんなにクルマガ、
走ってないんですよ。
俺が、前、やったときは二百万とか。)



と言ったあとに笑い出した。笑いの後に続けて、

 

「ニヒャクマン!
ソレデ、ジャア、チャッチャカ ヤルッテ イッテ、
イチネングライデ、シガツデ、カードカエセッテ、カエサナイッテ。
ホンデ ギンコウイッタンデスヨ
ニヒャクハチジュウマン クライ アルカナ ト オモッタラ
ヨンジュウマンシカナイ、
エェーッテ、 ヒドイヨネ
アレハ ワイル オンナダ。
ソンデ、オレントコロニ、ゼンブ ショルイ オクルケド
デンワコナイ バカナオンナダ」

(二百万!
それで、じゃあ、ちゃっちゃかやるっていって、
一年位で、四月で、カード返せって、返さないって。
ほんで、銀行行ったんですよ。
二百八十万くらいあるかな?と思ったら、四十万しかない。
えぇーって、ひどいよね。
あれは、悪い女だ。
そんで、俺のところに、全部書類送るけど、
電話来ない、バカ女だ。」



と言った。 

私の言葉「すんげー、トラックいっぱい! トラックだらけだ! 東京の心臓だね!」をきっかけに、話が逸れていったのだが、本当に、二百万円以上のお金を女性に騙し取られてしまったのだろうか? 

(つづく)
 

2023年2月8日水曜日

「泣けない人」その51

 


51 、上京二日目.25

城南島海浜公園の駐車場から海の方へ歩いている最中に、突然、松木の陰から飛行機が飛び出てきた。その飛行機は、そのまま、まっすぐ私の方に近づいてきて、ちょうど私の頭の真上を飛行機が通過していった!!!

ちょうど、公園の真上が飛行機の航路のようだ!!! なるほど、おすすめの撮影ポイントの一つであることが理解できた。

慌ててカメラを向けシャッターを切ったが、その写真は全くピントの合っていないぼけたものであった。なぜか、オートフォーカスの設定が”切”になっていたようだった。

 


オートフォーカスの設定を”入”に切り替えファインダーを覗き、動作確認のためにシャッターボタンを半押した。すると、だいぶ先の方をマイペースで歩いている守叔父さんにピントが合った。

そのまま、シャッターボタンを全押ししたので、城南島海浜公園できちんと撮影された写真の一枚目は、守叔父さんのバックショットとなった。

 




防風林の松の木を過ぎると、視界が広がり、左手に東京湾、右手に羽田空港が広がっていた。 そして、ちょうど飛行機が離陸し始めているのが遠くに見えた。

守叔父さんは、先にその飛行機を見つけたらしく、その飛行機を指差しながら、振り返り、今、飛び立ったらしいことを必死にアピールして私に伝えているようだった。

私は、カメラを飛行機に向け、何度となくシャッターを切った。 その機体は、旅客機と比べ小さいもので、私自身、初めて撮影する型式の飛行機であった。プライベートジェットなのだろうか・・・?

 



さすがは、羽田国際空港、東京の空の玄関口! いきなり鹿児島空港では見られない飛行機に遭遇できた!


守叔父さんは、非常に目が良いようで、離陸待ちの飛行機が滑走路の端に停まっているのが見えているみたいだ。

 

「クル!、クル!、モウスグ クル!」
(来る!、来る!、もうすぐ 来る!)



そして、その飛行機が加速し始めると、

 

「キタ!、キタ!、キターーー!」
(来た!、来た!、来たーーー!)



と教えてくれた。そして、一機、また一機と飛行機が離陸する度に、同じ事を繰り返した。




「叔父ちゃん、コンタクトも何もしてないんだよね! 裸眼なんだよね! ”目”がいいね!」と言うと、守叔父さんは、

 

「オレ、オサケモ ノマナイシ 
メガネモ ノマナイシ!」
(俺、お酒も飲まないし、
眼鏡も飲まないし!)



と言った後、少し笑い、そして、

 

「メガネハ キエマセン!」
(眼鏡は、消えません!)



と言った。 私は、ファインダーを覗きながら飛行機に集中しながらの会話だったため、そのヘンテコな会話には、適当に相づちをうっただけでスルーし、「僕自身は、去年、網膜剥離で片目が見えにくくなったんだ。」と伝えた、すると、守叔父さんは、

 

「ハッ、ハッ、ハッ!」
(はっ、はっ、はっ!)



っと、笑いはじめた。

私が網膜剥離になったことで、笑いをとったことになる。 網膜剥離の何が面白かったのだろう?

 





流行り病により国際線は少ないだろうが、国内線のANAやJALの機体をはじめ、色々な航空会社の飛行機が、次から次へと離陸し、頭上を飛び過ぎて行った。

撮影を始めてから30分ほど経った頃には、既に十機以上の飛行機を撮影していた。

(つづく)
 

2023年2月1日水曜日

「泣けない人」その50

 


50 、上京二日目.24

守叔父さんの運転するクルマは、第一京浜を南へ向かって進んでいる。

守叔父さんの運転は、食事の後も快調だった。 言葉をうまく操れないような守叔父さんではあるが、クルマは上手く操っている。地図を見て、その場所が何処であるかを理解し、その場所に向けて進んで行ける!

言葉をうまく使えない原因は、認知症なのだろうか? それとも、他の病気なのだろうか・・・? それとも、守叔父さんは健康そのもので、意図して何らかの遊び心で、私をからかい続けているのだろうか・・・?

会話の際のチンプンカンプンな言葉とは異なり、その運転は的確で、安心感もあり、乗り心地が良かった。 

”クルマの運転の上手さ” と ”会話の上手さ”とは、あきらかに雲泥の差があった。 もしも、私をからかって”会話の下手さ”を演じているとするならば、クルマの運転も同様にぎこちなく振る舞うことも考えられるが、そのようなことは一切ない。

目的地に向かって、周囲のクルマの流れに添って、ゆったりとかつ、スイスイと進ませる運転技術能力は、認知症の人にも可能なのだろうか?

私の心には、守叔父さんの発する意味不明な言葉に対する戸惑いとは別に、車の運転の上手さと会話の下手さとのギャップに対しても戸惑いが芽生えはじめた。 

 





ほどなく、平和島口の交差点に差し掛かり、第一京浜を左折した。

平和島に入ってすぐに、 守叔父さんが、左手に見える大きな建物を指差しながら、

 

「ココモネー、ナンカモー、
イッパイ イロンナノガ アルヨ、 ココ!」
(ここもねー、なんかもー、
いっぱい、色んなのが有るよ、ここ!)



と言った。「何が有るの?、競艇場?」と聞き返すと、

 

「イヤイヤ、キョウテイ ジャ ナイヨ
コレ、コレ
イッパイ アルヨ
ナンデモアル。
オンセン アル。
タベモノモ タクサンアル。」

(いやいや、競艇じゃないよ、
これ、これ、
いっぱい有るよ!
何でもある。
温泉ある。
食べ物もたくさんある。)



と言い出した。

イトーヨーカドーで、温泉に行ってくると言っていたが、温泉は無さそうだった。この眼前の建物には本当に温泉があるのだろうか?

建物の壁面にはテナントのロゴや店名等の看板がたくさん掛けられていた。 守叔父さんの言う通り、各種店舗が入っていることは理解できた。もしかすると、スーパー銭湯のような施設があるのかもしれない。

それらの看板を丁寧に見ていると、「ドン・キホーテ」や「業務スーパー」とともに「天然温泉 平和島」という看板も見つかった。温泉があるのは本当だった。 もしかしたら、イトーヨーカドーにも温泉があったのだろうか・・・?

「天然温泉があるんだね! なんでも、ありそうだね!」と伝えた。守叔父さんは、私の声には反応せず、何かに気が付いた様子で、遠くの空を指差し、

 

「ヒコウキ!」
(飛行機!)



と言った。 私は、守叔父さんの指差す方向を見たものの、そこには大型トラックが並走し、その陰に隠れているのか、飛行機を見つけることができなかった。

現在地(平和島)と羽田空港とは数km程度しか離れていないので、いつ何時、飛行機が見えてもおかしくはない。 また、すぐに飛行機は飛んでくるだろう! 

次の飛来に備え、リュックから望遠レンズを装着した一眼レフカメラを取り出した。

守叔父さんは、そのカメラに気が付くと、

 

「スゴイ!」
(凄い!)



と驚嘆の表情にかわっていた。

私の使用しているカメラやレンズは、プロのカメラマンが使用するような高級なものではない。それでも、望遠レンズを装着すると、それなりに大きな物となる。守叔父さんにとっては、その大きさに驚いたのだろう。

そして、また、飛行機を見つけたらしく、指先を前方の空に向け、

 

「ホラ、ホラ、アソコ!」
(ほら、ほら、あそこ!)



と、飛行機を見つけた事を喜んでいるようだった。

私も、その飛行機にカメラを向けたが、ファインダー内に飛行機を収める前に建物の陰に入ったようで撮影できなかった。さすがに、走行中のクルマの中から飛行機を撮影するのは難しい。

4機ほどの飛行機を見つけては、カメラを向けたが、結局、一枚も撮影できないまま、目的地の城南島海浜公園に到着した。

城南島海浜公園には、有料駐車場が併設されていた。 どこにクルマを止めればよいか悩む必要がなくて良かった。駐車場の周囲は、防風林の松木が生い茂っており、海側の視界はほとんどなかった。

守叔父さんが、
 

「マエ、キタコトガアル!」
(前、来たことがある!)


と言い出した。

 

「リリィチャント ナンドモ ココ キタ!」
(リリィちゃんと何度も、ココ来た!)



と言い、海や飛行機を彼女と一緒に見に来たことがある場所のようであった。

守叔父さんは、駐車場にクルマをとめるやいなや、その懐かしさを求めているのか、海岸線の方を目指して早歩きで歩み始めた。 

その歩みは、思いのほか早かった。 私が公園の周囲の様子をみたり、カメラのチェックをしながら歩いていると、あっという間に、だいぶ離れた所まで歩いていっていた。

(つづく)
 

2023年1月25日水曜日

「泣けない人」その49

 


49 、上京二日目.23

「さぁ、行きたいところを言ってください!」と守叔父さんが言ってくれたので、「城南島海浜公園をお願いします。」と伝えた。

 

「ワカラナイ、
ミギ ヒダリ
オシエテ。」
(分からない、
右、左
教えて。)



との返答が返ってきた。

現在の居場所がどこであるかが分からなければ、当然ながら道案内はできない。

久しぶりの東京で、周囲を見渡すものの、慣れない景色を見ただけでは、現在地がわからない。 仕方なく、文明の利器に頼ることにした。

守叔父さんと会話しながら、スマホのカーナビのアプリを起動し、行き先を城南島海浜公園に設定した。あとは、そのカーナビ音声の指示どおりに進んでもらえば良い!

ナビ設定後、すぐに音声ガイドが「右方向です。 およそ、500メートル先、平和島口を左方向です。」と道案内をしはじめた。

その音声ガイドの指示に対して、守叔父さんは、

 

「ワカッタ、イキマショウ!」
(分かった、行きましょう!)



と答えてくれた。 私としては、見慣れない景色から現在位置を見いだし、そして、どの道を進めば良いのか考える必要がなくなりホッとした。 

一段落できると思いきや、守叔父さんは、

 

「ホントニ、オレト クルマ ゼンブ イッショ ダネ。」
(本当に、 俺とクルマ、全部一緒だね。)



と言い出した。一体、”守叔父さん” と ”クルマ” 、何が同じなのだろうか・・・?

”全部一緒”という事は、このクルマは、長い間、大事に乗り続けている愛車であり、クルマを一心同体と感じているってことなのだろうか? それとも、少し深読みし過ぎているのだろうか・・・?

「何が一緒なの?」と聞き返すと、守叔父さんは、自分の人差し指でクルマのハンドルの中央部分のベンツのメーカーエンブレムを指差した。そして、その指で前方を指差しながら、

 

「イッショ!」
(一緒!)



と言った。指先の方向には、守叔父さんのクルマと同じベンツが走っていたのだった。

「俺のクルマと同じベンツ」と言うところを「俺と同じクルマ」と略したうえに、「俺と クルマ 同じ」と語順が入れ替わったようであった。

前置きとして、「あの車」とか「前の車」と言ってくれれば悩まずにすんだのにな・・・、と思った。

私自身、守叔父さんの発する言葉を一字一句、取りこぼさないように聞いていたために、その言葉に集中しすぎて、周囲の様子に気を配れていなかったようであった。

「田舎(鹿児島)ではあまり見ないからね。さすが、東京! たくさん外車が走っているね!」と伝えた。

 





少し余談となるが、鹿児島ではマイカーの外車比率が1.5%、東京では13.6%との事である。実に10倍近くの差がある。全国平均は6.0%。(全国消費実態調査2014年より)

10倍近くの差があれば、外車がたくさん走っているな!と思って当然だろう。

 





赤信号で停止している間に、カーナビアプリの画面を守叔父さんへ見せた。すると、

 

「ナルホド、ソコラヘンニ イケバヨイノカ!」
(なるほど、そこら辺にいけばよいのか!)



という事で、カーナビ無しでも場所が分かるようであった。

さすがに、運送業を営んでいた叔父さんなので、地図上の場所が分かれば、どこにでも行けるようだ。

(つづく)
 

2023年1月18日水曜日

「泣けない人」その48

 


48 、上京二日目.22


守叔父さんの運転するクルマに再度乗り込み、駐車場の出口を目指した。

ゲートバーの手前でクルマを一旦停止し、パーキングチケットを料金精算機へ差し入れると、その直後にゲートバーがスーッと上がった。すると、守叔父さんが、

 

「ホラ、オカネイラナイ!」
(ホラ、お金要らない!)



と言った。その口調には、言外の意味が含まれているように感じられた。特に、「ほら」という言葉には、”俺の言ったとおりだろう!”という風なニュアンスが含まれていた。

なぜ、駐車料金が無料になったのだろうか・・・? そして、なぜ、”俺の言ったとおりだろう!”という風に言うのであろうか・・・?と頭を捻った。

すると、ハッと、私の頭に閃(ひらめ)きがあった。

その閃きのおかげで、この駐車場に乗り入れる直前に、守叔父さんが言っていたチンプンカンプンな言葉が何を意味していたのか、おぼろげではあるが理解することに至った。
 

(チンプンカンプンな言葉は、『「泣けない人」その38、上京二日目.12』に戻り、ご覧ください。)



駐車場に入る前に、私には理解できなかった守叔父さんの言葉は、イトーヨーカドーの駐車料金のシステムの説明であったと思われる。お買い物などをすれば、駐車料金が無料になるという事を伝えたかったのだろう。

後に、駐車料金のシステムを調べてみると、2時間以内の駐車料金は無料であることが分かった。お買上げ1000円以上、セブンカードプラス提示で3時間無料。お買い上げ3000円以上で4時間無料であった。

うどんを食べるために滞在した時間は、1時間足らずだったため無料だったのである。

つまり、駐車場に入る前に、入場ゲートのある駐車場ではあるけれど、無料で利用できることを事前に伝えたかったことになる。

守叔父さんが「全然、お金取られない。」と言うべきところを、「ゼンゼン、オカネ、トレナイ(全然、お金取れない)。」と言ったために、私は意味が分からなくなってしまったのである。

守叔父さんは、助動詞「れる・られる」の表現が、うまくできなくなっているのかもしれない。 

私としては、その時の言葉のすべてが理解できた訳ではないが、部分的ではあるが解明できたことに少しだけ安堵した。

 





私が行き先を伝えると、守叔父さんがどこにでも連れて行ってくれるとの事なので、イトーヨーカドーの駐車場を出ると、城南島海浜公園に向かうことにした。

とは言え、私自身、久しぶりの東京なので、行き先を伝える事は難しい。 とりあえず、海に近づく方向へ向かってほしいと伝えた。

海の方角へクルマが進み始めて、少しの間だけ車内が静かになった。二人とも食事を終えて、胃に血液が回った分、思考能力が低下しているのかもしれない。

守叔父さんが話し出すまでは、私の方から話しかけることはせずに、次に何を言い始めるかを待つことにした。

すると、おもむろに、

 

「ハァー、タノシイ!」
(はぁー、楽しい!)



と、守叔父さんが言葉を発した。その言葉には、深い感情が込められているように感じた。  続けて、

 

「モウ、オレ、イマ、ヒトリッコ デサー、
ゼンゼン、ダメダッタカラ、
アナタハ、イイ!」
(もう、俺、今、一人っ子でさー、
全然、ダメだったから
あなたは、良い!)

 



と、言った。

守叔父さんは、”今、一人っ子”らしい!!!???

先に述べた通り、守叔父さんは実際には7人兄弟姉妹の末っ子であり、 私の母は守叔父さんの実姉である。それなのに、”今、一人っ子”とは?

おそらく、 ”今は一人暮らし”って事を言いたいのだろう。

私の何が良いのか分からないので、「いや、いや、いや」と否定した相づちを打つと、今度は、私に向かって、

 

「ヤサシイ!」
(優しい!)

 



と、強めの口調で言ってきた。 一体、私の何が良くて、何が優しいのだろう・・・?

そして、守叔父さんは、
 

「モウ、オンナハ ダイキライダ!」
(もう、女は大嫌いだ!)



と言った後、少し笑ってから、

 

「デモ、アノナ、チョウジョノ、
アノ、オンナノコハ、ヨカッタ ナァ、
ダイスキ ダッタ。」
(でも、あのな、長女の、
あの、女の子は、良かったなぁ、
大好きだった。)



と、しみじみとした口調で言った。そして、少し間をあけた後、気持ちを切り替えるためなのか、

 

「サァ、イキタイトコロヲ
イッテクダサイ。」
(さぁ、行きたいところを
言ってください!)



と、少し気合の入った声を発した。

(つづく)
 

2023年1月11日水曜日

「泣けない人」その47

 

 


47 、上京二日目.21


トイレから戻ると、守叔父さんは、”飲み物”の自動販売機前に立って待っていた。

”温泉”とは、何だったのか聞こうと思いながら、私が近づくと、その自動販売機を指差しながら、

 

「タベモノ、イラナイ?」
(食べ物、要らない?)



と、バナナミルクを手渡しながら聞いてきた。そのため、”温泉”についての質問をすることができなかった。

守叔父さんの新たな一言によって、二つの疑問が頭に浮かんだ。

一つ目は、バナナミルク(飲み物)を買ってもらったばかりなのに、なぜ、別の飲み物を勧めてくるのか?

二つ目は、なぜ、「食べ物、要らない?」と、”飲み物”の自動販売機を指差しながら聞いてきたのか?

一つ目の疑問に対しては、バナナミルクを飲み終わった後に、口直しのための飲み物を勧めてくれたのかもしれない。つまり、叔父の甥っ子に対する優しい気配りと考えるならば理解できる。 それとも、バナナミルクを飲み物と認識していないのだろうか・・・?

二つ目の疑問に対しては、飲み物も”食べるもの”として、”食べ物”と表現したのかもしれない。

守叔父さんの発する言葉によって、疑問が解決するどころか、ますます増え続けている。

 





自動販売機を目の前にした私は、どの様に返事すれば良いのか考えていた。すると、返答も聞かずに守叔父さんは、財布から小銭を取り出し、自販機の料金投入口へ入れはじめた。

そして、押しボタンの赤いランプが点灯し、


 

「ハイ、ドウゾ!」
(はい、どうぞ!)



と、欲しいモノを選ぶよう勧められた。

「タベモノ、イラナイ?」に関しては、これ以上深く考えず、”スルー”することにした。

片手にはバナナミルクがあるので、甘いものは要らないな・・・。と思い、いつでも飲めるペットボトルのお茶か水を探して、自販機の商品を見回した。

その自販機には、トクホ(特定保健用食品)認定のダイエット効果のあるお茶があったので、「これで痩せさせて頂きます!」と言いながら、ボタンを押した。そして、自分の太鼓腹を擦ると、守叔父さんは私のお腹を見て、

 

「オオキイネ!
(大きいね!)



と言いながら、笑ってくれた。

 





エレベーターに乗り、上階の駐車場へ向かった。 エレベータに乗ると、守叔父さんは、

 

「コノアト、ドコイクノ?」
(この後、どこ行くの?)



と聞いてきた。

私の行き先や行動は、守叔父さん次第なので、守叔父さんの予定を再確認しようと思い、「(守叔父さんは)この後、仕事じゃないの?」と聞いてみた。すると、不思議そうな顔をしながら


 

「ソウナノ?」
(そうなの?)



と答えた。守叔父さん本人の予定にも関わらず、「そうなの?」と言われると、こちらとしては、面喰ってしまうしかない。聞き方が悪かったのかな?と思い、「この後、フリーなの?」と聞いてみた。すると、

 

「キョウハ、ワカンナイ」
(今日は、分かんない。)



との答えが返ってきた。これまた、予想外の答えが返ってきた。再度、聞き方を変え、「仕事に戻らなくていいの?」と聞き直した。すると、

 

「アァー、アァー、
チョットダケハ、
ヤラナイトイケナイコトガ アルケド。
ベツニ ヘイキハ ヘイキダケド
ドッチデモイイ。」
(あぁー、あぁー
ちょっとだけは、
やらないといけないことがあるけど。
別に平気は、平気だけど。
どっちでもいい。)



と、中途半端な答えが返ってきた。

守叔父さんの表情からは、私が要望すれば、その要望に対応しますという感じが伝わってきたので、


 

「(飛行機の)写真を撮りたいので、

浮島町公園か、

京浜島つばさ公園か、

城南島海浜公園の

どちらかに行きたい。」




と伝えた。すると、

 

「ドコデモ イイヨ。
イキサキヲ イッテ。」
(どこでも良いよ。
行き先を言って。)



と、快諾してくれた。おかげで、もう少し守叔父さんと話ができる時間がとれそうだ。

(つづく)
 

2023年1月4日水曜日

「泣けない人」その46

 


46 、上京二日目.20


守叔父さんの口から発せられた『逮捕してくださいと言ったら』との言葉がとても気になり、その詳細を探りたくなった。 しかし、フードコートで食事している時に、深入りする話ではないと考えて、聞き出すことは保留した。 現状、年金の事を聞き出せていないので、年金の事から聞き出そうと思い、「年金は貰えるんじゃないの?」と再々度、聞き返した。

しかし、守叔父さんは、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と笑ったのち、

 

「デモ、ソッチハ、アレダヨネ、
チョウジョガ、イチバン ヨイヨネ。
スエッコハ ダメダヨネ。 ホントニ! 」

(でも、そっちは、あれだよね、
長女が、一番良いよね。
末っ子はダメだよね。ホントに!)



と言い、年金に関しての答えが返ってこなかった。

言葉を替えて、「年金自体、掛けてなかったの?」と質問すると、またまた「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と笑い続けた。 何が面白いのだろう・・・?

守叔父さんが笑っている間に、私はうどんを食べ終えることができた。すると、そのタイミングを見計らったように、守叔父さんは、

 

「オレモ ソウ シヨウ、
アソコニ イッチャオウ!」
(俺もそうしよう、
あそこ行っちゃおう!)



と言いながら立ち上がり、食器返却口へ向かって歩き始めた。

食後、その場でゆっくりと話ができれば良いと思っていたが、マイペースな守叔父さんは、せわしなく次の行動に移ってしまった。

結局、食事中に年金の受給状況を聞き出すことができなかった。 なぜ、年金の事を教えてくれないのだろうか? それとも、「年金」と言う言葉が理解できないのだろうか?

 





食器を返却口へ戻した後、駐車場へ戻るため、エレベーターへ向けて歩きだした。

そのまま、駐車場へ戻るのだろうと思っていたら、守叔父さんはエレベーターホールの近くの店の前で立ち止まった。

クレープの写真が掲げられたデザート店であり、メニューを指差しながら、

 

「タベタイ?」
(食べたい?)



と声を掛けてきた。

うどんを食べた直後に生クリームの甘いものは遠慮したいな・・・。と思ったので、
「要らない!」と答えたのだが、守叔父さんは、ニコニコした表情で繰り返して、

 

「タベタイ?」
(食べたい?)



と、声を掛けてきた。 何だか、注文しないと納得しなさそうな感じであったので、飲み物のお品書きがあれば良いな・・・。と思いながらメニューを見ることとした。

メニューの中に飲み物のリストがあったので、その中からバナナミルクを注文することにした。

注文した後に、守叔父さんは、

 

「オンセン ニ、イッテキテイイ?」
(温泉に、行ってきて良い?)



と、突然言い出した。

イトーヨーカドー店舗内で、”温泉”とは、何だろう・・・? と戸惑ったが、守叔父さんの発したその言葉には、即決の判断を求めるような感じと共に、懇願するような感じを含んだニュアンスであったため、「どうぞ!」と即答した。

すると、守叔父さんは、くるっと後ろを向いて、そそくさと歩き出した。エレベーターホールの横を通り過ぎ、物陰に消えていった。

イトーヨーカドー店舗内に”温泉”があるのだろうか?

守叔父さんは、”温泉”の営業時間を確認しに行ったのかもしれない。

営業時間内ならば、のんびり湯船に浸かりながら話ができるかもしれないな・・・。などと考えながら、クレープ屋の前で一人で待つことになった。

 





しばらく待っていると、スッキリした表情の守叔父さんが戻ってきた。

”温泉”の営業時間はどうだったのだろうか?と思っているところに、ちょうどバナナミルクが店奥から出てきた。

守叔父さんは、支払いを済ませ、バナナミルクを店員さんから受け取った。

”温泉”について、何の報告も無いので、営業時間外だったのかもしれないと思った。

私は、クルマに乗る前にお手洗いに行こうと思い、守叔父さんに「トイレどこかな?」と
尋ねた。すると、先程、守叔父さんが行き、そして戻ってきた方向を指差した。

トイレと”温泉”が同じ方向にあるならば、”温泉”を調べることもできる!と思い、「チョット行ってきます。」と言って、私はトイレに向かうことにした。

守叔父さんに指差された通路の奥には、トイレへの行き先を示す案内板しかなく、”温泉”らしき案内板ははなかった。 

トイレで用を足したのち、個室トイレの中も覗いてみたが、特に変わったものを見つけることはできなかった。

守叔父さんの言う”温泉”とは、何だったのだろう? それとも、トイレの事を”温泉”と言ったのだろうか? もしそうならば、なぜ、トイレを”温泉”と言ったのだろうか?

(つづく)
 

2022年12月28日水曜日

「泣けない人」その45

 

45 、上京二日目.19


なぜ、守叔父さんはモバイルWIFIルーターを持ち歩いているのだろうか? と疑問を持ったが、現時点では、なぜ持っているのかについて、守叔父さん本人に質問することは、次の理由でやめることにした。

もしも、守叔父さんがスマホを通した常時監視下にあり、常に盗聴などの監視されている場合は、ココでの会話を相手に聞かれることになり、その結果、今後の守叔父さんへのアプローチが難しくなるかもしれないと考えたからだ。

とはいえ、IT関連の仕事ならば、二種類のスマホを持ち歩く事はあるかもしれないし、多量のデジタル通信を必要とする仕事をしているならば、モバイルWIFIルーターを持ち歩くこともあるだろう。「歩くだけの仕事」は、ある種の新たなリモートワークの一種なのかもしれない。その様に考えると、モバイルWIFIルーターを持ち歩いていても不思議ではない。

それとも、都会で生活する人たちは、当然のように持ち歩く物なのだろうか・・・?

などと、私がうどんを食べながら考えていると、守叔父さんが、上着の胸ポケットからiPhoneを取り出し、画面を何度もタッチし、フリックしはじめた。

何らかの仕事をやっているのだろうか? しばし、黙って守叔父さんの手の動きを見守った。

その指の動きには、 迷い指のような感じもなく、結構なスピードで指を動かし操作している。 スマホの操作には手慣れた感があった。

その指の動きだけを見ていると、同世代の人がスマホを操作する時に比べ、明らかに達者なように見えた。 

スマホを自由に操り、クルマの運転も上手い。 その様な守叔父さんは、本当に認知症なのだろうか、それとも別の病気なのだろうか・・・?

あらためて、守叔父さんの事を冷静に観察しなければならないと思った。

 





しばらくすると、その指の動きは止まった。そして、スマホの画面を私の方に向け、画面を見せてくれた。

 仕事に関係するものなのだろうか?と、思いながら、画面を覗き込むと、

そこには、一人の女性が表示されていた。私には見覚えのない人であり、年齢的には守叔父さんより、私の方が近い感じの女性である。 一体誰なのだろう?

守叔父さんは、ニコニコした表情とともに、その写真を見せながら「かわいいでしょ!」と言い出した。そして、その女性の事を「リリィちゃん」と紹介してくれた。

リリィさんと守叔父さんとの関係は・・・? と思っていると、守叔父さんは、画面のリリィさんを指さしながら、

 

「チョウジョ、チョウジョ、チョウジョハ イイヨネ!
ジュウネンカ、ナンネンカ、ソノクライ、
イッショニ、スンデタノ。」
(長女、長女、長女は良いよね!
十年か、何年か、そのくらい
一緒に、住んでたの。)



と言った。守叔父さんは、リリィさんと十数年一緒に生活していたらしい。そして、守叔父さんは自分自身を指差しながら、

 

「スエッコ、スエッコハ ダメダヨネ。」
(末っ子、末っ子はダメだよね。)



と言った。その後、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と、笑い続けていた。

リリィさんが長女で、守叔父さんが末っ子。長女は良くて、末っ子はダメとは何なのだろう? どういう事か聞き直そうと思ったけれども、守叔父さんの笑い声が長々と続いたので聞くタイミングを得られなかった。

先ほどは、安西さんは末っ子でダメと言っていたな・・・。

 





豊治叔父さんから、指令の一つ、守叔父さんが年金を貰っているかのどうかを確認するために、「65歳だったらさー、年金は貰ってないの?」と聞いてみた。すると、


 

「イヤ、デモ、オレ、コンゲツノ 〇〇ニチ、
ロクジュウ ロクサイ デス。」
(いやでも、俺、今月の○○日、66歳です。)



と、誕生日と年齢を答えた。「うん、だから、65歳以上だと年金貰えるでしょう!」と再度、聞き返した。すると、

 

「イヤ、ダカラ、キュウリョウ カラ ヒカレズニ、
ヒャクナンマン クダサイ ト イワレタトキニ、
アンザイ カラ 、コウナッテマスヨ。 デ、
タイホ シテクダサイ ッテイッタラ、
マタ、 アンザイ カラ オレン トコロニ
デンワガ カカッテキテ、 
アイツ ウソシカイッテナインダヨ。
 ヒドイヨネ。
スエッコハ ダメダヨナ。」

(いや、だから、給料から引かれずに、
百何万くださいと言われたときに、
安西から、こうなってますよ。で、
逮捕してくださいって言ったら、
また、安西から俺んところに
電話がかかってきて、
アイツ嘘しか言ってないんだよ。 
ひどいよね。 
末っ子はダメだよな。)




と言った。 

 

年金の話は、どこに行ったのだろう・・・? 末っ子はなぜ、ダメなのだろう・・・? 

そして、『逮捕してくださいと言ったら』とは何だろう・・・?

(つづく)
 

2022年12月21日水曜日

「泣けない人」その44

 


44 、上京二日目.18


「歩くだけ」の仕事とは何だろう? 歩く「だけ」の「だけ」が付いている事により、不可解な仕事だと感じた。

車内での会話では、「手取りが30万円」と言っていた。 収入があるのだから、何らかの仕事をしているのだろう。 ただ、歩くだけで月収30万円になるのだろうか・・・? しかも週4日勤務である。

詳細をどの様に聞き出せばよいのだろうか・・・? 

守叔父さんの仕事と関連する言葉の中に、「佐藤さん」と言う固有名詞があったので、「佐藤さんって運送業じゃないの?」と聞いてみた。 すると、

 

「アノー、ハチジニ、シチジカラ、
ボクハ モウ、アルイテイルノ・・・。
イチジカン。 ソンデ、オワッテカラ、
アノ、 オワッテカラ、クルマガ アルカラ、
ソノクルマッテイウカ、オッキイヤツニ、
ソコニ ノッカッテ、ピューット イッタラ、
オカネガ イクラカナ?
ニジュウエン カナ?
スグ オワルッテ イウヤツ。」

(あのー、八時に、七時から、
俺はもう、歩いているの・・・。
一時間。そんで、終わってから、
あの、終わってから、クルマがあるから、
そのクルマって言うか、おっきいやつに、
そこに乗っかって、ピューっと行ったら、
お金いくらかな?
20円かな? 
すぐ終わるっていうやつ。)



と、さっぱり理解できない言葉の羅列が続いたので、仕方なく、
「何言ってるのか、分からん。」と守叔父さんに向かって言った。すると、

 

「ニジュウエン ダッタラ イイジャン!
クルマデ ズーット ヤッタラ、
ドンドン リョウガエガ オオクナッチャウ。
クルマガ イチバン。」

(20円だったらいいじゃん!
クルマでズーットやったら、
どんどん両替が多くなっちゃう。
クルマが一番。)



と返事が返ってきた。

何なんだろう? さっぱり、理解できない。

クルマか何かの大きいものに乗るようだが、20円とは何の費用なのだろうか? 20円ぽっちで、何ができるのだろうか?

 





守叔父さんと合流して、まだ一時間経ってない。しかし、私の頭の中には、守叔父さんの意味不明な言葉が散乱し、グチャグチャとなりはじめていた。

必死になって、それらの言葉を整理整頓しつつ、守叔父さんの伝えたい事を理解しようと心掛けたが、徐々に、頭がオーバーヒートしつつあった。

これ以上、守叔父さんの話を理解しようと必死に聞いていても、身が持たないと思い、一旦、話題を変えることにした。

 





「今回ね、飛行機の写真撮ろうかな!と思って東京に来てて、今朝も、朝一番に羽田空港へ行って写真撮って、その後、叔父ちゃんに電話しようかなって思ってたの。」と伝えた。
すると、守叔父さんは目を丸く見開いた顔で、

 

「ゼンゼン、シラナカッタ。」
(全然、知らなかった。)



と言った。もちろん、知らせてないので、知らないことは当然なのに・・・。

目を丸く見開いたその表情から、飛行機に興味があるのだろうか?と思っていると、
守叔父さんは、おもむろに上着のポケットに手を入れはじめた。

そのポケットは、先ほどiPhoneを取り出したポケットとは反対側の胸ポケットであった。

そして、そのポケットから出てきたものは、AndroidのスマホとモバイルWIFIルーターであった。

飛行機に関して、なんらかの関係のある行動なのかと思って注視していると、それぞれの電池の残量を確認しただけで、それらをすぐにポケットへしまいこんでしまった。 その思わせぶりな行動は何だったのだろう・・・?

それらの機器は、守叔父さんの仕事に必要なものなのだろうか?

仕事用の電話とプライベート用の電話をそれぞれ持ち歩く事はあるかもしれないが、プラス、モバイルWIFIルーターを持ち歩く必要があるのだろうか?

「歩くだけの仕事」と「モバイルWIFIルーター」との間に何らかの関係があるのだろうか・・・?

それとも、モバイルWIFIルーターを通じて、守叔父さんは間接的に、誰かに軟禁・支配されているのだろうか・・・?

(つづく)
 

2022年12月14日水曜日

「泣けない人」その43

 


43 、上京二日目.17


守叔父さんとの会話のキャッチボールは、うまくいっていない。 

会話のキャッチボールがうまくできなくても、とにかく、守叔父さんの話を聞くことによって、叔父さんの現在の状況を少しでも把握しなければならない。 

もう少し会話を続けるため、お盆を持ったまま立っている守叔父さんを着席させることはできないだろうか?

そのため、「今日の午後は、この後、また仕事があるの?」と聞いてみた。


すると、

 

「アトハ ナイ、
・・・
イロイロ」

(あとは無い、
・・・
色々)



との返事が返ってきた。 「イロイロ」が何なのか分からないけど、とりあえず、午後の仕事は無いようだ。 仕事が無いなら、ゆっくりと話ができるだろう。

「まだ、うどん食べ終わってないから、叔父ちゃん座ってよ!」と伝えた。すると、守叔父さんは、素直に元の席に座ってくれた。 

 「食べるの遅くて、ごめんね」と伝えると、ニコニコした表情で、

 

「ダイジョウブ」



との定型句が戻ってきた。そして、守叔父さんは、続けて、

 

「イツモ、コウイウトコデ タベナクテ、
イツモ、コウイウノ トッテカエッテ、
ヤスイノヲ イエデ タベルノ。」

(いつも、こういうとこ(ろ)で食べなくて、
いつも、こういうの とって帰って、
安いのを家で食べるの。)



と言った。日常的に外食している訳ではなさそうである。「トッテカエッテ(とって帰って)」が気になったので、「スーパーで、買って帰るの?」と問うと、

 

「ソウ!」
(そう!)



と答えてくれた。「盗って帰って」ではなさそうである。「ヤスイノヲ(安いのを)」とは、インスタント麺やカップ麺なのだろうと思うが、その詳細を聞き出すのは後回しにしよう。
 





言葉を操る事がうまくできず、会話のキャッチボールがうまくできない様子なのに、本当に仕事ができるのだろうか? できるとすると、一体、どんな仕事をしているのだろうか? 

今朝は、なんらかの仕事の後に迎えに来てくれた様子なのだが・・・。

まず、出勤時刻を聞こうと考え、「いま(現在)、何時位に仕事に行くのに家を出るの?」と聞いた。すると、

 

「ナノデ、ゲツヨウビハ カイロトカ ナントカニ イッテ、
ドヨウビ、ニチヨウビハ ベツノ トコロニ イッテ、
チョットズツ、ヤワラカクナッテキテ」

(なので、月曜日はカイロとか何とかに行って、
土曜日、日曜日は別の所に行って、
ちょっとずつ、柔らかくなってきて・・・。)



守叔父さんは、出勤時間を答えることなく、一週間のスケジュールを話しはじめた。 何が硬くて、柔らかくなったのだろう・・・? 

「体が硬くなってたの? いつからカイロに行ってるの?」と聞いてみた。

 

「コトシノ ロクガツ クライ カナ、ゴガツ カナ?
ゴガツニ サトウサン カラ 
『チョット、オマエ、カラダ ワルイカラ、カエレ!』
ッテ イワレテ」

(今年の6月位かな、5月かな?
5月に佐藤さんから
『ちょっと、お前、体悪いから、帰れ!』
って言われて)



との返事があった。

二度目の「佐藤さん」という名前が出てきた。おそらく、職場の上司なのだろう。体調不良を見かねて、休みをとるようにアドバイスしてくれたと思われる。

守叔父さんは、以前、運送業を営んでいたので、今もクルマを使った仕事をやっているのかもしれないので、「軽自動車で回るの、それとも、いろんなクルマで回るの?」と聞くと、

 

「アルクダケ」
(歩くだけ)



との返事が帰ってきた。「歩くだけ?」と相づちを打つと、

 

「ソウ、アルクダケ!」
(そう、歩くだけ!)



との返事が再び帰ってきた。

一体、仕事とは何なのだろう、歩くだけとは・・・?

(つづく)
 

2022年12月7日水曜日

「泣けない人」その42

 


42 、上京二日目.16


守叔父さんと安西さんとの間の金銭問題については、まず、その代理人へのヒアリングが必要だと考える。そのため、代理人の名前を聞き出そうと、「守叔父ちゃんに、代理人がいるの?」と質問した。すると、首をかしげながら、

 

「ダイリニン?
ワカラナイイ」
(代理人?
分からない。)



との返事があった。「安西さんとのお金のトラブル解決のための仲介人がいるんでしょ?」と聞き直した。すると、守叔父さんはもう一度、スマホの画面を私に見せて、

 

「イチバン シタニ カイテアルデショ」
(一番下に書いてあるでしょ)



と言った。スマホ画面の一番下に書いてあるのは、「安西逢子」の文字である。
安西さんが代理人? 本人が代理人??? そんな訳がない。聞き直そうと思ったら、

 

「ソレカラ、オレントコロニ デンワガキテ、
ソレデ、ソノ カイケイシノ トコロカ ナンカニ、
イヤ モウ オレハ、アノ、アンザイカラ
ゼンブ オカネ トッテタカラ、
ボクハ デキマセンッテ、
ハナシヲ イツモ シテイタノ。」

(それから、俺んところに電話がきて、
それで、その会計士のところかなんかに、
いやもう俺は、あの、安西から
全部お金とってたから、
僕はできませんって、
話をいつもしていたの。)



代理人について質問したのにも関わらず、「会計士」という言葉が返ってきた。
「代理人」=「会計士」なのだろうか? それとも、別人なのだろうか?

そして、「安西から 全部お金とってた」とは、どういうことだろう?

字面どおりならば、守叔父さんが加害者の立場で、安西さんは被害者となる。そうすると、お金を返却しなければならない。

しかし、守叔父さんは、自分が被害者のような口ぶりで話をしている。「安西から 全部お金盗られた」という事なのだろうか?

受け身の言葉「れる・られる」の表現がうまくできないのだろうか・・・?

そもそも、安西さんから要求されている立替金とは、何のための代金を用立てしてるのだろうか? 守叔父さんに、「立替金は、何に使われたお金なのかな?」と聞いてみた、すると、

 

「イヤ、オレト オナジ ジャン、スエッコ ジャン。
スエッコッテ モウ、ミンナ ダメダヨネ。
デ、 オレガ、マエ、ホラ、クルマトカ、
ナンカヲ イッパイ トッテタトキニ、
アンザイ サン カラ ハイ ハイ ッテ イッテ、
オレ モウ ホントニ ナンジュウマンクライカ
コウヤッテ アゲテタンデスヨ
オレ、バカ ダヨネ。」

(いや、俺と同じじゃん、末っ子じゃん。
末っ子ってもう、みんなダメだよね。
で、俺が、前、ほら、クルマとか、
なんとかをいっぱいとってたときに、
安西さんからハイハイって言って、
俺もうホントに何十万くらい
こうやって あげてたんですよ。
俺、バカだよね。)



と言った後に、すこしの間だけバツの悪そうな顔をしたものの、直後には「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・。」と他人事のように笑いはじめた。

「何十万くらい こうやって あげてたんですよ」とは、数十万円のお金をプレゼントしていたのだろうか? プレゼントとしてお金をあげていたのならば、盗られた訳でもない。

先ほどは、安西と呼び捨てにしたのに、今回は安西「さん」付けでの発言であった。

加害者なのか被害者なのか、受動的な言葉なのか、能動的な言葉なのか? 

理解しづらい言葉が並んでいる。

守叔父さんは笑いながら話をしているけれども、私はそのトンチンカンな回答に、ただただ困惑するしかなかった。会話のキャッチボールがうまくできず、そのすべてが明後日の方へ返球されてくるようなものである。

守叔父さん、安西さんともに末っ子であることと、立替金の存在に何らかの関係があるのだろうか?

「クルマとか、なんかをいっぱいとってた」とは、どういうことだろう? 特に「とってた」とは、どの漢字なのだろう。「取る、撮る、執る、採る、摂る、盗る」などを頭に浮かべたが、まさか「盗る」ではないだろう。

 





頭を捻って考えていると、いつのまにか、守叔父さんはすでにきつねうどんを食べ終えていた。私は、まだ半分もうどんを食べてないのに・・・。

そして、私が残りを食べている最中であるのにも関わらず、守叔父さんは席から立ち上がった。椅子を押し込み、そして、どんぶりの載ったお盆を持ち上げた。

「食事終了!& 食器返却の準備が完了!」って感じでその場に立っている。このままの状態で、 お盆を持ったまま、私の食事が終わるのを待つようだ。 

小さな子供が、食事を終え、空腹から解放されて次の行動に移るような感じであり、親の食べ終わるのをじっと待っているような感じでもあった。まだ、座っていればよいのに、すでに、次の行動へ気持ちは移っているようであった。

繰り返すが、私はうどんを半分も食べ終わっていないのに・・・。

(つづく)
 

2022年11月30日水曜日

「泣けない人」その41

 


41 、上京二日目.15

守叔父さんは、うどんを少し食べた後、話し始めた。

 

「ダカラ、ソレデー、アノー、
ボクガ ヤッテルノガ、
カ、スイ、モク、キン、
タッタ コノ ヨッカカン シカ
ムコウニ イカナインデスヨ。」
(だから、それでー、あのー、
僕がやってるのが、
火、水、木、金、 
たった、この四日間しか
向こうに行かないんですよ。)



仕事の話なのだろうか?  「向こうって、お仕事の事?」 と質問すると、

 

「ソウソウ、オシゴトジャナイケド、
マァ、ソコ イッテネ、
イロンナコトヤルトカ。
イヤー、ムズカシイ。」
(そうそう、お仕事じゃないけど、
まぁ、そこ行ってね、
いろんなことやるとか。
いやー、難しい。)



そして、続けて、

 

「ヒャッ、ハッ、ハッ」
(ひゃっ、はっ、はっ、はっ。)



と守叔父さんは笑った。

「オシゴトジャナイケド」というところが少し気にかかったが、月曜日は、毎週カイロプラクティックに通い、火曜〜金曜はなんらかの「仕事?」をして、土日は休むというスケジュールで行動しているようだ。

以前は、休めるときに休むという不定期なスケジュールで仕事をしていたが、現在は、定期的に休めるようなスケジュールとなったようである。
「イヤー、ムズカシイ」とは、どういう意味なのだろう?

難しい仕事をやっているという事だろうか、それとも、私に対して「守叔父さんの意思」を伝える事が難しいって事なのか、はたまた、単なる口ぐせなのだろうか・・・?

 





今日は火曜日(2021年11月30日)なので「仕事?」の日である。守叔父さんは、この後、「仕事?」の予定があるのかもしれない。

子供のように食べている理由は、午後の「仕事?」に戻るために急いでいるのかもしれないと思った。  そのため、私も急いでうどんを食べなければいけないのだろうか?

ゆっくりと話せるのはいつになるのだろうか?、次に会えるのは12月4日土曜日なのだろうか?

明日(水曜)〜金曜の間は何をやって時間を過ごそうかな・・・?と予定を考えていると、守叔父さんは、胸ポケットからスマホを取り出しながら、

 

「オレダケハ、イヤ ホントニ
ニヒャクマン、ニヒャクマン、
ズゥーット トッテタノニ、
アノ アンザイ カラガ ゼンブ オカネ 
トッテタモンナ、ヒドイヨ。
オレントコニ マッタク デンワ コナイノニ、
ヘンナ ショルイデサ、コレヲ ナントカシテ、ナントカッテ、
アイツ バカダヨネ。」
(俺だけは、いやホントに
200万、200万、
ズゥーっと取ってたのに、
あの安西からが全部お金
とってたもんな、ひどいよ。
俺んとこにまったく電話来ないのに、
変な書類でさ、これを何とかして、何とかって、
あいつはバカだよね。)



と言い出した。そして、スマホの画面を私に見せながら、

 

「ホラ、コンナノ オレンントコ
クルンダヨ、バカ ダヨネ。
ダカラ、オレカラ イツモ
ヒャク ナンマン、ヒャク ナンマン トッテテ、
イチネン クライ ヤッタトキニ、
ホラ、イチバンシタニ アルジャナイデスカ、
アンザイ」
(ほら、こんなの俺んとこ
来るんだよ、バカだよね。
だから、俺からいつも
100何万、100何万取ってて、
1年間位やったときに、)
ほら、一番下にあるじゃないですか、
安西)



と言った。

スマホの画面は、安西さんから届いた二通のショートメッセージであった。守叔父さんからスマホを借りて、そのメッセージを見せてもらった。

 

7月1日
「至急立替金のお振込みをお願いいたします。
立替金○○○○○○円です。下記の口座にお振込みをお願いいたします。
○○銀行○○支店口座番号○○安西逢子
2019年7月末日に貴殿代理人にもお伝えしました、立替金です。」


 

11月27日
「立替金○○○○○○円です。
下記の口座にお振込みをお願いいたします。
○○銀行○○支店口座番号○○安西逢子」



それらのメッセージから、守叔父さんは安西さんに対して十数万円の負債があるようだ。そして、それは2年以上前のものであることが分かった。

守叔父さんの口から出てきた言葉では、安西さんに「100何万、100何万」お金を取られたような言いぶりであるが、安西さんのメッセージでは、逆に安西さんに返さなければならない「十数万円」のお金があることになる。

また、守叔父さんには代理人がついていることもわかった。

代理人とは誰だろう? そして、その代理人に聞けば、トラブルの内容がわかるのだろうか?

(つづく)