2023年4月26日水曜日

「泣けない人」その60

 


60 、上京三日目.2

日曜日に会うつもりでいたのに、「11時30分には、行きます。」との守叔父さんの返事には、面喰い、そして戸惑いを感じた。

昨日の別れ際の守叔父さんの言葉は、一体何だったのだろう?

そんなに簡単に、スケジュールを変更できるのだろうか・・・?

私が連絡を入れたわずか2分後の返事であった。

その2分間で職場もしくは、仕事相手に対して連絡を入れて、早退の旨を伝える。その後、私に返事をする。といったプロセスを踏んでいるのだろうか?

私の感覚では、その様な間があったように感じていない。 守叔父さんの独自の判断だけで、スケジュールが変更できると考えた方が良いだろう。

まぁ、会えるのならば会った方が良いに決まっているが・・・。
雨も降っているし、ノンビリしようと思っていた心が、それを少しだけ拒否しようとも動いていた。

守叔父さんが、宿の前にクルマで来てくれたら、その時は、気分が変わり外出したくなるだろう!
4時間以上先の話だ! とりあえず、ノンビリとコーヒーを飲むこととした。

 





コーヒーを飲みつつ、スパイ7つ道具のメンテナンスをはじめた。

ボイスレコーダーやスパイカメラの充電や内部データのバックアップなどである。


昨日のデータも再度、内容を確認しておいた方が良いだろう。
聞き逃した言葉、見逃した情報があるかもしれないし・・・。

 





ボイスレコーダの音声は、二通りの方法で再生できる。

一つ目は、本体に、外付けのコントローラを接続して再生する方法。

二つ目は、USB接続で内部メモリに記録された音声ファイルをPCやiPad等にダウンロードし、音声ファイル再生ソフトで再生する方法である。

最初、一つ目の方法で試してみたが、コントローラの操作性がいまいちであること、そして再生音が悪かったので、二つ目の方法を試した。

音声ファイルは、WAVファイルでPCでもアップルでも使えるものである。

iPadとボイスレコーダーを接続し、音声データをダウンロード。

iPadで再生を行った。 思ったよりノイズが少ない状態で音声が記録されていた。

スパイカメラの方は、microSDカードに動画が記録されるので、そのmicroSDカード内のデータをiPadへコピーし、動画を再生した。

音声ファイル、動画ファイルをそれぞれ、早送りで視聴したが、これと言って、特に気になる事を見つけることはできなかった。

 





集中して、それらの事をやっているといつの間にか3時間経過し、午前10時になっていた。

外を見ると雨は既に止んでいた。 ベランダに出て、雨後の澄み切った空気を肺に入れると、少し体に活気が戻ったような気がした。

ベランダでの深呼吸によって、私の心の中の「やる気スイッチ」のボタンがONになったようだった。

11時30分に来るって事なので、その少し前に守叔父さんは仕事から帰宅するだろう!

自宅前で待ち伏せし、仕事からの帰り道を確認しようと思い、11時位に守叔父さんの家に着くように出かけることにした。

最短の道のりで宿から守叔父さんの家に向かえば、早く着きすぎるので、呑川の川沿いや、海岸沿いの道を選択して、時間を調整することとした。

海岸沿いの道を選んだのは、時間調整だけでなく、飛行機の写真が撮れるかもしれないと言う期待からだった。

呑川の河口付近には、腰掛けるのに丁度良い高さの階段状の護岸があった。

30分位、その場所で羽田空港への飛行機の飛来を待ち、その写真を撮って時間調整をしようと考えた。

望遠レンズを構え、遠くの飛行機を撮影していると、携帯電話のバイブレーションとともに着信音が鳴り始めた。 カメラを下ろし、電話を受話しようとしている最中に着信音が消えてしまった。

発信元は、守叔父さんであった。 予定よりほぼ1時間早い10:35であった。

予定時刻よりだいぶ早く、着信音も短かったため、再度、電話を掛けてくれるだろうと思い、再度、カメラを構え、飛行機を撮影し始めた。

呑川の河口から飛行機の航路は1km以上離れているため、機影は小さなものしか撮影できないが、4機ほど撮影すると、再度携帯電話が鳴り始めた。

守叔父さんからの電話である。

受話し、「もしもし」と伝えると、

「着いたよ!」との返事が返ってきた。

「えっ?」と思わず、声が出てしまった。

迎えに来てくれる予定は、11時30分なのに、今は、10時40分。

守叔父さんは、今、私の宿の前に到着したようだった。 

職場から直接、宿に向かったのだろうか? それとも、仕事を1時間も早く終わらせる事ができたのだろうか・・・?

待ちぼうけを食らうより、早く来てもらう方が嬉しいが、こちらの計画が乱されるのに少し戸惑いを感じた。

(つづく)
 

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