2022年12月7日水曜日

「泣けない人」その42

 


42 、上京二日目.16


守叔父さんと安西さんとの間の金銭問題については、まず、その代理人へのヒアリングが必要だと考える。そのため、代理人の名前を聞き出そうと、「守叔父ちゃんに、代理人がいるの?」と質問した。すると、首をかしげながら、

 

「ダイリニン?
ワカラナイイ」
(代理人?
分からない。)



との返事があった。「安西さんとのお金のトラブル解決のための仲介人がいるんでしょ?」と聞き直した。すると、守叔父さんはもう一度、スマホの画面を私に見せて、

 

「イチバン シタニ カイテアルデショ」
(一番下に書いてあるでしょ)



と言った。スマホ画面の一番下に書いてあるのは、「安西逢子」の文字である。
安西さんが代理人? 本人が代理人??? そんな訳がない。聞き直そうと思ったら、

 

「ソレカラ、オレントコロニ デンワガキテ、
ソレデ、ソノ カイケイシノ トコロカ ナンカニ、
イヤ モウ オレハ、アノ、アンザイカラ
ゼンブ オカネ トッテタカラ、
ボクハ デキマセンッテ、
ハナシヲ イツモ シテイタノ。」

(それから、俺んところに電話がきて、
それで、その会計士のところかなんかに、
いやもう俺は、あの、安西から
全部お金とってたから、
僕はできませんって、
話をいつもしていたの。)



代理人について質問したのにも関わらず、「会計士」という言葉が返ってきた。
「代理人」=「会計士」なのだろうか? それとも、別人なのだろうか?

そして、「安西から 全部お金とってた」とは、どういうことだろう?

字面どおりならば、守叔父さんが加害者の立場で、安西さんは被害者となる。そうすると、お金を返却しなければならない。

しかし、守叔父さんは、自分が被害者のような口ぶりで話をしている。「安西から 全部お金盗られた」という事なのだろうか?

受け身の言葉「れる・られる」の表現がうまくできないのだろうか・・・?

そもそも、安西さんから要求されている立替金とは、何のための代金を用立てしてるのだろうか? 守叔父さんに、「立替金は、何に使われたお金なのかな?」と聞いてみた、すると、

 

「イヤ、オレト オナジ ジャン、スエッコ ジャン。
スエッコッテ モウ、ミンナ ダメダヨネ。
デ、 オレガ、マエ、ホラ、クルマトカ、
ナンカヲ イッパイ トッテタトキニ、
アンザイ サン カラ ハイ ハイ ッテ イッテ、
オレ モウ ホントニ ナンジュウマンクライカ
コウヤッテ アゲテタンデスヨ
オレ、バカ ダヨネ。」

(いや、俺と同じじゃん、末っ子じゃん。
末っ子ってもう、みんなダメだよね。
で、俺が、前、ほら、クルマとか、
なんとかをいっぱいとってたときに、
安西さんからハイハイって言って、
俺もうホントに何十万くらい
こうやって あげてたんですよ。
俺、バカだよね。)



と言った後に、すこしの間だけバツの悪そうな顔をしたものの、直後には「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・。」と他人事のように笑いはじめた。

「何十万くらい こうやって あげてたんですよ」とは、数十万円のお金をプレゼントしていたのだろうか? プレゼントとしてお金をあげていたのならば、盗られた訳でもない。

先ほどは、安西と呼び捨てにしたのに、今回は安西「さん」付けでの発言であった。

加害者なのか被害者なのか、受動的な言葉なのか、能動的な言葉なのか? 

理解しづらい言葉が並んでいる。

守叔父さんは笑いながら話をしているけれども、私はそのトンチンカンな回答に、ただただ困惑するしかなかった。会話のキャッチボールがうまくできず、そのすべてが明後日の方へ返球されてくるようなものである。

守叔父さん、安西さんともに末っ子であることと、立替金の存在に何らかの関係があるのだろうか?

「クルマとか、なんかをいっぱいとってた」とは、どういうことだろう? 特に「とってた」とは、どの漢字なのだろう。「取る、撮る、執る、採る、摂る、盗る」などを頭に浮かべたが、まさか「盗る」ではないだろう。

 





頭を捻って考えていると、いつのまにか、守叔父さんはすでにきつねうどんを食べ終えていた。私は、まだ半分もうどんを食べてないのに・・・。

そして、私が残りを食べている最中であるのにも関わらず、守叔父さんは席から立ち上がった。椅子を押し込み、そして、どんぶりの載ったお盆を持ち上げた。

「食事終了!& 食器返却の準備が完了!」って感じでその場に立っている。このままの状態で、 お盆を持ったまま、私の食事が終わるのを待つようだ。 

小さな子供が、食事を終え、空腹から解放されて次の行動に移るような感じであり、親の食べ終わるのをじっと待っているような感じでもあった。まだ、座っていればよいのに、すでに、次の行動へ気持ちは移っているようであった。

繰り返すが、私はうどんを半分も食べ終わっていないのに・・・。

(つづく)
 

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