2022年9月7日水曜日

「泣けない人」その29

 


29 、上京二日目.3

守叔父さんからのメールが届いた後、5分ほど待ってから電話を掛けることにした。

ダイヤル発信後、呼び出し音を3回繰り返したところで、守叔父さんが電話に出てくれた。

 

 


「モシモシ」

 

 

 

少し食い気味に、

 

 

 

 


「もしもし、柑太郎です。守叔父さん、こんにちは」

 

 

 

と伝えると、

 

 

 

 

 


「モシモシ、ドウシタノ?、イマ、ドコニイルノ?」
(もしもし、どうしたの? 今、何処に居るの?)

 

 

 

との、メールの返答と同じ質問が返ってきた。

その会話口調には、メールに添えられた絵文字と同様に、突然の私の上京に驚いた様子とともに、なぜ、来たのだろうという疑問も含まれていた。

一週間前の電話では、たどたどしい言葉とともに、迷惑そうな感情を含み、少し他人行儀なよそよそしい応対であった。

しかし、今日の会話では、近くに来ている事が嬉しいようなニュアンスも含まれており、定型句的な会話の滑り出しはスムーズであった。

電話の声の背景には街の喧騒が聞こえたので、自宅内ではなく、外出先で話していることを察する事ができた。

居場所を具体的に伝えるのは、まだ危険かもしれないと考え、少し誤魔化し、

 

 

 

 

 


「東京に遊びに来てます。」

 

 

 

と答え、続けて、

 

 

 

 

 

 

「今、忙しいですか? 仕事中ですか?」

 

 

 

 

 

と問いかけた。

 

 

 

 

 

 

「イマ、シゴトチュウ」
(今、仕事中)

 

 

 

との返答が来た。続けて、

 

 

 

 

 

 

「ドコ、イキマスカ?」
(どこ、行きますか?)

 

 

 

との問いかけが戻ってきた。「今、何処に居るの?」と再質問されると思っていたら、「何処、行きますか?」との言葉であった。

居場所を説明する必要が無くなり、少し、ホッとしつつ、

 

 

 

 

 


「久しぶりの東京なので、適当にブラブラしようと思ってます。」

 

 

 

と伝えると、少しの「ウゥン、ウーン」と唸り声とともに悩み考えている様な間を置いた後、

 

 

 

 



「ジュウイチジニ、デンワスル、マッテテ」
(11時に電話する、待ってて)

 

 

 

との返答が返ってきた。

 

 

 



「今日、会えるのかな?」

 

 

 

と返すと、

 

 

 

 

 


「ワカラナイ、デンワスル、マッテテ」

(わからない、電話する、待ってて)





「シゴト ・・・ ハナシ ・・・ スル」

(仕事 ・・・ 話 ・・・する)

 

 

 

と半分は、たどたどしく意味不明な返事がきた。

理解するために、いくつか質問を返したのだが、それぞれの質問に対して、

 

 

 

 

 


「ワカラナイ」

「ワカラナイ」

「ワカラナイ」

 

 

 

との返答が、たて続けに返ってきた。

自分の都合の良いように勝手に解釈し、私に会うために、仕事時間の調整をする事だと理解することにして、

 

 

 

 


「よくわからないけど、分かった、待ってます!」

 

 
 

と答えた。

 

 

 

 

 


「ジュウイチジニ、デンワスル、ジャーネ!」

(11時に、電話する、じゃーね!)

 

 

 

との答えの後、通話が切れた。

短い電話から、

・守叔父さんは、自由に外出できるような状況であり、拉致、監禁されている事はなさそうである。

・単独行動していること。
・今、仕事中。
・仕事の都合次第では、今日、会えるかもしれない。
・11時に電話すること。
・会話の一部が、意味不明であったこと。
・難しい事を聞いている訳ではないのに、分からないと返答する。

という事が理解できた。


わずか10分前には、守叔父さんが在宅か、留守なのかについて悩んでいた。

能動的に動いてメールしたことにより、アパートを借りることなく、四六時中の監視をすることも無くなりそうである。

二時間後の11時の電話次第では、守叔父さんに会える可能性がでてきた。

「案ずるより産むが易し」なのか、少しだけ事が前進した様に感じた。

喫緊の課題は、二時間後の電話をどこで待つのが良いか、待ち合わせ場所はどこが良いかを考えることとなった。

(つづく)
 

 

 

 

 

0 件のコメント:

コメントを投稿