29 、上京二日目.3
守叔父さんからのメールが届いた後、5分ほど待ってから電話を掛けることにした。
ダイヤル発信後、呼び出し音を3回繰り返したところで、守叔父さんが電話に出てくれた。
「モシモシ」
少し食い気味に、
「もしもし、柑太郎です。守叔父さん、こんにちは」
と伝えると、
「モシモシ、ドウシタノ?、イマ、ドコニイルノ?」
(もしもし、どうしたの? 今、何処に居るの?)
との、メールの返答と同じ質問が返ってきた。
その会話口調には、メールに添えられた絵文字と同様に、突然の私の上京に驚いた様子とともに、なぜ、来たのだろうという疑問も含まれていた。
一週間前の電話では、たどたどしい言葉とともに、迷惑そうな感情を含み、少し他人行儀なよそよそしい応対であった。
しかし、今日の会話では、近くに来ている事が嬉しいようなニュアンスも含まれており、定型句的な会話の滑り出しはスムーズであった。
電話の声の背景には街の喧騒が聞こえたので、自宅内ではなく、外出先で話していることを察する事ができた。
居場所を具体的に伝えるのは、まだ危険かもしれないと考え、少し誤魔化し、
「東京に遊びに来てます。」
と答え、続けて、
「今、忙しいですか? 仕事中ですか?」
と問いかけた。
「イマ、シゴトチュウ」
(今、仕事中)
との返答が来た。続けて、
「ドコ、イキマスカ?」
(どこ、行きますか?)
との問いかけが戻ってきた。「今、何処に居るの?」と再質問されると思っていたら、「何処、行きますか?」との言葉であった。
居場所を説明する必要が無くなり、少し、ホッとしつつ、
「久しぶりの東京なので、適当にブラブラしようと思ってます。」
と伝えると、少しの「ウゥン、ウーン」と唸り声とともに悩み考えている様な間を置いた後、
「ジュウイチジニ、デンワスル、マッテテ」
(11時に電話する、待ってて)
との返答が返ってきた。
「今日、会えるのかな?」
と返すと、
「ワカラナイ、デンワスル、マッテテ」
(わからない、電話する、待ってて)
・
・
・
「シゴト ・・・ ハナシ ・・・ スル」
(仕事 ・・・ 話 ・・・する)
と半分は、たどたどしく意味不明な返事がきた。
理解するために、いくつか質問を返したのだが、それぞれの質問に対して、
「ワカラナイ」
・
「ワカラナイ」
・
「ワカラナイ」
・
との返答が、たて続けに返ってきた。
自分の都合の良いように勝手に解釈し、私に会うために、仕事時間の調整をする事だと理解することにして、
「よくわからないけど、分かった、待ってます!」
と答えた。
「ジュウイチジニ、デンワスル、ジャーネ!」
(11時に、電話する、じゃーね!)
との答えの後、通話が切れた。
短い電話から、
・守叔父さんは、自由に外出できるような状況であり、拉致、監禁されている事はなさそうである。
・今、仕事中。
・仕事の都合次第では、今日、会えるかもしれない。
・11時に電話すること。
・会話の一部が、意味不明であったこと。
・難しい事を聞いている訳ではないのに、分からないと返答する。
という事が理解できた。
わずか10分前には、守叔父さんが在宅か、留守なのかについて悩んでいた。
能動的に動いてメールしたことにより、アパートを借りることなく、四六時中の監視をすることも無くなりそうである。
二時間後の11時の電話次第では、守叔父さんに会える可能性がでてきた。
「案ずるより産むが易し」なのか、少しだけ事が前進した様に感じた。
喫緊の課題は、二時間後の電話をどこで待つのが良いか、待ち合わせ場所はどこが良いかを考えることとなった。
(つづく)
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