2022年11月16日水曜日

「泣けない人」その39

 


39 、上京二日目.13

守叔父さんの歩きは、思いのほか速かった。その歩みは、遊園地において次の乗り物へ急ぐ子供のような感じであった。

エレベーターホールへ向かう途中で、私の方を振り返り、ニコニコした満面の笑みで、

 

「ココハ、オモシロイヨ!」
(ここは、面白いよ!)



と言った。ここのイトーヨーカドーは何か特別な店舗なのだろうか?と思いつつ、守叔父さんの後を追った。

守叔父さんの歩みは、エレベーターホールでは止まらず、その横の階段ホールへ進んで行った。そして、子供のごとき軽快なステップで、ポン、ポン、ポンと一段飛ばしで階段を駆け下りていった。

守叔父さんは、66歳! だいぶ前に赤色のちゃんちゃんこに袖を通した人である。その叔父さんが階段を一段飛ばしで走って降りてゆく!!!  非常に元気そうであり、快活そのものであった。

一階下のエレベーターホールに進み出ると、その先にはテーブルやイスがたくさん並んだフードコートが広がっていた。

グルメな叔父さんだと思っていたので、まさか、フードコートに連れて来るなんて、思いもしなかったが・・・。

ふと、一週間前(11月23日午前)の電話での言葉「オ、カ、ネ、ナ、イ・・・。」を思い出していた。

私は、特に好き嫌いがあるわけでなく、特別なグルメでもない。 今は、守叔父さんの様子をみることが主目的であるので、食べ物にこだわることもない。

クルマに乗った直後に守叔父さんの言っていた、

 

「オモシロイトコロニ イコウ。」
(面白いところに行こう。)

「ズゥーーット イッタトコロノ ヒダリニ、
イッパイ タベルモノガアルノ!」
(ずーーっと行ったところの左に、
いっぱい食べるものがあるの!)



とは、イトーヨーカドーのフードコートの事であったのだ。

たしかに、色々な種類の食べ物がある。 子供の頃ならば、楽しい場所の一つであろうが、・・・。

今は、守叔父さんの行動を細かく見る方が大切である。 特に要望したわけではないが、豊治叔父さんのアドバイスとおり「なるべく広くて見晴らしの良い落ち着けるところで食事でもしながら話しを聞いて下さい。」の状況となった。

フードコートを見渡すと、ハンバーガー店、丼物店、ステーキショップ、蕎麦屋さん、うどん屋さん、などがあり、計8店舗ほどの店が並んでいた。 

一足先に着いた守叔父さんは、店内案内図の手前で立ち止まり、私の方を振り返っていた。そして、その案内図を指差しながら、

 

「ココデ、ナニ、タベタイ?」
(ここで、何、食べたい?)



と聞いてきた。

その案内図には、それぞれの店名とそれぞれの食べ物の写真が掲載されていた。

私は、何でも良いな・・・。と思いながら、「何が良いかな・・・?」と相づちを打つと、守叔父さんは、

 

「オレハ、コウイウノ、イツモ タベタイノヨ!」
(俺は、こういうの、いつも食べたいのよ!)



と、うどんの写真を指差しながら言った。消化もよさそうだし、話をしながら食べるのにはもってこいの食べ物だと思ったので、同意することにした。

それにしても、あっさりと私の選択権は消失したな・・・。

もちろん、フードコートなので、好きなモノを、好きなお店で購入し、持ち寄って食事できる訳だが、あえて守叔父さんと同じモノを選び、日頃の食事を観察することにした。「それで、良いよ」と答えると、目をキラキラさせながら、

 

「イク?」
(行く?)



と再度、聞き返してきたので、「うどんで良いよ!」と答えた。すると、ニコッとした表情をした後、スタ、スタ、スタと歩きはじめた。

周りの店舗には目もくれず、それぞれの店舗の前を躊躇なく通り過ぎ、奥の方へ歩み進んで行った。その歩みから通い慣れた場所であることがよく分かった。

一番奥の店舗がうどん屋さんであった。 先に4人のお客さんが並んでおり、その列の後ろに二人とも並んだ。

守叔父さんは、立ち止まると共に、振り返り、パントマイムによってうどんを食べる様子をした。その後、

 

「ココ、オイシイ!」
(ここ、美味しい!)



と、笑みを浮かべながら言った。 うどん屋さんの壁に掛かったポスターサイズの大きなメニューには、番号と共に写真が並んでおり、きつねうどん、肉うどん、天ぷらうどん等、十数種類の商品があった。 必要に応じて、トッピングもプラスできるようだった。

守叔父さんは、一体、どのうどんを注文するのだろう・・・?

(つづく)
 

0 件のコメント:

コメントを投稿