40 、上京二日目.14
満面のニコニコ顔の守叔父さんと私は、うどん屋さんの列にならび、注文の順番待ちをしている。
壁に掛けられたポスターサイズの大きなメニューには、商品の写真とともに番号と商品名が書かれていた。守叔父さんは、そのメニューを見ながら、
「ナンバン?」
(何番?)
と聞いてきた。「ぶっかけ温玉うどん!」と答えた。すると、守叔父さんは、少し困ったような顔をしながら、メニューを指差した。その指は、どれだろう・・・?といった感じの迷い指の動きをしていた。そして、
「ドレ?」
(どれ?)
との言葉が返ってきた。「11、ぶっかけ温玉うどん」を指差しながら、「11番」と答えると、安堵の表情とともに、
「オッケー!」
(OK!)
との返事が返ってきた。「ナンバン?」と聞かれたのだから、素直に「11番」と答えればよいのだか、あえて「ぶっかけ温玉うどん!」と答えてみたのだった。
私の推測では、言語に何らかのトラブルを抱えているのだろうと考え、それを確かめるために、すこしイジワルな返事をしたのである。そして、その結果として、言葉の理解に若干の難がありそうなことが分かることとなった。
少し待つと先にいた4人のお客さんが、それぞれ商品を受け取り、私たちの順番が回ってきた。
守叔父さんは、
「ジュウバン ト ジュウイチバン!」
(10番と11番!)
と言いながら、人差し指で「1」を表現していた。
お代の支払いで、自分の分を支払おうと、千円札を守叔父さんへ渡そうとしたら、
「ダイジョウブ!」
(大丈夫!)
との言葉とともに手のひらを私に向けて横に振り、「要らない」というジェスチャーをした。
「オ、カ、ネ、ナ、イ・・・。」と言っていた守叔父さんに、ご馳走して貰うことになった。
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一分少々待った後、商品を受け取った。 守叔父さんの注文した品は、きつねうどんであった。
そのきつねうどんを受け取る際の叔父さんの表情は、子供が大好物の食べ物を手に入れた時のような感じであり、心の底から嬉しがっている様子であった。
商品受け取り場所の隣のテーブルに、お箸やレンゲ(汁受け?)、爪楊枝、七味唐辛子などと共に、トッピング用の刻みネギが山盛り入ったドンブリがあった。 守叔父さんは、その刻みネギを指差して、
「タクサン、ダイジョウブ!」
(たくさん、大丈夫!)
と言い、私に多量の刻みネギをトッピングする事を勧めてくれた。
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私が、トングで何度かネギを挟み移している短い時間のあいだに、守叔父さんはいつの間にか、居なくなっていた。周りを見渡し探してみると、すでに移動し、テーブル席へ着席していた。
流行り病のためか、お昼時より少し早いためか、フードコートのテーブル席の8割ほどは、空いていた。そのため、好きな場所を選んで座る事ができる状況であった。
しかし、守叔父さんの着席場所には少々問題があった。
おそらく、守叔父さんは、うどん屋さんから一番近い空席を選び着席したのだろうが、そのため、すぐ近くにもお客さんがいる席に座っていたのである。
流行り病のために、なるべく他の人との距離をとった方がよいとされるご時世、先に座って食事していたお客さんは、近寄って来た守叔父さんを少し嫌がっているようにみえた。
そのため、私は守叔父さんへ、他の人たちから少し離れた席に移動しようと促し、周りに人が居ない席に移動した。
対面して着席できたので、やっと、守叔父さんの表情を正面からじっくりと見ながら話せる状況となった。
あらためて挨拶し、のんびりと近況報告など、ゆっくり話をしようと思ったら、守叔父さんは、「イタダキマス」の言葉とともに箸で麺を摘まみ上げ、そして、フゥーと息をかけ食べ始めた。
よほど、お腹が空いていたのか? それとも、大好物なのか・・・? その一連の行動は、子供が大好物の食べ物を目の前にして、待てずに食べだす様な感じであった。
そして、一口食べ終わった後、
「オイシイ!」
(おいしい!)
と言葉を発した。
着席からその言葉がでるまでの時間があまりにも短かったこと、そして、喜びながら食べている表情をみると、よっぽど美味しいのだろう!
私も話をせずに、食べることにした。「いただきます!」と言ったあと、麺を一つまみ食べてみた。 関西風の透明なだしの味はたしかに美味しく、 守叔父さんの好物なのだろう!と理解できる味であった。
その後、何か足らないな・・・?と思いつつも、とりあえず、うどんを食べることにした。
(つづく)
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