2023年8月16日水曜日

「泣けない人」その73

 


73 、上京三日目.15

 

「ハァ、オイシカッタ!」
(はぁ、美味しかった!)


と守叔父さんはお腹をさすりながら言った。お腹がいっぱいになったようだ。 私も、ほぼ同じタイミングで食事を食べ終わった。 

守叔父さんは、爪楊枝で歯に挟まった食べかすを取り除き、お茶でうがいすると、間髪入れずに、

 

「ヨシ、イコ!
イチバン デカイ トコロ
アルンダケド!
ソコイッテ!」
(良し、行こ!
一番デカイところ
有るんだけど!
そこ行って!)



と言った。 

食べ終えた後に、ゆっくりと話をする間も無い・・・。 本当にマイペースな守叔父さんである。 とは言え、「一番デカイところ」とはどこなのだろう・・・? 

よこはまコスモワールドの観覧車が一番大きな観覧車なのだろうか・・・?  

それとも、ランドマークタワーの事なのだろうか・・・? あべのハルカスができて一番デカイ建物ではなくなったのだけどな・・・。

まあ、行けば分かるのだろう。

守叔父さんは会計伝票を手に取り、支払いカウンターへ向かった。

私は支払いの列に並ばずに、少し離れた所で支払いの様子をみていた。

レジのスタッフが、守叔父さんに対して何か質問したようだが、守叔父さんは手を使って「ワカラナイ」というジェスチャーをしていた。 

支払いにおいて、分からない事とはなんだろう?と思いつつ、私が近寄ろうとした時には解決したようで、支払いが無事に済んだようだった。

おそらく、割引チケットか電子マネーのたぐいの確認だったのだろう。

支払い終えた守叔父さんに対して

 

「ごちそうさまでした!」



と伝えた。 すると、笑顔で

 

「オッケー!」



と言い、そして、エレベーターホールに向かって歩き始めた。

 



エレベーターでフロアを移動し、駐車場フロアへ向かった。 エレベーターホールに駐車料金の精算機があったので、守叔父さんに対して「駐車券は?」と聞くと、

 

「ワカンナイ」
(分かんない)



との返事が返ってきた。 駐車券が分からないとはどういう事だろう。 私が指先で駐車券の形を描きながら「こんな形の紙」と言うと、

 

「アァ、アルヨ」
(あぁ、有るよ)



と言って、スマホケースに挟んだ駐車券を出してくれた。 私が、

 

「この機械で、駐車料の精算できるよ!」



と伝えると、

 

「オッケー」



と守叔父さんは言いながら、精算機へ駐車券を挿入して料金を支払った。

駐車料金は560円であった。30分毎280円のため、1時間以内の食事時間であったようだった。

精算機の近くに、飲み物の自動販売機があった。 守叔父さんは、その自販機の存在に気付くとすぐに小銭を入れて、

 

「ハイ、ドウゾ!」
(はい、どうぞ!)



と笑顔とともに自販機のボタンを押すように勧めてきた。食後すぐに飲み物は要らないなと思いつつ、 痩身効果のあるダイエット用の緑茶があったので、そのボタンを押すことにした。 なんだか、昨日の昼食後と同じ光景であり、一種のデジャブのように感じた。

 



クルマに乗り、ふと、「このクルマのエンジンは、何リッターなの?」と質問してみたが、守叔父さんはなかなか答えてくれなかった。

私は続けて、「何CC(シーシー)なの?」と質問しなおしてみたものの、私の質問の意味が伝わっていないようで、キョトンとした顔をして質問に答える様子がなかった。

エンジンの排気量が分からなくても問題はないので、スルーすることにした。

 



建物の駐車場から出ると、クルマは横浜駅方面に進んでいた。 沿道にならんでいるのぼり旗が、バタバタはためいており、外は風が強くなっていた。

よこはまコスモワールドの観覧車が見えたので、ここが目的地だな!と思ったのも束の間、クルマはそのまま直進し続けた。 やはり、ランドマークタワーなのかもしれない。 

その後、二つ目の信号を左に曲がったため、ほぼ間違いなくランドマークタワーが目的地なのだろうという事がわかった。

(つづく)
 

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