84 、上京三日目.26
「ハネダッテ、ドコ?」
(羽田って、何処?)
と言う、ある意味、衝撃的な言葉であったため、私の頭は少々パニック状態になっていた。
心の中では、「守おじさん、何を言ってるの!」と大声で言っているようであった。
少し頭を冷やして、冷静に考えると、「明日、羽田空港へ行こう!」という言葉は、私の心の中の言葉であることに気が付いた。
守おじさんは、「あの上(アノウエ)」、「あそこ(アソコ)」と言っただけで、「明日、羽田(ハネダ)空港へ行こう!」と実際には喋っていない。
そのため、何らかの言葉と勘違いしているのかもしれないと思い、「ハネダ」に近い言葉を探すことにした。
信号待ちの停止のタイミングで、トラックに近づくと、ナンバープレートの地名を読むことができた。
その地名は「成田」であった。
「ハネダッテ、ドコ?」の「ハネダ」は、「ナリタ」を読み間違えているのかもしれないとハッと気がついた。
そして、「羽田」でなく、「成田って、何処?」と聞かれたこととして、
「千葉だよ!」
と返事した。 すると、守おじさんは、頭を傾けて、
「チバ・・・?
チバッテ ドコ?」
(千葉・・・?
千葉って何処?)
と、「千葉」を初めて聞く地名のような反応をした。
「成田」の漢字を「ハネダ」と読み間違え、その上、「千葉」が分からないとは、なぜだろう・・・?
守おじさんは、アメリカや中国など、海外へ行くのに「成田空港」を使ったことがあるだろうから、「成田」が分からないことはないだろう!
守おじさんが、「話すこと」に問題を抱えていることは、徐々に理解できてきたが、「読むこと」にも問題を抱えている可能性があることに気が付いた。
信号が変わり、クルマが動き出したタイミングで、ふと、昨日の昼の事を思い出した。
イトーヨーカドーのフードコートのうどん屋さんにおいて、私が「ぶっかけ温玉うどん!」と言っても、守おじさんがメニューのどれであるのか分からない様子で、困った顔をしていた。
昨日のその時点では、漠然とした疑問であり、何が何だかよく分からなかった。
今、その時の様子を考え直すと、単に「文字を読むこと」ができなかったと考えれば、すんなりと理解できる。
つまり、メニューの「ぶっかけ温玉うどん」の文字が読めなかったために、私の注文が分からなかったと考えると、そのときの状況が納得できるのであった。
昨日から現在に至る事を思い返しているうちに、いつの間にかクルマは宿に到着していた。
守おじさんが、シフトレバーをパーキングに入れた後、私の方を振り向いて、笑顔で、
「アリガトウ!」
(ありがとう!)
と言った。 私の言うべきセリフを、またしても、先に言われてしまった。 急いで、
「こちらこそ、ありがとうございました!」
と答えることになってしまった。
私がクルマから降りると、
「マタネ!
アシタ、レンラクスルネ!」
(またね!
明日、連絡するね!)
と言って、守おじさんは颯爽とクルマを走らせて去って行った。
(つづく)
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