2025年2月26日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その5

 


5.上京八日目.5

脳波検査とは?

2025年2月現在、Googleで「認知症 脳波検査 特徴」を検索した結果、

「脳から出る微弱な電気をとらえることによって脳の働き具合をみる検査です。 認知症の診断においては、せん妄、てんかんとうつ病の除外、疾患特有の波の確認に用います。」

とのこと。

 





守叔父さんの脳波検査の結果の説明がはじまった。

医師から

 

「見ても分かりづらいと思いますが。」



との前置きがあった。

20本程のたくさんの波形が並んでいたこと。また、それぞれが複雑な波形のために、分かりづらいというより、正直、よく分からなかった。

 

「(CT画像より)側頭葉が
おかしいので、側頭葉からの
異常がでてると思うんですけど・・・。」



と波形を注視しながら医師は話しを続けた。

 

「アルファ波の出かたが少ないようです。
徐波(じょは)と呼ばれる寝ている時や、
ぼーっとしている時に多く発生する波が
多く見られます。」



と言った。全体的に脳の働きが弱まっているってことなのだろう。

 

「側頭葉からスパイク(信号)が
見られると思ったのですが、
見られませんね。
(脳の)萎縮が進行し過ぎているの
かもしれません。 
萎縮が進みすぎて、スパイクが
出る程の能力が無いのかもしれません。」



と認知症を判断するための「スパイク」すら発生しない程、脳の委縮が進んでいることを脳波から読み取ることができるようだ。

 

「CT画像から目に見える程、
明確に(脳が)萎縮しているのでね。」



と、尋常ではない脳の萎縮であると診断したようだ。

 

「なかなか見ない状況ですか?」



と私が聞くと、医師は、

 

「そうですね。
これ(CT画像)見たら、
この人、どんな人かな?
寝たきりの人かな?
意識ない人なのかな?

普通に歩いているって言ったら、
えっ!!
ってなるレベルです。」



と言った。「えっ!!」ってなるレベルなので、極めて稀(まれ)な状態なのだろう。
その稀(まれ)さの度合を確認すべく、

 

「他の脳神経外科の先生が(CT画像)見ても、
(異常が)すぐ分かるものですか?」



と私は質問した。すると、医師は、

 

「誰が(CT画像)見ても、瞬間におかしい、
絶対おかしいと気付くレベルでしょう。
言葉がおかしいというのも当然でしょうね。
左の側頭葉が無いわけですから。」



とCT画像から容易に(脳の萎縮が)判断できる状況であると念押しされた。

CT画像の状況を正しく、豊治叔父さんやめぐみ叔母さんへ伝えるには、
その画像を見せた方が良いだろうと考え、

 

「写真とか良いですか?
スマホで撮影して?」



と伝えると、「いいですよ。」とすぐに許可してくれた。

(つづく)
 

2025年2月19日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その4

 


4.上京八日目.4

まず、そのCT画像は人が起立(直立)した状態で、水平に頭部をスライスした断面映像であると説明してくれた。

画像は上から下(頭部から足元)向きではなく、足元側から頭部を見上げたものであるため、モニターの映像は左右が反転しており、右側に左脳、左側に右脳が映っているとのこと。

頭頂部から足の方向へ見下ろす向きの画像ならば左右反転せずとも良いのにと、一瞬思ったが、胸部レントゲンと同じ様に、医者から患者を見た時の視線に合わせているのだろうと考えると、左右反転している事に納得できた。

また、映像の上側が正面(顔)で、下側が後頭部(背中側)のようだ。

頭頂部から下方に向けてパラパラ漫画のように連続的に画像を見ると、最初は小さな円(頭がい骨)から徐々に大きな円となった。

ピンポン玉程の大きさの二つの黒い丸いものが写っていた。 その位置、大きさから眼球であることが理解できた。

眼球の写り方や頭がい骨の写り方を理解することによって、CT画像から脳の形状を理解することできた。

骨は白く、脳は灰色、眼球など水分の多い部位は黒色に写るようだ。

もう一度、異常がハッキリわかるとされる画像に戻ると、

 

 

「ここが異常です。」

 

 

と異常のある部分の辺りを指差してくれた。

 

「ここがソクトウヨウ(側頭葉)です。
(正常ならば)ここがすべて灰色でなければなりません。
特に左側の側頭葉が穴だらけでハチの巣状態です。
ほとんど(脳が)無い状態です。」



と言った。先ほどの先生の言葉「〇〇が全然、無くなっちゃってて」は、「側頭葉(の脳)が全然、無くなっちゃってて」と言ったのであった。

モニタに近寄って、その部分をじっくりと見ると、たしかに、全体的に黒く塗りつぶされており、灰色に見える部分が少なかった。

医師は、念を押すように、側頭葉の付近を指差しながら、

 

「ここに黒い部分があっちゃいけないんです。
ここにグレー(灰色)が詰まってないといけないんです。」



と言った。 他の断面を見ると、灰色(脳)が詰まっているのに、側頭葉の部分だけが黒色が多かった。

普段、肉眼では見えない頭の内部をX線(CT検査)という「医学・科学の力」を用いて、覗き見ることができたことによって、異常を見つけることができたのであった。 

ここ数日間、モヤモヤしていたことの原因を突き止めることができたのであった。

そして、地域包括支援センターで教えて頂いた認知症の一つ「前頭側頭型認知症」「側頭(葉)」という言葉が一致し、私の心の中が共鳴した。

 

「あっ、やっぱりそうなんだ!」



と心の中でつぶやいた言葉が頭の中でハウリングした。

この後、先生の口から「前頭側頭型認知症」という言葉が出てくるのであろうと予想できたことによる心のうねりが共鳴したのだった。

医師は、少し重めの口調で、

 

「左側の側頭葉の異常な委縮。ですので、
側頭葉に異変する病気であることは事実です。
まず、脳に病気がありますよね。」



と言った。 

私は、少し語気を強めて言われた医師の「事実です」との断定する言葉によって胸がギュッとなり、数秒間だけ時間が止まったようになった。 

私の気持ちを察してか、医師も続ける言葉が口から出てこなかった。

その止まった時間から抗うために、少しだけ現実から目を背(そむ)けたくなってしまった。 そのため、

 

「精神的なものではないという事ですね?」



と一縷の望みをかけて言った。 

なぜなら、仮に「精神的なものです。」または、「精神的なものの可能性があります。」などの言葉が医師から返ってくれば、治療の可能性があると考えたからだ。

脳に見た目(CT画像)の異常があっても、精神的なものなら治せるかもしれないとの身勝手な持論にすがりつこうとしている自分がいたのだった。

しかし、医師の返事は、私が言葉を言い切らないうち、即座に戻ってきた。

 

「そうですね、

完全に器質的なものですね。

・・・・・・・。」



精神的なものでないと考えられる理由の説明が続いたが、私には理解できなかったし、聞く気力も失せてしまった。

つづけて、

 

「左の側頭葉なので、

たぶん、失語症という

言葉を失っていると思いますね。
言葉の意味が分からない。

(言葉の)使い方が分からない状態。
腫瘍などができているのかもしれませんが、

(CTには)写ってませんね。」


と医師は言った。

CT検査の説明が終わると、続いて、脳波検査の結果説明がはじまった。

(つづく)

 

2025年2月12日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その3

 


3.上京八日目.3

守叔父さんが、トイレから戻り、私の横に座った。

 

「検査どうだった?」



と私が声を掛けた。守叔父さんは、

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫)



と笑顔で返事した。 検査の内容を聞こうと、

 

「何したの?」



と聞いても、再度、

 

「ダイジョウブ」
(大丈夫)



との返答が繰り返されただけだったので、どんな検査があったのか聞き出せなかった。

 





しばらく待合室で待っていると、看護師さんから、「先に、ご家族の方からお入りください。」と声を掛けられ、先に私だけが診察室へ入ることになった。

まず最初に、医師から病院へ来ることになったきっかけを問われた。

私は、私と守叔父さんの関係や守叔父さんの兄、姉である豊治叔父さん、めぐみ叔母さんとの一連のやりとり経緯を伝えた。 また、守叔父さんが会社や金銭トラブルを抱えているかもしれない事などを伝えた。

問診票の内容と重複する話しもあったが、10分程の会話のやりとりが続いた。
一通りの話しが終わると、医師が机上のパソコンを操作しはじめた。 

PCモニターにはCT検査のものと思われる画像が映し出された。

画像の左上には、2021/12/06 09:15:50 トヨダ マモル M 誕生年/月/日 と記載されており、守叔父さんのものであることが分かった。

医師は、複数枚の画像をパラパラ漫画のように連続的に短時間で確認したのち、頭でうなずきながら、

 

「今、頭のCT(画像)出たんですね。」



と言った。わずか数秒画像を見ただけで病状の診断ができたようだった。

時間を掛けずとも、すぐに分かるほどの明らかな異常が見つかったのだろうか・・・?

そして、CT画像をもう一度繰り返してパラパラ見ながら早口で、

 

「これは、かなり〇〇がありますね。」



と言った。

聞きたくない言葉を私の心がフィルターしたのかもしれないが・・・、私は「〇〇」の部分の言葉が聞き取れなかった。 

冷静に考えると、医者の使う言葉は、「異常あり、異常なし」と表現することが一般的であろうし、日本語で「かなり正常がある」とも言わないので、「〇〇」に入る言葉は「異常」であろうと察した。

恐る恐る、私は、

 

「異常?」



と聞き返した。

医師は少しゆっくりとした口調で、

 

「異常がありますね。」



と明瞭に断言して答えてくれた。 私は予期していたとはいえ、

 

「そうなんですね。」



との相づちを返すことしかできなかった。

そして、頭の中で、「異常がありますね。」との言葉が繰り返されていた。

 

「〇〇が全然、無くなっちゃってて、
潰(つぶ)れちゃってるんですね。
委縮(いしゅく)して。」



と医師の病状の説明が続いた。

何が無くなっているのだろう・・・?

先生の早口が相まって、主語の「〇〇」が聞き取れなかった。

「委縮して。」との言葉が続いたことで、主語が「脳」に関する言葉であろうことは理解できた。

パラパラ漫画を見るような短時間で、それらのCT画像を見ただけでは、医学の知識の乏しい私にはさっぱり異常の所在が分からなかった。

 

「何処がおかしい(異常)のですか?」



と伝えると、

医師は、パラパラ見ていた画像の中から一枚の画像を選び、そのCT画像から分かることを説明しはじめてくれた。

(つづく)
 

2025年2月5日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その2

 


2.上京八日目.2

問診票を書き終えた私は、問診票の裏面が白紙であったので、守叔父さんの情報をより詳しく医師に伝えるために、思いつくままにその白紙の面にメモすることにした。

 





以下、実際にメモした内容。


・気温9.5°Cを95「キュウジュウゴ」と読むことが有り「キュウテンゴ」とは言わない。

「フネ」は電車を意味するようだ。

・道順を伝える際に、言葉では「ミギ」「ミギ」「ミギ」と言いながら、指差しでは、右、左、右の順で指す時があった。「ヒダリ」とは言わない。

・指差しで、を指しながら、「ウエ」と言う。

・何かにつけて、「ワカラナイ」という言葉を使う。

・自宅のカーテンを昼夜問わずに開けない。

・自動車のガソリン給油が一度で100万かかると言うが、実際は1万円。

・月1回、プラセンタの注射を受けている?

・カイロプラクティックへ、週1回 または 2回通っている。

・仕事は、火 〜 金の午前中と言っているが、実際に勤めているのか不明。

・会話の中で、兄弟姉妹の名前がでてこない。

・スマホ等はうまく使え、Lineで連絡がとれる

・スマホの電池残量を「〇〇キロ」と何度も言い間違える。「〇〇パーセント」とは言わない。

・領収書の意味が分からない様子。

・クルマが前進する事を、「アルク」と表現する。

・富士山の形を指で描くが、「フジサン」とは言わない。

・元彼女との思い出話、同じ内容の話しを何度も繰り返す。

・自分が若くみえる事を他人や私に自慢する。

・カーラジオのチャンネルをしょっちゅう変更する。DJが話しをするのを聞きたくないようで、音楽のみを聞こうとするため。

・先日、地震が発生した際、震源地などの情報に興味なし。 地震発生時、一緒にテレビを見ていたが、地震情報が流れはじめると、内容を確認せずにチャンネルを変更した。
(注:2021年12月3日6時37分頃、地震発生。山梨東部震源M4.8 関東の広範囲で震度3以上を観測)

・朝は、3時や4時に起床し、その後、電気も付けず部屋に居る。

・就寝時刻は、午後5時半。

以上

 





メモを書き終えると、そのメモをスマホで撮影した後、問診票を受付に提出した。

そして、しばらく待った。

後ほど、医師より聞くことになるが、私が待合室で待っている間に、守叔父さんは、「頭部CT検査」「平衡感覚検査」「脳波検査」などを連続して受けていたようで、それぞれの検査の間に私のいる待合室に戻ることはなかった。

検査室へ行って1時間程経った頃、看護師さんと共に守叔父さんが待合室に戻ってきた。

検査が終わったようだ。

その時の表情は、笑顔であり、少しにやけたような感じであった。 看護師さんとうまくコミュニケーションができたのだろう。

さもすれば、看護師さんを相手に、ナンパするのではないか、と言うか検査を受けながらナンパしていたのではないかと思うほどの表情であった。

看護師さんは、私に対して、「無事に検査が終わりました。」と言い、続けて、守叔父さんに対して、「豊田さん、お疲れさまでした。こちらで、少しお待ちくださいね。」と丁寧に言った後、診察室へ消えて行った。

その言葉を聞いた守叔父さんは、少し残念そうな表情を浮かべていた。

そして、私の横に座るのかとおもいきや、

 

「おんせんいく」
(温泉行く)



と言って、トイレを探すように周囲を見ていた。

 

「トイレは、そこだよ!」



と指差すと、少し急ぎ気味に歩いて行った。

私はその時、「トイレを「オンセン(温泉)」と表現する。」と問診票の裏面のメモに書かなかったことに気がついた。 

一番最初に、守叔父さんが変だと気付いた事象をメモに書けなかったことを少しだけ悔やんでいた。

(つづく)