4.上京八日目.4
まず、そのCT画像は人が起立(直立)した状態で、水平に頭部をスライスした断面映像であると説明してくれた。
画像は上から下(頭部から足元)向きではなく、足元側から頭部を見上げたものであるため、モニターの映像は左右が反転しており、右側に左脳、左側に右脳が映っているとのこと。
頭頂部から足の方向へ見下ろす向きの画像ならば左右反転せずとも良いのにと、一瞬思ったが、胸部レントゲンと同じ様に、医者から患者を見た時の視線に合わせているのだろうと考えると、左右反転している事に納得できた。
また、映像の上側が正面(顔)で、下側が後頭部(背中側)のようだ。
頭頂部から下方に向けてパラパラ漫画のように連続的に画像を見ると、最初は小さな円(頭がい骨)から徐々に大きな円となった。
ピンポン玉程の大きさの二つの黒い丸いものが写っていた。 その位置、大きさから眼球であることが理解できた。
眼球の写り方や頭がい骨の写り方を理解することによって、CT画像から脳の形状を理解することできた。
骨は白く、脳は灰色、眼球など水分の多い部位は黒色に写るようだ。
もう一度、異常がハッキリわかるとされる画像に戻ると、
「ここが異常です。」
と異常のある部分の辺りを指差してくれた。
「ここがソクトウヨウ(側頭葉)です。
(正常ならば)ここがすべて灰色でなければなりません。
特に左側の側頭葉が穴だらけでハチの巣状態です。
ほとんど(脳が)無い状態です。」
と言った。先ほどの先生の言葉「〇〇が全然、無くなっちゃってて」は、「側頭葉(の脳)が全然、無くなっちゃってて」と言ったのであった。
モニタに近寄って、その部分をじっくりと見ると、たしかに、全体的に黒く塗りつぶされており、灰色に見える部分が少なかった。
医師は、念を押すように、側頭葉の付近を指差しながら、
「ここに黒い部分があっちゃいけないんです。
ここにグレー(灰色)が詰まってないといけないんです。」
と言った。 他の断面を見ると、灰色(脳)が詰まっているのに、側頭葉の部分だけが黒色が多かった。
普段、肉眼では見えない頭の内部をX線(CT検査)という「医学・科学の力」を用いて、覗き見ることができたことによって、異常を見つけることができたのであった。
ここ数日間、モヤモヤしていたことの原因を突き止めることができたのであった。
そして、地域包括支援センターで教えて頂いた認知症の一つ「前頭側頭型認知症」と「側頭(葉)」という言葉が一致し、私の心の中が共鳴した。
「あっ、やっぱりそうなんだ!」
と心の中でつぶやいた言葉が頭の中でハウリングした。
この後、先生の口から「前頭側頭型認知症」という言葉が出てくるのであろうと予想できたことによる心のうねりが共鳴したのだった。
医師は、少し重めの口調で、
「左側の側頭葉の異常な委縮。ですので、
側頭葉に異変する病気であることは事実です。
まず、脳に病気がありますよね。」
と言った。
私は、少し語気を強めて言われた医師の「事実です」との断定する言葉によって胸がギュッとなり、数秒間だけ時間が止まったようになった。
私の気持ちを察してか、医師も続ける言葉が口から出てこなかった。
その止まった時間から抗うために、少しだけ現実から目を背(そむ)けたくなってしまった。 そのため、
「精神的なものではないという事ですね?」
と一縷の望みをかけて言った。
なぜなら、仮に「精神的なものです。」または、「精神的なものの可能性があります。」などの言葉が医師から返ってくれば、治療の可能性があると考えたからだ。
脳に見た目(CT画像)の異常があっても、精神的なものなら治せるかもしれないとの身勝手な持論にすがりつこうとしている自分がいたのだった。
しかし、医師の返事は、私が言葉を言い切らないうち、即座に戻ってきた。
「そうですね、
完全に器質的なものですね。
・・・・・・・。」
精神的なものでないと考えられる理由の説明が続いたが、私には理解できなかったし、聞く気力も失せてしまった。
つづけて、
「左の側頭葉なので、
たぶん、失語症という
言葉を失っていると思いますね。
言葉の意味が分からない。
(言葉の)使い方が分からない状態。
腫瘍などができているのかもしれませんが、
(CTには)写ってませんね。」
と医師は言った。
CT検査の説明が終わると、続いて、脳波検査の結果説明がはじまった。
(つづく)
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