2022年5月4日水曜日

「泣けない人」その12


12、Mission.1 下準備(1) 情報収集10


今から三年程前の話。

私が引きこもりから抜け出して、仕事に就いて半年ほど経った頃、守叔父さんから電話が掛かってきた。

10年ぶりの会話であった。

守叔父さんは、いつの間にか、運送業を自ら立ち上げ、社長をしているとの事!

私が最後に会話した時は、運送会社の社員であり、サラリーマンであった。
10年の間に、独立し、起業していた事になる。

サラリーマン時代に得た人脈を活用し、大手の運送会社から仕事を貰い、大田区、港区を中心に営業しているようであった。

守叔父さんの話では、少し変わった営業方法で、トラック1台につき二人の体制。ツーマンとか、横ノリと呼ばれる手法を採用しているようだった。

この手法では、駐車禁止の場所に車を停車させる事ができるので、駐車する場所を探す手間が軽減され、効率的な面があるらしい。また、配送先に都合に合わせたオプションサービスが設定できるとの事で、仕事の単価をアップできるようだ。

細かい事までは、聞かなかったが、重宝される存在となり、それなりの仕事があるらしい。

元々は、駐車禁止が厳しく取り締まられるようになった昨今、その対策として、苦肉の策として、助手席に補助者を乗せる事がきっかけであったようだ。

守叔父さんが、久しぶりに電話を掛けて来た理由は、私の事を心配してくれていた事にもあるが、もう一つの理由としては、事務仕事が苦手らしく、私に事務全般の仕事を手伝って欲しいとの事でもあった。
つまり、一緒に働かないかとの、お誘いであった。

10年前にUターンで鹿児島に戻り、田舎の空気を吸って生きているものにとって、再び、都会での人込みに紛れて生きていく事には躊躇し、ハッキリとした返答を控えていた。

その後、数度の連絡があり、チョッとずつ、会社内でトラブルを抱えている事を聞かされ始めた。そして、その解決をして欲しいと言う事であった。
順調に回っている会社を手伝うのならともかく、上京すること自体を躊躇している私にとって、トラブルを抱えた会社を手伝う事は、よりハードルが高くなることになる。

守叔父さんの説明では、どの様なトラブルなのか、イマイチ理解できなかった。そして、守叔父さんは、兄の豊治叔父さんに助けを求めているようだった。

そのため、別途、豊治叔父さんに状況を聞いてみる事にした。

豊治叔父さんによると、会社を株式会社へ移行する作業の際、資本金をいくらに設定するかどうかで、モメたのが最初のトラブルのようだ。

現在、株式会社は資本金1円でも設立できる。

守叔父さんの考えでは、100万円~300万円程度の自己資金を元手に、資本金としたかったようだが、一緒に起業しようと手伝ってくれる共同経営者には、1000万円必要だと言われ、対立してしまったようだ。

豊治叔父さんは、会社の株式会社化の目的は、その共同経営者が、出資金を詐取するために、増額しようとしているのではないかと不信感を持っている様だった。

その様な、リスクのある会社ならば、なおさら、遠慮しようと思い、誘いの返答を控えていた。

その後、何度か、守叔父さんからの電話があり、共同経営者の名前とともに、その人の愚痴を聞かされることが続いた。

幸か不幸かどちらかわからないが、東京へ行こうか、行かないかを決めかねているときに、私は大腸検査において、とある病気が見つかり、闘病する事となった。そのため、上京し、守叔父さんの仕事を手伝う事はできなくなった。

豊治叔父さんも、仕事のトラブルは、守叔父さん本人が解決すべきことだと言って、私が手伝う事は必要ないと言ってくれた。

それから、約三年が日々が過ぎ、現在となる。


(つづく)
 

0 件のコメント:

コメントを投稿