2022年7月20日水曜日

「泣けない人」その23

 

 

23 、上京初日.4


第一回目の出陣!

最初は気負いしすぎて、失敗することも多い。まずは、叔父さんの家の前を単なる通過点として、散歩することにした。

スパイ7つ道具などは持たずに、財布とスマートフォン、そして部屋の鍵を持って出掛けた。

宿の部屋の玄関を出て、L字の廊下の曲がり角にあるエレベーターに向かって歩いた。

たまたま、エレベーターが3階に止まっていたため、ボタンを押すと同時に扉がスゥーっと開き、自分の心に反することなく、何ら抵抗もない静かなるスタートであった。

1階に着きエレベーターを降り、二重の自動ドアを通り抜け、建物の外に出た。

「では、出発進行!!!」と思った瞬間、忘れ物に気づき、踵を返す事となった。

マスクを忘れていた。流行り病予防のためにマスクは必須である。

出たばかりの自動ドアは開いたままで、そのままエントランスホールに舞い戻った。

部屋の鍵で、エントランスホール奥のインターホンで自動ドアを開錠し入館。先ほど乗ったばかりのエレベーターも同じく待っていてくれた。

3階の部屋へ戻り、マスクを装着。再度の出発となった。

少なくとも、いつもの冷静な状況ではないな・・・。と反省しつつ、慌てずに出掛けようと深呼吸をした。平常心を取り戻し、リラックスして再出発した。

あくまでも、単なる散歩として・・・。

 




 

 

 

建物の外に出た。

日没後、午後6時半過ぎ。師走間近の周りの景色からは、彩が無くなっていた。

「改めて、出発進行!!!」

初めて行く場所ではあるが、予習はしてきた。

曲がり角は、たった二か所。

それぞれ、交差点の角にある病院が目印!よっぽどのことが無い限り、見落とすことはないだろう。

グーグルマップとストリートビューで見た道順をゆっくりと歩き始めた。

帰宅ラッシュの時間帯、そこそこ通行人がいた。自転車に乗った人も多く、後ろから迫ってくる自転車の気配には気をつけなければならなかった。

なるべく、歩道の左側へ近寄って歩かなければならない。

チョッと気を抜くと歩道の中央を歩いている時があった。左側後方から自転車で抜かれた時にはヒヤッとし、転びそうになった。

田舎から出てきて一時間位しか経たない人間にとって、人の流れに合わせて歩くには、周囲の動きは速すぎた。順応するのに少し時間が必要だと感じていた。

しばらく歩いて、歩道が少し広くなった交差点の脇で立ち止まり、周囲を見渡した。

横断歩道の反対側に、一つ目の病院を見つけた。

立ち止まらなければ、通り過ぎていたかもしれない。日没後の様子とストリートビューの様子はだいぶ違って見えた。歩行者や自転車に気を取られすぎて、周りの風景が目に入って来なかったのも原因だろう。

 

 

 

 




 

 

 

 

程なくして、信号が変わったので、横断歩道を渡って直進。

次の目印の病院を目指した。

しかし、この道筋は思っていたよりだいぶ狭かった。

歩道の無い道路で、路側帯もほとんどない。

歩行者だけでなく、車両の交通量も多く、かつ、バス路線でもあった。

後ろから迫りくる車に追っかけられているような感じすらあったので、脇道へ入ることにした。

交通量のなるべく少なそうな路地を探し、歩くことにした。碁盤の目状の道路であり、予定のルートより二本ほど北側の路を進むこととした。

街灯の少ない路のせいか、歩行者も少なく、ノンビリとマイペースで歩くことができた。

大体の方角は分かっていたので、スマートフォンの地図アプリを起動しつつ、何度か現在地を確認しながらではあったが、守叔父さんの家へ向かった。

 

 

 

 




 

 

 

 

守叔父さんの家まで残り100m位のところで、立ち止まり現在地を最終確認した。

立ち止まった場所から見えている二つ先の交差点は、街灯が照らしていて明るかった。

その明るい交差点を右に曲がれば、守叔父さんの自宅であることが確認できた。

マスクの息で少し曇りかけていたメガネを外し、ハンカチで拭き、掛け直した。

そして、念のためスマートフォンのカメラアプリを起動し、動画を録画スタート。

ゆっくりと息を吐き出し、呼吸を整えて、守叔父さんの家を目指して歩き始めた。

 

 

 

 




 

 

 

 

もう少しで、交差点に差し掛かろうとしている状況で、スマートフォンをどの様に持って歩けば撮影がうまくできるか、カメラの角度を調整しようとした際、撮影ライトが自動点灯している事に気がついた。

スマートフォンの裏面についているライトが光っていたのだ。

動画撮影しているのがバレバレだ!

慌てて、ライトオフ!!!

心臓が一挙にバクバクし始めた。

焦った状態で、交差点を曲がることになってしまった。

すでに、目の前は、守叔父さんの家である。

歩く速さに気を付けながら、スマートフォンを持つ手をなるべく動かさずに手振れ対策をしつつ、横目で、部屋の電気が点灯しているかどうかを確認しながら、家の横を歩き過ぎることとなった。

(つづく)
 

 

 

 

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