34 、上京二日目.8
人間の欲望には色々な種類があり、「睡眠欲」「食欲」「性欲」が三大欲求などと言われている。他に、「生存欲」「集団欲」「排泄欲」などもある。
分類や定義付けには色々な理論があるようなので、ここでは細かな話はしない。
以前から私が感じていた守叔父さんの欲望の一つとして、「自分が若く見えること」がある。
「生存欲」の一種なのかもしれないが、「肉体年齢が若い事」よりも、「見た目の若さ」を欲しているように感じていた。
その理由の一つとしては、守叔父さんが、私と一緒にいるときに、慣例行事のように「年齢比較クイズ」を行っていたことが挙げられる。
「年齢比較クイズ」とは、守叔父さんが街中でいろんな人に声を掛け、そして、私と守叔父さんの顔を見比べてもらったうえで、どちらの方が年上かどうかを答えてもらうクイズである。
レストランでの食事中に隣席の人へ声を掛けたり、買い物中の店内であったり、場所を問わず、様々な所で「年齢比較クイズ」を行っていた。
赤の他人に対して、突然声を掛ける守叔父さんの行動に驚きを感じつつ、他人とのコミュニケーションの取り方の一つの方法かもしれないと、特に学生時代の私には守叔父さんの行動力に対して敬服さえもしていた。
私と守叔父さんが並んでいると「甥、叔父」の関係ではなく、兄弟と認識される事が多々あり、下手をすると私の方が、兄とさえ言われる事もあった。
守叔父さんは私から見ても実年齢より若く見えていたし、私は逆に老けて見えるため、守叔父さんの方が年下に見えてもおかしくなかった。そして、それらの答えを聞くことによって守叔父さんは子供のように、はしゃいでいた。
「年齢比較クイズ」によって、15歳差の甥っ子と自分を比べて、その年齢差が小さく見える。または、自分の方が若く見える事を喜んでいたのだった。
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「フィフティーワンッテ、イクツ?」
(フィフティーワンって、いくつ?)
と守叔父さんの言葉が返ってきたので、
(日本語で)「51歳」
と答えると、
「ゴジュウイッサイカ!
ロクジュウロク ナノサ、
デモ、ホラ カオミテルトサァー、
アンタ ゴジュウネッテ イワレチャウ!」
(51歳か!
66(歳)なのさ、
でも、ほら顔見てるとさぁー、
あんた50(歳)ネって言われちゃう!)
と言い出した。
久しぶりに会って、お互いが「齢を重ねたな!」と言う展開ではなく、「年齢比較クイズ」のごとく、今でも守叔父さん本人が若く見られる事を強調した話となった。
確かに、66歳には見えない! 還暦を過ぎている様には全く見えなかった。
目尻に若干の笑いシワがあるものの、肌のキメが細かく、ツヤも良く、シミもほとんど無い。頭髪もしっかりと濃く生えて、髪色も白髪がなく黒々していた。
「髪の毛、染めてるの?」
と聞いてみると、
「イヤ、ワカラナイケド」
(いや、分からないけど)
との返事。
若いから染めてないと、とぼけたいのか?
染めていると言う言葉が理解できないのか?
続けて、
「デモネ」
(でもね)
と言うので、とっさに、
「(カツラ)被ってる?」
と質問してみた。
すると、適当に誤魔化そうとした感じで、車を発進すべく、道路先を指差しながら、
「ヒダリ イケバ イイカナ?」
(左行けばいいのかな?)
と、交差点を曲がるべきかどうかを聞いてきた。
守叔父さんが、どこへ行こうとしているのか分からないので、
「どっちがいいかな?、どっちでも良いよ」
と答えると、
「ジャア、ミギイコウ!」
(じゃあ、右行こう!)
と言うと、おもむろに、クルマをスゥーっと発進させた。高級外車の高出力エンジンは、全然唸る事なく余裕あるスタートを切った。
さて、守叔父さんは、何処に行こうとしているのだろうか?
(つづく)
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