91 、上京四日目.2
クルマは、第一京浜(国道15号線)を南下している。
守叔父さんの発した言葉「ア・ル・イ・テ・ル」が頭の中でグルグル回っていた。
しばらくの間、他の事が考えられず、私の頭は思考停止に近い状態が続いていた。
「ア・ル・イ・テ・ル」とは何だったのだろう???
理解できなかったが、諦めて頭を切り替えることにした。
仕事の状況を探ろうと思い、守叔父さんに対して、
「今日は、お仕事、
(荷物運びが)一便で済んだの?」
と質問してみた。すると、
「イヤ、ネー、
キョウハ ネー ハナシタラ
イイヨ ト イワレタノ」
(いや、ねー、
今日は ねー、話したら
良いよ と 言われたの)
との返答が返ってきた。 仕事に行かなかったような感じの返事であった。
一時間前のメッセージ「終りました。10時にはおっけいです。」の「終わりました」とは仕事を終わらせたことを意味していたのではなかったのだろうか?
確認のため、
「仕事に行かなかったの?」
と聞いたところ、
「ソウ」
(そう)
と言う返事が返ってきた。そして、続けて、にこやかな表情をしながら、「ハッ、ハッ、ハッ」と笑った。 そして、
「サトウノヒトハ、
イロイロ ダカラネ!」
(佐藤の人は、
色々だからね!)
と言った。「佐藤」または「佐藤さん」と言う名前は、昨日、一昨日と何度となく聞いていたが、お金を騙し盗られた相手と言っていた。 守叔父さんは、騙された人の会社で働いているのだろうか???
そして、簡単に仕事を休めるのだろうか???
一体、どの様な仕事をやっているのだろうかと疑問になった。
私の頭の中に「???」が充満しているところに、守おじさんが、
「キョウサー、
オレガ イチバン ムコウノ
オンセンガ ズット
ウエカラ アガル トコロニ
アソコニ イキタイナ!」
(今日さー、
俺が 一番 向こうの
温泉が ずっと
上から 上がる所に
あそこに行きたいな!)
と言った。行き先のようだが、地名が無いし、「あそこに行きたいな!」と言われても、私の頭の中に「?」が一つ増えただけであった。
「どこでも、いいよ!
おじさんの行きたい所なら、
いいよ! 行こうよ!」
と答えた。 行けば分かるし、守叔父さんの行きたい所なら、楽しいだろう。
「温泉」と言っているので、のんびりできるかもしれない。
今、クルマが走っている第一京浜は、新春恒例の箱根駅伝において学生ランナーが競うコースの一部であり、道なりに進めば箱根に向かう。
温泉ならば箱根だろうが、江ノ島にも最近、相模湾から富士山を一望できる入浴施設ができたようなので、江ノ島かもしれない。 流行りに敏感な守叔父さんならば、既にその展望風呂に行ったことがあるのかもしれない。
そう言えば、昨日、ランドマークタワーの展望台で、「江ノ島」に行きたいと言っていたな・・・。
「江ノ島に行くの?」
と問うと、守叔父さんは、
「ソコ、ソコ!」
(そこ、そこ!)
と言ったので、行き先が「江ノ島」であることが分かった。
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無事、江ノ島に到着した。
「ナニ、タベル?」
(何、食べる?)
と守叔父さんが聞いてきたので、
「海鮮丼かな? ハマグリも美味しいよね。」
と答えたが、
「カ・イ・セ・ン・ド・ン ッテ ナニ?」
(海鮮丼って、何?)
と守叔父さんからの返事が返ってきた。
私は、「ワカラナイ」を多用する守叔父さんの言動に慣れてきたためか、「海鮮丼」が分からないとは妙な話であるが、気にならなくなっていたので、
「店中のメニューに写真があるから分かるよ!」
と伝えた。すると、守叔父さんは安堵した表情で、
「ソ・ウ・ダ・ネ!」
と答えてくれた。
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食堂を何店舗か物色した後、門前通りの入口の青銅の鳥居(江島神社)手前の「レストラン貝作」に入店した。
守叔父さんは、メニューの写真をまじまじと見ながら、「コレ、オイシソウ!」と言って「シーフードラーメン」を指差した。
せっかく、生ものが美味しい店に来ているのに、ラーメンを選ぶとは・・・。
もちろん、生きの良い材料で作るラーメンは美味しいと思うけれど・・・。
一昨日は、「きつねうどん」だったので、守叔父さんは麺類が好物のようだ。
(つづく)
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