92 、上京四日目.3
守叔父さんは、注文を取りに来てくれた店員さんに対して、メニューの「シーフードラーメン」を指差しながら、
「コレ、オイシソウ!
コレト・・・、アト・・・、
ラーメン ミタイナノ
アリマス?」
(これ、美味しそう!
これと・・・、あと・・・、
ラーメン みたいなの
有ります?)
と言った。
「シーフードラーメン」を注文した後に「ラーメン みたいなもの」と重ねてリクエストすることに驚いた。
本当に二杯のラーメンを注文しようと考えているのだろうか???
「叔父さん、何を注文したいの?
これ、ラーメンだよ。」
と私は横から口を挟みながら「シーフードラーメン」を指差した。
すると守叔父さんは、
「アッ、チガッタ!
コレト、アト・・・。」
(あっ、違った!
これと、あと・・・。)
と言った後、メニューをめくり探しはじめた。「シーフードラーメン」以外にも何か欲しいものがあるようだ。
メニューの別ページを開くと、欲しいものを見つけたようで、その写真を指差しながら
「コレコレ」
(これこれ)
と言った。
指先の写真は「一膳のご飯」であった。
「ご飯」を「ラーメン」と言い間違えたようである。
私は、「ご飯とラーメンは、全然違うだろう!」と「(笑いの)ボケ」に対する突っ込みを入れそうになっていた。
観光地において、ラーメンライスとは少し興ざめな感じもしたが、好きなモノを食べれば良いだろう。
私は、他所ではなかなか食べられない地元ならではの「生もの」の「湘南シラス」を食べようと思い、「三色丼」を注文した。
「三色丼」には相模湾名物「生しらす」、「釜揚げしらす」、そして、「ねぎとろ」の三種がトッピングされたものであった。
・
・
・
美味しい食事を終えると、そそくさに守叔父さんがレジへ向かった。食事代を私が払おうと後を追って財布を出すと、守叔父さんは振り返って、
「ダイジョウブ!」
(大丈夫!)
と言って、私の出した財布をしまうように押し留めた。
申し訳ないなと思いながら、お代の支払いに同行した。
守叔父さんがお代を支払おうとすると、レジ店員さんが、「領収書、要りますか?」と聞いてきた。
守叔父さんは、困ったような表情で、
「ナ・ニ?」
と返事した。
店員さんが再度、「領収書、要りますか?」と少し大きめでハッキリした口調で言い直してくれたが、守叔父さんの返事はなぜか、
「ワ・カ・ラ・ナ・イ」
であった。
店員さんは、困った顔をしていたので、私が横から、「要りません。」と代わりに返事をすることになった。
守叔父さんは、店員さんにお金を渡し、その後、お釣りと共にレシートを受け取った。
守叔父さんは、お釣りを財布に入れた後、その受け取ったレシートを「これ何だろう?」といった感じで見ながら、店外へ歩き出した。
その後、そのレシートを道端にポイ捨てした。
私は思わず、「要らないのなら、記念に貰っていい?」と言ったのち、そのレシートを拾い上げる事になった。
そして、昨日の昼食後の支払いの際の事を思い出した。
そう言えば、昨日も昼食後の支払いの際、何やらかもめているような事があったな・・・。
私は離れた所で見ていたため、実際に何があったのか把握していないが、 「割引チケットを持っているかどうかを聞かれているのかな・・・?」と勝手な解釈をしていたが、本日同様、領収書の要・不要の確認だったのだろうと考えれば納得できる様子であった。
「〇〇、要りますか?」の質問に対して、「要ります / 要りません」か「はい / いいえ」の二択のどちらかの答えが必要だろうが、「ワ・カ・ラ・ナ・イ」と答えられても、相手は面食らって困ってしまうのが当然だろう・・・。
だいぶ前の事であるが、以前の守叔父さんは細かい金額の支払いであっても、必ずと言っていいほど領収書を貰っていた。
そして、受け取った領収書を丁寧に折り畳み、大切そうに財布に入れていたのを覚えている。
現在の守叔父さんは、領収書やレシートの役割や意味が分からなくなっているのかもしれないことに気が付いた。
昨日、駐車場の支払い済みチケットを車外にポイ捨てした時に、違和感を感じていたが、「領収書」の意味が分からなくなっているとするならば、その守叔父さんの行動が理解できるだろう。
私は、「守叔父さんが領収書の意味が分からなくなっているかもしれないこと。」に気付いたことによって、少し戸惑いと残念さを感じていた。
(つづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿