2024年2月21日水曜日

「泣けない人」その93

 


93 、上京四日目.4

美味しいものを食べて、お腹も心も満足した直後だったはずなのに、一挙に心の底に大きな穴が空いたような感覚に襲われた。

守叔父さんの後を追う私の足取りは、急に重く感じられ、この後、守叔父さんの顔を直視することに不安を感じていた。

しかし、私の不安とはうらはらに、当の守叔父さん本人は、食後の丸くなったお腹をポンポンと叩きながら

 

「オイシカッタネ!」



と言い放った。

恐る恐る守叔父さんの顔を見上げると、その表情は朝一番の私を迎えに来てくれたときの笑顔と変わらずニコニコしており、陽気キャラそのものであった。 

その表情には、先ほどのレジでのトラブルの事は一切含まれずに、「我関せず」といった感じであった。

その笑顔を見ているうちに、自分には何ら非があるわけではないのに、精神的に落ち込んでしまった私自身が、なんだか、だんだんバカらしく感じてきた。 

「まっ、いいか!」的な感じで、ある意味、開き直って、守叔父さんと「遊ぼう」と思ったのであった。

そして、「なるようにしかならないし!」と考え、行楽地へ来たことに感謝し、遊びに専心することにした。

 





一般的な江ノ島観光コースとして、門前通りの入口の青銅の鳥居をくぐって、坂を上がり、お土産屋さんやタコせんべいの店などを見つつ、参道を登り江ノ島の頂上を目指した。

「江の島エスカー」を利用しての登頂だったので、少し楽させてもらった。 

守叔父さんは、周囲の景色を楽しんでいる感じがあまりなく、何だか行き先が決まっているような感じの足取りでだった。 

守叔父さんが歩く速さや脚力を考えると、「エスカー」を選択したことは正解だと思った。

4つ目の「エスカー」を乗り終えた後、守叔父さんは「江島神社奥津宮」への参道を進むことなく、右前方の路地へ早足で進みはじめた。

 



「江の島サムエル・コッキング苑」の入口を目指しているようだ。

入苑には料金が必要であるが、守叔父さんは何のためらいもなくお金を支払いチケットを2枚購入した。

チケットは二種類あり、入苑料のみのものと入苑料+展望台料のものがあり、後者を購入した。

昨日のランドマークタワーと同じ状況であり、展望台の登頂が目的のようだった。

「江の島シーキャンドル(展望灯台)」は高さ41.75m(海抜101.56m)でエレベータで登ることができた。

島の頂上にそびえる塔であり、灯台の役目として360度の視界がひらけ、太平洋の広大な海原や富士山や丹沢などの山岳などの眺望が楽しめる場所であった。

 



海を見ると、漁船やヨットが浮かんでおり、サーフィンをしている人なども散見された。

 



昨日と同じように遠くまで視界が澄み切っており、富士山が非常に綺麗であった。

リュックからカメラを取り出し、富士山を撮影していると、

守叔父さんが

 

「ア・ル・イ・テ・ル」



と言った。

第一京浜(国道15号線)の地下バイパスにおいて、「ア・ル・イ・テ・ル」と言ったのと同じような雰囲気であった。

守叔父さんの方を振り向くと、片瀬漁港へ向かっている漁船を指差しながら、

 

「ア・ル・イ・テ・ル・ネ!」



と再度言った。

明らかに漁船を指差しながら「歩いている」と言っているようだ。

 



そして、私は「ハッと」気付かされた。

「船が進む」ことを「歩く」と表現しているのではないだろうかと!

そして、

また、「ア・ル・イ・テ・ル」とは明らかに、「人が歩いてる」訳ではなく、「進む船」「歩いている」と表現したようだった。

今朝の道中、第一京浜(国道15号線)の地下バイパスにおいて、「ア・ル・イ・テ・ル」と表現したのは、「クルマが進んでいる事」という事を表現していたと考えれば納得できるものであった。

(つづく)
 

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