116 、上京五日目.13
栗山さんは、思いのほかすぐに戻ってきた。
私に気を遣って席を外したわけではなかったようだ。
なぜなら、一冊のパンフレットを携(たずさ)えて戻ってきたからだ。
その表紙には「大田区 認知症サポートガイド」と書いてあった。
https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/fukushi/kourei/nintisyou/orange-guide.html
大田区の認知症ケアパス「大田区認知症サポートガイド」の案内ホームページ
https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/fukushi/kourei/nintisyou/orange-guide.files/nintisyo-saportgaido.pdf
(パンフレットはネットからダウンロードして閲覧できます。)
栗山さんは、着席するとゆったりとした雰囲気ではあるものの、事務的に淡々とそのパンフレットを開き説明しはじめた。
5ページには、認知症にはさまざまな種類があると書かれており、主なものとして5種類の認知症が記されていた。
1.アルツハイマー型認知症
2.脳血管性認知症
3.レビー小体型認知症
4.前頭側頭型認知症(ピック病)
5.治る認知症
私は1.アルツハイマー型認知症と2.脳血管性認知症については、ある程度は理解していたものの、他の三つの認知症についての知識はなかった。
栗山さんは、
「叔父さまは、
【前頭側頭型認知症】
の可能性が高いと思われます。
もちろん、病院で検査を受け、
診断されなければ分かりませんが・・・。」
と言った。
高齢者相談窓口の担当者であり社会福祉士、すなわちその道のプロである栗山さんが見立てたならば、まず間違いはないだろう。
私は短絡的に「認知症」=「もの忘れ」と考えていたが、パンフレットの「前頭側頭型認知症」には「もの忘れの症状は軽く・・・。」と記されており、認知症の種類によって、その症状の異なることを初めて知ることになった。
「前頭側頭型認知症」の特徴的な症状の例として、
1.同じ時間に同じ行動をとる
2.同じ食品を際限なく食べる
3.周囲を顧みず自己本位な行動が目立つ など
とパンフレットには記されていた。
三つの症状とも、守叔父さんの行動とそれらを重ね合わせることができた。
また、三つの症状の例は、私が守叔父さんに感じていた違和感そのものを言語化したものであった。
・
「1.同じ時間に同じ行動をとる」に関しては、「いつも早く起き、寝るのも早い、いつも同じ」という言葉を繰り返して本人が言っているので、文言通りの行動をしているのだろう。
一週間の行動についても、「月曜は〇〇。火曜は〇〇・・・。日曜は〇〇」などと、同じ事をしているように繰り返し何度も言っていたので、同じ曜日には、同じ決まった行動パターンで生活していると思われる。
・
「2.同じ食品を際限なく食べる」に関しては、昼食を守叔父さんに会った初日の昼食は「きつねうどん」、江の島での昼食は「ラーメン」。 二日目のトンカツ屋でトンカツを食べた以外は全て麺類であった。
江の島でなぜラーメンを注文するのだろう・・・?と違和感を感じたが、昼は麺類を食べることが基本ルーチンなのだろう。
と思い出していると、忘れていた記憶が一部戻ってきた。今日の昼食は、初日と同じイトーヨーカドーのフードコートへ行き、同じく「きつねうどん」を守叔父さんが注文し、食べていたのであった。
そして、自宅にて「守叔父さんは家にいるときには、何を食べるの?」との問いには、
朝食は机上の菓子パンを指差して、「コレ、タベル」、昼食は食器棚の上に積まれたカップ麺を指差し、「コレ、タベル」、夕食は冷蔵庫の中のレトルト食品を指差して「コレ、タベル」と言っていた事も思い出した。
一日のうち朝昼夕で食べるものは異なるものの、朝食は菓子パン、昼食は麺、夕食はレトルト食品、同じような食品を好んでくり返し食べている事は確認できているので、【際限なく】は当てはまらないものの、準じているように思われた。
・
具体的には、もっとも当てはまっていることとして、「3.周囲を顧みず自己本位な行動が目立つ」という事だろう。
守叔父さんは私の歩調に合わせて歩くことがほとんどなかった。常にマイペースで歩き続けることに違和感を感じていた。
私は「守叔父さんの行動がマイペースだな!」と感じたが、「マイペース」=「自己本位」となるだろう。以前の守叔父さんとは変わった点であった。
「前頭側頭型認知症」の病気によるものと考えると、ストンと腑に落ちた。
「オレ、コウヤッテ(イツモ)アルイテル。」と自己本位な言動もあったしなぁ・・・。
「身障者専用の駐車エリアにクルマを駐車すること」を「ダイジョウブ」と言うこともあった。それも、自己本位な行動の一つなのかもしれない。
しかし、以前も遵法精神の少し低い守叔父さんであったので、差ほど変わったとは感じなかった部分でもある。
また、私は守叔父さんの行動パターンが単調だなと感じていた。そのことも、三つの症状をまとめてみると理解できるような気がした。
(つづく)
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