2025年3月12日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その7

 


7.上京八日目.7


医師は少し間をおいてから、ゆっくり話を始めた。

 

「この後、認知機能を調べますが、
もし、認知症などとしたら
『前頭側頭型認知症』の中の、
『陰性質認知症』という
意味や言葉が先行して分からなくなる
タイプ(の認知症)なんですけれども。

治療法って何にも無いんですよ。

異常な行動をする時に抑える精神薬と
抑制する薬しかなく、
その薬を使うかどうかは賛否両論あり、
使わなくちゃだめだ、いや、
使っちゃだめだかいう事で、
(治療として)認められた薬は無い。

 行動を制限する薬しか無く。」



医師は、苦笑いしながら、続けて、

 

「困っちゃう病気の一つですね。」



と言った。 

治療法が無く、改善の余地の無いとされる病気を診断することは医師にとって、辛い事だろうと察した。

いつから病気になっていたのだろうかという疑問が出てきたので、

 

「現在のこの脳の物理的な状態から
推察して、2年、3年前には
すでに病気がスタートしていたと
考えられますか?」



と質問した。

 

「そうです。少なくとも突然1年、2年位で
急になる(病気)ものではないので、
潜伏時期が相当あったと思います。

と言っても、誰がいつ、それ(認知症)を
見つけるかは(難しい)、
本人が自覚していないのだから・・・。」



この病気は年単位の時間を掛けてゆっくりと徐々に進行するものだと分かった。 今後も急に悪化するものではないのだろう。

たしかに、自覚症状のない病気は、本人が気付きにくく、周囲の人間も見つけにくいだろう。 

守叔父さんは、自覚症状がない。 脳に障害があることを自覚せずに生活をして、クルマの運転もしている・・・。

自覚症状のない病気は怖いな・・・。 

そして、私は、この数日間、ある意味で「棺おけ」に半分足を突っ込んだ状態で、守叔父さんとのドライブを楽しんでいたのだろうか・・・?と考えて、少し背筋がゾッとした。 

その恐怖心は、放心状態から我を取り戻すきっかけになった。

頭を少し振って、肩を少し動かして、その恐怖感を振りほどくと、「今、すべきことは何? と自問自答した。」

問診票の裏に書いたメモの事を思い出し、医師が、そのメモを見てくれたかどうかを確認していない事に気がついた。

 

「問診票の裏面に、

気付いた事をメモしたのですが、、、。」



と伝えた。

医師はメモに気付いていなかった様子だった。問診票を裏返して、メモを確認し、黙読しながら、

 

「”表”、”裏”、”右”、”左”が
分からないのは前頭側頭型認知症の
特徴的な症状です。

数字の単位や桁が分からないのも
そう(特徴的)なのです。」



と言った。

私の気付いた事は、それぞれ「前頭側頭型認知症」の症状に合致する様だ。

地域包括支援センターにて、指摘された通りであった。

一通り、メモを読み終えると、医師は納得した様に、うなずくように頭を一度下げ、その後、私の顔見てから、

 

「では、ご本人に入っていただきましょう。」



と言った。

そして、医師は看護師さんに

 

「ご本人を診察室に通してください。」



と伝えた。


(つづく)


【「陰性質認知症」とは、はじめて耳にする言葉であったため、当日は聞き逃していました。 そのため、言葉の意味を医師に尋ねる事はありませんでした。
認知症には、陽性と陰性と言われる症状がある様です。】
 

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