8.上京八日目.8
「豊田守さん、お待たせいたしました。どうぞ!」
と看護師さんの声が聞こえた。
その声を待合室で聞いたであろう守叔父さんは、すぐに診察室に入ってきた。
診察室に入ってきた守叔父さんは、ニコニコの笑顔だった。
看護師さんに声をかけられただけで、気を良くしたのだろうか・・・?
ただ単に、人当たりが良いだけなのだろうか?
医師と正対しても、守叔父さんの表情は笑顔のままだった。
私ならば白衣を着た人に初めて会う際は、少し緊張した表情になると思うが、守叔父さんは変わらずに、ニコニコしていた。
「こんにちは。
はい、豊田さん、どうぞ。」
と医師が挨拶をして、着席をうながした。 続けて、
「今日、体のことを色々、
調べさせてもらってますから、
最後に、質問しますので、
質問に答えていただけますか?
よろしいですか?」
と言った。 早速、認知機能の問診がはじまるようだ。
「豊田守さん、今年って何年ですか?」
最初の質問は、西暦または元号の年数の質問であった。 当然、「今年は、2021年です。」または、「令和3年です。」と答える質問であるが・・・。 守叔父さんは、
「ロクジュウゴ
デスケド。
コトシハ・・・。」
(65ですけど。
今年は・・・。)
と、自分の年齢を答えてしまった。 最初の質問から誤答してしまった。
数日後に誕生日を迎える叔父さんは、もうすぐ66歳になる事を伝えようとしたが、
医師がその言葉をさえぎって、
「年齢じゃなくて、
今年は何年ですか?
今年って、年号!」
と再度、質問した。
すると、守叔父さんは、小さな声で、
「ワカンナイ。」
(分かんない。)
と言った。 そして、分からない事が恥ずかしいからなのか、少し、ヘラヘラした表情で、声を出して笑った。
医師は、質問を続けて、
「今の季節は?」
と質問した。 今日は12月6日、当然、「冬」が答えである。
守叔父さんは、
「キセツ?」
(季節?)
と語尾を上げて、疑問の返事をした。 「季節」が理解できないようだ。
医師が、確認のため、
「分からない?」
と言うと、守叔父さんは、うなずき、そして、首を横に振って「ワカラナイ」と意思表示した。
2問続けての誤答となった。
私は、「季節」という言葉も理解できないんだ・・・。と残念な気持ちになった。
私は、守叔父さんが冬場であるにもかかわらず、駐車時、クルマのサンシェードを使っている事が不思議で、疑問であった。
そして、守叔父さんは、「季節」という言葉だけが分からないのではなく、「季節感」そのものも理解できないために、冬場にクルマのサンシェードを使っているのかもしれないと考えると納得できた。
(つづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿