11.上京八日目.11
「100から7を引くと、いくつですか?」
との医師の質問に対して、守叔父さんは、「93」と答えるところを、
「ヒャクカラ、、、。
ナナ、、、?」
(百から、、、。
七、、、?)
少し間があって、
「ボクハ、モウ、
ロクジュウロクサイ
デスケド。」
(僕は、もう、
66歳
ですけど。)
と、答えたのだった。
その答えに、私は唖然とした。
簡単な引き算ができないとは・・・。
おそらく、「引く(引き算)」という言葉が理解できないという事だろう。
「いくつですか?」の部分のみを理解し、年齢を聞かれたと判断したのだろう。そして、自分の年齢を答えたのだろうと考えると納得できた。
そして、「100 - 7 = 」と数式(文字)を書いて問えば、「93」と答えることができるのだろうか・・・? などと疑問が湧いていたが・・・。
医師は、できないと判断し、次の問診へ進んだ。
「では、今度は見せる物の名前を言ってください。
良いですか?
はい、これ何?」
と言って、ホッチキスを目の前に出した。
守叔父さんは、
「ポチットスルヤツ」
(ポチッとするやつ)
とホッチキスを使う仕草をしながら、すぐに答えた。
医師が、
「名前は?」
と再度、質問した。 しかし、守叔父さんはなかなか答えず、少し間をかけて、
「ナマエ、、、?
イエデ ポチット」
(名前、、、?
家で、ポチッと)
守叔父さんの口からは連想ゲーム的な言葉が出てくるだけで、「ホッチキス」との名称は出てこなかった。
続いて、医師が、
「言葉で言うのをマネしてくださいね。」
と言った。 守叔父さんは、即座に、
「ハイ」
とシャキッとした返事をした。
守叔父さんの返事に対して医師がうなずいた後に、
「みんなで、力を合わせて綱を引きます。」
と言った。 守叔父さんは、返事の「はい」とは異なり、たどたどしい言葉で、
「ミンナデ、 アワセテ
ツナ ヲ ヒキマス。」
(みんなで、合わせて
綱を引きます。)
と言った。 惜しい、「力を」の部分が抜けた・・・。
短い言葉を反復することもできないという事だろう。
つづけて、医師は、
「ここに、二種類の紙があります。
小さい方の紙を取って半分に折り、
大きい方の紙の下に入れてください。」
と言った。
すると、なぜか、守叔父さんは紙を手に取らず、机上のサインペンを取り上げたのだった。
なぜ、サインペンを取ったのだろう・・・?
サインペンを手にした守叔父さんは、左手で紙を押さえて、書く準備をした後、医師の顔を覗き込み、
「ナニヲ カケバ イイノ?
ジブンノ トヨダ トカ?
カケバ イイノ?」
(何を書けば良いの?
自分の(名前) 豊田とか?
書けば良いの?)
と言ったのだった。
(つづく)
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