2025年4月16日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その11

 


11.上京八日目.11

 

「100から7を引くと、いくつですか?」



との医師の質問に対して、守叔父さんは、「93」と答えるところを、

 

「ヒャクカラ、、、。
ナナ、、、?」
(百から、、、。
七、、、?)



少し間があって、

 

「ボクハ、モウ、
ロクジュウロクサイ
デスケド。」
(僕は、もう、
66歳
ですけど。)

 


と、答えたのだった。

その答えに、私は唖然とした。

簡単な引き算ができないとは・・・。

おそらく、「引く(引き算)」という言葉が理解できないという事だろう。

「いくつですか?」の部分のみを理解し、年齢を聞かれたと判断したのだろう。そして、自分の年齢を答えたのだろうと考えると納得できた。 

そして、「100 - 7 = 」と数式(文字)を書いて問えば、「93」と答えることができるのだろうか・・・? などと疑問が湧いていたが・・・。


医師は、できないと判断し、次の問診へ進んだ。

 

「では、今度は見せる物の名前を言ってください。
良いですか?
はい、これ何?」



と言って、ホッチキスを目の前に出した。

守叔父さんは、

 

「ポチットスルヤツ」
(ポチッとするやつ)



とホッチキスを使う仕草をしながら、すぐに答えた。

医師が、

 

「名前は?」



と再度、質問した。 しかし、守叔父さんはなかなか答えず、少し間をかけて、

 

「ナマエ、、、?
イエデ ポチット」
(名前、、、?
家で、ポチッと)



守叔父さんの口からは連想ゲーム的な言葉が出てくるだけで、「ホッチキス」との名称は出てこなかった。

続いて、医師が、

 

「言葉で言うのをマネしてくださいね。」



と言った。 守叔父さんは、即座に、

 

「ハイ」



とシャキッとした返事をした。 

守叔父さんの返事に対して医師がうなずいた後に、

 

「みんなで、力を合わせて綱を引きます。」



と言った。 守叔父さんは、返事の「はい」とは異なり、たどたどしい言葉で、

 

「ミンナデ、 アワセテ 
ツナ ヲ ヒキマス。」
(みんなで、合わせて
綱を引きます。)



と言った。 惜しい、「力を」の部分が抜けた・・・。

短い言葉を反復することもできないという事だろう。


つづけて、医師は、

 

「ここに、二種類の紙があります。

小さい方の紙を取って半分に折り、
大きい方の紙の下に入れてください。」



と言った。

すると、なぜか、守叔父さんは紙を手に取らず、机上のサインペンを取り上げたのだった。

なぜ、サインペンを取ったのだろう・・・?

サインペンを手にした守叔父さんは、左手で紙を押さえて、書く準備をした後、医師の顔を覗き込み、

 

「ナニヲ カケバ イイノ?
ジブンノ トヨダ トカ?
カケバ イイノ?」
(何を書けば良いの?
自分の(名前) 豊田とか?
書けば良いの?)



と言ったのだった。

(つづく)
 

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