10.上京八日目.10
守叔父さんは、「病院」、「都道府県」、「区」が分からないことにより、「認知機能の問診」の誤答が連続した。
こんな簡単な問いにすら答えられないとは・・・。
クルマの運転が上手にできて、いろいろなところに遊びに連れて行ってくれた守叔父さんの認知力が、私の想定よりも低いことが分かりつつあった。
続く医師の質問、
「今、ココ、何階ですか?」
と聞かれた。
守叔父さんは、イトーヨーカドーの立体駐車場などで、階数を間違うことなく行動していたので、正解するだろうと期待した。
守叔父さんは、
「イッカイダヨネ。」
(一階だよね。)
と、私の期待どおり、すぐに答えてくれた。
医師は続けて、
「あなたが今住んでいるのは、東京ですよね?」
との質問をした。守叔父さんは、「はい」と答えずに、
「ココジャナクテ・・・。
ムコウニ、イッタンデスヨ。
ココガ、コッチデショ。
チョットムコウノ・・・。」
(ここじゃなくて・・・。
向こうに、行ったんですよ。
ここが、こっちでしょ。
ちょっと向こうの・・・。)
と、身振り手振りを含めて何らかの答えを伝えようとしているものの、その言葉の意味を私は理解できなかったし、医師も理解できなかっただろうと思う。
守叔父さんは、「今」、「住んでいる」、「東京」のいずれかの言葉が分からないのだろう。
医師は、守叔父さんの話しが終わるのを待ってから、
「今から、三つの言葉を言うので、
覚えてください。」
と言った。 守叔父さんは、理解したように即座に、
「ハイ」
と返事した。 医師は、復唱を求める仕草をしながら、
「梅」
「ウメ」
「犬」
「イヌ」
「自動車」
「ジドウシャ」
と医師の言葉に続いて、守叔父さんが復唱した。
続けて、医師は、
「梅、犬、自動車、
はい、言ってみて。」
と三つの言葉を続けて言い直して、復唱を求めたが、守叔父さんは復唱せずに、
「ウメモ、イヌモ、イナイ。
タダ、ジドウシャダケ、ヒトツ。」
(梅も、犬も、いない。
ただ、自動車だけ、一つ。)
と答えた。 「覚えてください。」との指示を理解できないようだ。
その指示を理解せずに「ハイ」と返事していたことになる。
三つの言葉の物を、守叔父さんが所有しているかどうかの質問だと勘違いしているのは明らかであった。
確かに、自宅に梅の木はないし、犬も飼っていない。 クルマは一台所有している。
医師は、再度、
「この言葉を覚えてください。
あとで、聞きます。」
医師は、あとで聞きますと言った直後に、
「はい。 私、何て言いました?」
と言った。 守叔父さんは、今度も「覚えてください。」を理解できず、
「コノ、ミッツノウチノ
ヒトツダケ。」
(この、三つのうち
一つだけ。)
と、それらの物を所有しているかどうかにこだわった回答をした。
しかたなく、医師は、
「なんて言葉?」
と聞いた。 守叔父さんの答えは、「梅」、「犬」、「自動車」の三つの中からの一つではなく、
「クルマ ダヨネ。」
(車だよね。)
と答えたのだった。 「自動車」と「車」は同じ意味であるが、言葉は違う・・・。 正答となるのだろうか・・・?
医師は、他の二つの言葉を答えられないと判断し、次の質問をした。
「100から7を引くと、いくつですか?」
守叔父さんの口からは、「エッ」と思う答えがかえってきた。
(つづく)
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