12.上京八日目.12
医師の指示した言葉には、「書いて」との指示はないのだが・・・。
「ここに、二種類の紙があります。
小さい方の紙を取って半分に折り、
大きい方の紙の下に入れてください。」
と言われて、守叔父さんは、紙面に何かを書こうとしたのだった。
「大きい」、「小さい」が理解できないのだろうか?
それとも、「半分」、「折る」が分からないのだろうか?
それとも、「下」が分からないのだろう・・・?
医師の言葉は、簡単な指示の言葉ではあるが、色々な要素の含まれた文章であり、それぞれの言葉が正確に理解できなければ、指示通りの行動はできないという事だ。
医師は、できないと判断し、
「はい、良いですよ。」
と言うと、守叔父さんは、
「チョット、ムズカシイ。」
(ちょっと、難しい。)
と言った。
医師は、
「あっそう、ごめんね。
あと、ちょっと。」
と言って、問診を続けた。
今回の問診は口頭による指示ではなく、紙面に文章で、「時計を探してください。」と書かれたものであった。
守叔父さんは、その文章を音読した。
「エーーット、
ナニヲ サガシテクダサイ。 」
(えーーっと、
何を 探してください。)
「時計」を読めずに、「ナニ」と置き換えて音読したのだった。
探す対象の品名を読めないという事は、探しようがないが・・・。
「探して」という文字を読めたので、「探して」の意味が理解できれば、「何を探せば良いの?」などと逆に質問できるだろうが・・・。
「探して」という文字は読めても、その意味を理解できないという事だろう。
時計を探す仕草をせずに、すぐに、
「ワカンナイ。」
(分かんない。)
と守叔父さんは言った。
「はい」と返事をした後、医師は続けて、机上の紙面を指差して、
「ここに、一言、文章を書いてください。
なんでも良いので、一言、一文、
ここに文章を書いて下さい。」
と言った。 今度こそ、サインペンを手に取って、その紙面に文字を書けばよいのだ!
しかし、守叔父さんは、
「ジブンノ・・・。」
(自分の・・・。)
と言って、自分の名前を書こうとした。
医師が再度、
「何でもいいので、文章、
意味は無くていいので、
一文、文章を書いてください。」
と言った。 しかし、守叔父さんの手は動かず、何も書かずに、
「ブンショウッテナニ?」
(文章って何?)
と小声で言った。 続けて、
「ワカラナイ」
(分からない)
と言って、そして、分からない事が恥ずかしいのか、笑い声をあげた。
医師が「はい」と返事し、次の問診へ、
「これを写して下さい。」
と言って、簡単な図形を見せた。
図形は、四角形の中に、丸、その丸の中に三角形が描かれているものであった。
守叔父さんは、何をすれば良いのかすぐに理解したようで、サインペンを手に取って、その図形を模写しはじめた。
ペン先の進みは遅く、小刻みにゆれてミミズが這ったような線であった。
それぞれの図形の大きさのバランスは、お手本とはだいぶ違うものとなったが、大きい順に四角形、丸、三角形が描かれていた。
図形を書き終わると、医師は、
「さっき、僕が言った言葉、覚えてる?
三つの言葉!って」
と言った。
「梅」、「犬」、「自動車」と答える質問であるが・・・。
さて、守叔父さんは答える事ができるのだろうか・・・?
(つづく)
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