2025年4月23日水曜日

「泣けない人(病院編)」 その12

 


12.上京八日目.12


医師の指示した言葉には、「書いて」との指示はないのだが・・・。

 

「ここに、二種類の紙があります。

小さい方の紙を取って半分に折り、
大きい方の紙の下に入れてください。」



と言われて、守叔父さんは、紙面に何かを書こうとしたのだった。

「大きい」「小さい」が理解できないのだろうか?

それとも、「半分」「折る」が分からないのだろうか?

それとも、「下」が分からないのだろう・・・?

医師の言葉は、簡単な指示の言葉ではあるが、色々な要素の含まれた文章であり、それぞれの言葉が正確に理解できなければ、指示通りの行動はできないという事だ。

医師は、できないと判断し、

 

「はい、良いですよ。」



と言うと、守叔父さんは、

 

「チョット、ムズカシイ。」
(ちょっと、難しい。)



と言った。

医師は、

 

「あっそう、ごめんね。
あと、ちょっと。」



と言って、問診を続けた。

今回の問診は口頭による指示ではなく、紙面に文章で、「時計を探してください。」と書かれたものであった。

守叔父さんは、その文章を音読した。

 

「エーーット、
ナニヲ サガシテクダサイ。 」
(えーーっと、
何を 探してください。)



「時計」を読めずに、「ナニ」と置き換えて音読したのだった。

探す対象の品名を読めないという事は、探しようがないが・・・。

「探して」という文字を読めたので、「探して」の意味が理解できれば、「何を探せば良いの?」などと逆に質問できるだろうが・・・。

「探して」という文字は読めても、その意味を理解できないという事だろう。

時計を探す仕草をせずに、すぐに、

 

「ワカンナイ。」
(分かんない。)



と守叔父さんは言った。 


「はい」と返事をした後、医師は続けて、机上の紙面を指差して、
 
 

「ここに、一言、文章を書いてください。
なんでも良いので、一言、一文、
ここに文章を書いて下さい。」



と言った。 今度こそ、サインペンを手に取って、その紙面に文字を書けばよいのだ!

しかし、守叔父さんは、

 

「ジブンノ・・・。」
(自分の・・・。)



と言って、自分の名前を書こうとした。

医師が再度、

 

「何でもいいので、文章、
意味は無くていいので、
一文、文章を書いてください。」



と言った。 しかし、守叔父さんの手は動かず、何も書かずに、

 

「ブンショウッテナニ?」
(文章って何?)


と小声で言った。 続けて、

 

「ワカラナイ」
(分からない)



と言って、そして、分からない事が恥ずかしいのか、笑い声をあげた。

医師が「はい」と返事し、次の問診へ、

 

「これを写して下さい。」



と言って、簡単な図形を見せた。

図形は、四角形の中に、丸、その丸の中に三角形が描かれているものであった。

守叔父さんは、何をすれば良いのかすぐに理解したようで、サインペンを手に取って、その図形を模写しはじめた。

ペン先の進みは遅く、小刻みにゆれてミミズが這ったような線であった。

それぞれの図形の大きさのバランスは、お手本とはだいぶ違うものとなったが、大きい順に四角形、丸、三角形が描かれていた。

図形を書き終わると、医師は、

 

「さっき、僕が言った言葉、覚えてる?
三つの言葉!って」


と言った。

「梅」「犬」「自動車」と答える質問であるが・・・。

さて、守叔父さんは答える事ができるのだろうか・・・?

(つづく)
 

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