13.上京八日目.13
守叔父さんは、図形(四角形、丸、三角形)を描くことができたことに満足したようで、笑っていた。
その笑いに水を差すようなタイミングの医師の言葉であった。
「さっき、僕が言った言葉、覚えてる?
三つの言葉!って」
守叔父さんは、笑うのをやめて小さな声で、
「ミッツノコトバ?」
(三つの言葉?)
と疑問形の返事をした。
私は沈黙しながら医師と守叔父さんのやり取りを直近で聞いていたが、守叔父さんと同様に問診を受けていたような状態だった。 そのため、三つの言葉を頭の片隅に置いていた。
このタイミングなんだ!と感心しつつ、もう忘れても良いんだとの安心感から、鼻から深く息を吸い、そして、ゆっくりと口から息を吐いた。
守叔父さんは、数秒間、沈黙した。 その後、分からない事を誤魔化すような笑い声をあげた。
医師が、「三つの言葉を覚えて下さい。」と言った事を守叔父さんは理解できてない様子だったので、正答を期待していなかった。
期待通りというか、「梅」、「犬」、「自動車」のどれ一つの言葉も出てこなかった。
「クルマ」だけは答えられれば良いのにな・・・。と淡い期待もあったが、その言葉も出てこなかった。
数秒間の時間が過ぎ、守叔父さんが答えられないと判断したところで、問診のすべてが終わったようだ。
医師がゆっくりな丁寧な口調で、
「はい、お疲れさまでした。
お疲れですね。」
と言った。
その医師の言葉には「大変な作業をさせてしまったため、疲れさせてしまった。ごめんなさいね。」という感情が含まれているように感じた。
守叔父さんは、医師からの問診が終わったことを理解したようで、自分の言いたいことを言える自分のターン(順番)が回ってきたと考えたようで、マイペースに語り出した。
「オレ チョット サッキ イロンナ カイロ ニ イッテ
ソレカラ ゼンブ キレイニ ナッテ、、、。」
(俺、ちょっと さっき、色んな カイロに行って
それから 全部 綺麗に なって、、、。)
医師は、守叔父さんの話しを理解しようと耳を傾けて必死に聞いてくれた。
途中、よく分からない話しが続いたが、守叔父さんが、腕の当たりを押さえながら、
「コノヘンガ、チョット、
ヘンナ トコロガ アッテ」
(この辺が、ちょっと、
変なところが有って)
と言った。
そうだ、守叔父さんを病院へ連れてくるときに、「腕のシミを治して貰えるかもよ!」と伝えていたのを思い出した。
医師に、守叔父さんを病院へ連れてくる際に「シミ」の治療を理由にして本院に連れてきたと伝えるのを失念していたのだった。
医師は、
「そこは全然、診てないから、
診察してないから。」
と言うと、守叔父さんは、ワイシャツの手首のボタンを外して、シャツの袖をまくり上げて、腕の「シミ」を医師に見せはじめた。
「ココ ヘンナンデス。」
(ここ 変なんです。)
と言った。
医師は、少し困惑した表情で、
「なんか有るの?」
と言った。
私は、内心、皮膚科医でない医師に、「シミ」の相談をしても無駄なのだが・・・。 と考えたが、医師ならばなんらかの対処があるかもしれないと少しだけ期待しつつ、面倒な話しに巻き込んでしまったことを申し訳ないと思った。
(つづく)
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