2024年6月5日水曜日

「泣けない人」その106

 


106 、上京五日目.3


守叔父さんは、玄関ホールの照明を消した後、

 

「コウイウトコロ、
モウ、ヤリタクナインダヨ。」
(こういうところ、
もう、やりたくないんだよ。)



と言い残すと、また、真っ暗な部屋の中に入ってしまった。

守叔父さんの意味不明な「行動」と「言動」は、私を混乱させ、頭の中には疑問符「?」が大量に並びはじめていた。

一旦は、照明が点いて少し安堵していた心が、暗転によって再度キュッと潰されたようになってしまっていた。

私は、いつでも逃げられるように片手で玄関扉を押し開いて、閉まらないようにしていた。

そして、外廊下から差し込む光を頼りにしながら、目を凝らして中の様子を伺った。

すると、数秒後に玄関ホールの隣りの部屋がパッと明るくなった。

私は、前触れなく明るくなったことに驚き、思わず

 

「おー、点いた、点いた!」



と少し「はしゃいだ声」を出してしまった。 恐怖心から解放された安堵感からつい口から出た言葉だった。

とは言え、先ほどと同じように数秒で灯りを消されて暗くなるかもしれないと心配しつつ、不用意ではあるが、慌てて靴を脱ぎ、中に入り部屋の様子を見ることにした。

 

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八王子の豊治叔父さんから、「守の家に入る際は細心の注意を払え!」と念押しされている。

まずは、守叔父さん以外に、他の人がいないかどうかを確認せねば!と考えて行動した。

玄関ホールの隣の部屋はダイニングキッチンだった。

守叔父さん以外の人の気配を探しつつ、

 

「起きてても、
電気(照明)点けてなかったの?」



と問うと、

 

「ソウ、ボクハ、ヨジカラ
ズーット、オキテイタ。」
(そう、僕は、四時から
ずーっと、起きていた。)



と守叔父さんは言った。 今は6時過ぎ、2時間も灯りもつけずに、一体何をしていたのだろうか?

日頃は、早く起きて仕事に行くと言っていたのに、今日の仕事は無いのだろうか?

 

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守叔父さんの話を聞けば聞くほど、次々と私の頭の中の疑問符「?」が増えていきそうなので、それらの前に、他に人がいないかどうかを確認せねば!

どこかに他人が隠れており、背を向けた時に不意打ちをくらうかもしれないし、念には念を入れなければ・・・。

守叔父さんの話を聞く前に、遠慮せずに、強引に部屋の中の案内をして貰うことにした。

不動産の内見(内部見学)のごとく、全ての部屋、押し入れ、トイレ、風呂など、人が入れそうな場所は開けて見せて貰った。

守叔父さんは、嫌な顔をせずに、それぞれを見せてくれた。

 

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結果として、誰も隠れていることはなかったので、とりあえず、一安心できた。

人探しと同時に監視カメラや盗聴器などが設置されていないかどうかも探っていたが、可能性は少なさそうと感じた。

盗聴器は目視では見つけられないだろうから、別途、スパイの七つ道具の盗聴器探知機で探さなければならないが、さすがに守叔父さんの面前では、探索はできないな・・・。

守叔父さんがトイレに立った時など、別のタイミングを待って探すことにした。

(つづく)

 

2024年5月29日水曜日

「泣けない人」その105

 


105 、上京五日目.2


私は今、守叔父さんの住むマンションの玄関扉の前に立っている。

私の心臓の鼓動は少し大きく、そして速くなっていた。

玄関扉越しの玄関ホールには誰か人のいる気配がある。

守叔父さんなのか? それとも、知らない人なのか・・・?

今もなお、室内の灯りが点かない状態が続いている。

室内からは「どちら様ですか?」などの声も一切聞こえてこない。

 

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私のいる外廊下は照明が点いているので明るいため、室内からは「ドアスコープ(のぞき穴)」を通して、来訪者が誰であるかの確認ができるかもしれない。

逆に私のいる外廊下からは室内に人の気配を感じるだけで、相手がその「ドアスコープ」を覗き込んで私の方を見ているかどうかの確認はできなかった。

もし、室内が明るければ、その穴の明暗が変わることで覗きこんで確認しているかどうかが外からでも判断できるだろう。 しかし、室内が暗い場合は明暗は変わらないので確認できない。

玄関ホールにいる人は、思慮深く、非常に警戒心の強い人なのだろうか・・・?

守叔父さんは、そんなに警戒心の強い人ではないと思うので、別の人かもしれない。

 

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私の心臓の鼓動はどんどん大きく、速くなっていた。 室内の相手から私が見えているのに、私からは見えない。 

その不利な状況となった事に気が付くと、背筋が寒くなった。

もしかすると、玄関先を撮影する防犯カメラなども設置されているかもしれない。

その場合、そのカメラの存在を探す行為は、逆に相手を刺激することになるかもしれないので、平然を装って玄関扉前に立ち続けることしかできないと悟った。

そして、「知らない人ではなく、守叔父さんが出てきてくれ!」と心の中で願っていた。

 

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時間が止まっているかのような錯覚を感じているときに、「カチャッ」と解錠の音が響いた。

そして、ゆっくりと玄関扉が開き始めた。

扉の隙間から漏れ出る光は無かった。外廊下から見えているとおり、室内は照明が一切ついていない状況である事が再確認できた。 

なぜ室内の灯りが点いていないのだろうか?との疑問に思っているところに、扉を開けた人が小さな声で、

 

「オハヨゥ」
(おはよぅ)



と言った。

小さな声ではあったが、その声が守叔父さんであることは確認できた。

私は内心ホッとしながら、守叔父さんの声のトーンに合わせて、小さな声で、

 

「おはようございます。
寝てた?」



と返事をした。守叔父さんは、

 

「ズーット、オキテルヨ。」
(ずーっと、起きてるよ。)



と言った。


守叔父さんの発する言葉には、まったくと言って緊張感が無く、普段そのものであった。

私の今の緊張感とは、だいぶかけ離れていた。

扉を開けた人が守叔父さんであり、そして、その落ち着いた言葉による応対であったので、少しホッとした。

しかし、玄関ホールだけでなく部屋の中の照明が点いていないため、何も見えない状況であったので、中に立ち入ることに躊躇した。

外廊下の光によってボーッと照らし出された守叔父さんは、囚人服をイメージするような黒地に白の横縞のパジャマを着ており、顔には白いマスクをしていた。コントラストの高い装いであったので、薄暗い中でもその存在はよく見えた。

 

「電気(照明)は?」


と聞くと、天井の照明を指差して、

 

「ココ、ココ」
(ここ、ここ)



と言った。指を指されても仕方ないので、

 

「電気(照明)、点かないの?」




と言い返すと、守叔父さんは、

 

「アルヨ」
(有るよ)



と言って、部屋に入って行った。 「点く」ではなく「有る」とは何だろう・・・?

守叔父さんは、小さな椅子を持って、すぐ戻ってきた。

守叔父さんはその椅子の上に立ち上がると、先ほど指差した照明の横付近を触っていた。 すると、「パッ」と点灯し玄関ホールが明るくなった。

天井の高いところにスイッチがあるようだ。

なぜ、そんなところにスイッチがあるのだろう・・・? と疑問に思っていると、

守叔父さんはそのスイッチに再度手を伸ばして照明をオフにしたのだった。

明るかったのはわずか数秒だけで、またもや、暗くなった。

なぜ、せっかく点けた灯りを消すのだろう?

疑問と共に、不安を感じた。

明るいものを見た後に暗い場所に行くと生じる目の現象「眩惑」によって、前よりも周囲が暗く感じてしまい、何も見えなくなってしまったからだ。

今、その暗い部屋の奥から私に向かって誰かが飛びかかってきても、私は対処できないだろうな・・・。

(つづく)
 

2024年5月22日水曜日

「泣けない人」その104


 

104 、上京五日目.1

五日目の朝、5時過ぎに目が覚めた。

「朝駆け」として6時位に守叔父さんの家へ行こうと考えていたので、十分間に合う時刻であった。

日の出は6時34分のため、カーテンを開けても外は暗かった。

ポットでお湯を沸かし、コーヒーを煎れた。

朝食を食べるには少々早いため、即席みそ汁を一杯だけ飲むことにした。

 

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5時半に宿を出た。 ゆっくりしたペースで守叔父さんの家を目指した。

6時前に守叔父さんの家の近くに到着した。

クルマは駐車場にとまっている。フロントガラスにサンシェードも付けられていた。

 南側の部屋の遮光カーテンは閉まったままであった。

カーテンの隙間から漏れる光は無いので、室内の電灯は点いていないようだ。

 マンションのエントランスを通り抜け、廊下を進み、守叔父さんの部屋の玄関前で立ち止まった。

玄関横のスリットや風呂場らしき窓をチェックしたが、室内の電灯は点いていないようだった。

すでに、仕事に出掛けてしまったのだろうか? それとも、まだ、寝ているのだろうか?

玄関チャイムを押そうか考えたが躊躇した。 

そして、一旦、その場を離れることにした。

エントランスから出て、最寄りの公園に向かい、そこで、深呼吸を3回して心を落ち着けた。

まず、守叔父さんの所在を確認するためにLINEメッセージを送ることにした。


 

「守叔父さま おはようございます。
甘太郎です。 
朝の散歩で、家に来ました。」
2021/12/3 5:56 

 

「すでに、出社されましたか?」
2021/12/3 5:57



1つのメッセージならば気付かない事もあるだろうと考え、少し間を開けて2つのメッセージを送信した。 


なかなか返事が返ってこなかった。

3分待っても返事が戻ってこなかったので、LINE音声電話を掛けることにした。

10秒超、少し長めの呼び出し音を待ったが、守叔父さんは電話にも出てくれなかった。

家の灯りは消えており、電話連絡にも反応が無い。

仕事中で、かつ、忙しいのだろうと判断することにした。

家に守叔父さんがいないならば、玄関チャイムを押す事に躊躇はいらない。

もう一度、守叔父さんのマンションへ行き、玄関チャイムを押すことにした。

 

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玄関チャイムを押し、心の中で数を数えはじめた。

「30」まで数えて反応が無ければ、帰ることにした。

 

「1,2,3,・・・, 29」



もうすぐ数え終わると思った「29」 のタイミングで、玄関ドア越しの室内から微かな物音が聞こえたので、カウントをやめ、人の気配を探った。

間違いなく、誰か人がいる!

そして、その人の気配が玄関に近づいてきた。

しかし、人の近づく気配はあるものの、室内の灯りは点かないのか、廊下に面した窓や玄関横のスリットのすりガラスから光が漏れ出てくることはなかった。

近づいてきた人は、間違いなく玄関ドアの反対側にいる。

少し不気味な感じがした。 

(つづく)
 

2024年5月15日水曜日

「泣けない人」その103

 


103 、上京四日目.14


カーラジオの流れる車内で、
 

「ソウイエバ、
キョウ、アラオウカナ?
サイキン、ズーット、
アメフッテタカラ
キレイニ シナイト
ダメダナ。」
(そういえば、
今日、洗おうかな?
最近、ズーッと、
雨降ってたから
きれいにしないと
ダメだな。)


と守叔父さんが言った。

何を洗おうと考えているのだろうか・・・?

クルマなのだろうか?

私の感覚では、洗車の必要性を感じなく、とてもキレイな外観であるが・・・。

 

「クルマ、洗うの?
洗車するの?」



と聞くと、

 

「ソウ!」
(そう!)



との返事が返ってきた。

旧式のクルマであるにもかかわらず、新車同様に見えるのは、日々の洗車メンテナンスのおかげなのだろうと感心した。

 

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カーラジオに耳を傾けていると、いつの間にか宿に到着した。

守叔父さんは、私がお礼をいう前に、

 

「アリガトウ!」
(ありがとう!)


と言った。 慌てて、

 

「こちらこそ、ありがとう!」



と答えることになった。そして、クルマを降りた。

守叔父さんは、

 

「マタネ!」
(またね!)



と言った後、クルマを発進させ帰っていった。

クルマを見送って、そのクルマが見えなくなったあとに、洗車の手伝いをすることを理由にして、守叔父さんの家まで行けば良かったな・・・、と考えついた。

洗車だけなら、守叔父さんの自宅に無理に入らずにとも、窓の外から家の中を見ることができたのにな・・・。

30秒早く、そう考えつけば良かったな・・・。と思う自分がそこにいた。

逆に、考えつかなかった事は、今日行くべきではなく、今日のミッションの終了を告げているのではないかと思う自分もいた。

今回は、後者を選び、明日に備えることにした。

最寄りのコンビニで、缶ビールと缶チューハイをそれぞれ一本ずつと酒の肴としてミミガーを購入して、宿の部屋に戻った。

飲み物は一旦、冷蔵庫へ入れて、シャワーを浴びることにした。

 

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風呂からあがり、バスタオルを腰に巻き、上半身は裸のままで、ビールを飲み始めた。

明日は、早く起床して、「朝駆けしよう!」と 心に決めた。

(つづく)

2024年5月1日水曜日

「海岸展望台」 桜島を見るのにオススメの場所です。

 

鹿児島観光の目的で「桜島」を挙げる人は多いでしょう。

「桜島」は色々な場所から見ることができますが、桜島の眺望が良い場所はどこだろう?

と調べていると、オススメの場所「海岸展望台」と言うキーワードが見つかりました。

「海岸展望台」とは、なじみのない名称だったので調べてみると、県立吉野公園内にある施設のようです。

過去の記憶では、吉野公園からの眺望はたいしたことがないと思っていましたので、「海岸展望台」は私の知らない新たな施設・設備なのだろうと思いました。

よくよく考えると、最後に吉野公園を訪れたのは学生時代であり、30年前になります。

どんな変化があるか楽しみにしながら訪れました。

 

吉野公園 案内図

 

公園内を進んで行くと鹿児島県のPRキャラクター「ぐりぶー」の石像がありました。

 

後方にも、同じく「ぐりぶー」像がありました。

 

園内を進んで行くと、展望台が見えてきました。

 

「海岸展望台」ができたのは、平成16年3月(20年前)でした。

 

あいにくの天気のため、桜島の上半分は雲に隠れて見えませんでした。

 

桜島水道を横切る小型漁船の曳波が広がっていくのが見えました。

 

2024年4月24日水曜日

「泣けない人」その102

 


102 、上京四日目.13


京急川崎駅からの帰路、カーラジオから音楽が流れ、その曲に耳を澄ましながら移動していた。

守叔父さんが「電車」を「フネ」と言った事によって感じた戸惑いは、曲の流れる時間と共に少しずつ薄らいでいった。

何らかのキッカケで守叔父さんは、またしても安西さんや佐藤さんにお金を騙し取られた事を話し始めた。

その話の内容は、一昨日、昨日と変わらないものであり、目新しい情報は無かった。

一通りの話を聞いたあと、証拠となるものがないのかどうかを聞くと、胸ポケットからスマホを取り出して、安西さんからのメールを見せてくれたが、一昨日、昨日も見せて貰った同じメールであった。

他に届いたメールがあれば、状況が分かるかもしれないと思い、有無を確認する為に、スマホの画面をフリックしてみたけれども、安西さんからのメールは1通しか無かった。 

トラブルを抱えた相手とのやりとりが1通のメールだけとはいささか不自然ではあるが、ないものはしょうがない。

代わりに佐藤さんとのメールのやりとりはあるのだろうか?

調べようとした時、守叔父さんにスマホを取り上げられてしまったので確認できなかった。

守叔父さんはスマホを操作して、

 

「コレ、オモシロイヨ!」
(これ、面白いよ!)



と言いながら、私にスマホを見せてくれた。

画面に映っていたものは、昨日の昼食時に見せてくれた動画であった。

守叔父さんが中国旅行へ行った際に撮影されたものである。

昨日は動画を一緒に見ながら、撮影時の状況を丁寧に説明してくれたので、その動画の内容を私は覚えており理解していた。

それにもかかわらず、守叔父さんは、初めて見せるがごとく、ほぼ同じ内容を事細かく説明をしながら見せてくれた。

昨日、既に私に見せた事を覚えていないのだろうか? 

それとも、ただ単に何度も見せたいと思っているのだろうか?

守叔父さんは、その動画を笑いながら笑顔で説明してくれたが、私の表情は困惑して、苦笑いしていたと思う。

安西さんからのメールの件、そして、中国旅行の動画の件、それぞれ、同じような行動が二回または三回繰り返されていることに気がついた。

 

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動画の再生が終わり、動画の説明を喋り終えると、守叔父さんはスマホを受け取って胸ポケットにしまいこんだ。 そして、


「オモシロカッタデショ!」
(面白かったでしょ!)



と言って、満足そうな表情をしていた。

 

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ちょうど、カーラジオから流れる歌が終わりDJ(ディスクジョッキー)が喋り出した時だった。

守叔父さんは、すかさずカーラジオの選局ボタンを押した。

音楽が流れているチャンネルがみつかると、その音楽を聴いた。しばらくして、その曲が終わり、DJ(ディスクジョッキー)が喋り出すと、また選局ボタンを押した。

音楽のみを聴くような感じで、ニュースやDJの「話し声」を聞くことがほとんど無いことに気がついた。

もしかすると、言葉が不自由になったため、他人(DJやアナウンサーなど)の話す事が理解できない、もしくは理解しづらいのかもしれない。 

結果として、それらの言葉は雑音となり、雑音を避けるために音楽を選局しているのかもしれないと考えた。

(つづく)

 

2024年4月17日水曜日

「泣けない人」その101

 


101 、上京四日目.12

「(川崎)市役所通り」を西に向かってクルマが進んでいる。

この先には、「オッキナフネ(大っきな船)」があるらしい。

右手に川崎市役所が見え、それを通り過ぎた後に右折して、細い路地に入り込んだ。

ほどなく、より狭く一方通行の道に入り込んで行った。 

守叔父さんは、以前、「川崎駅」近くのマンションに住んでいたので、この辺りの道路には詳しいのだろうが、本当に狭い路地の先に「オッキナフネ(大っきな船)」があるのだろうか・・・?

いくつかの小さな交差点を過ぎた後に左折した。

そして、直進し続けると一時停止の道路標識のある「丁字路」に突き当たった。

一時停止で止まったのち、クルマを進めると目の前には左右に高架が広がっていた。

高架の上の看板には「京急川崎」と書かれており、「京急川崎駅」のプラットホームであることが分かった。

守叔父さんは、駅ホームの左右を見て、そして何かに気がつき指差して、

 

「キタ、キタ、フネ、フネ!」
(来た、来た、船、船!)



と言い出した。

駅のホームに「船」が来ることがあるのだろうか・・・? 

見逃すまいと、その指の指し示す方向を見るものの、下りの普通列車がホームに滑り込んできただけだった。

「船」を表す何らかの特別な塗装の列車というわけでもなく、赤く見慣れた京急の車両であった。

先頭車両が右から左に通り過ぎ、京急川崎駅のホームにその全ての車両が並んで停止した時、守叔父さんは、

 

「オッキナフネ!」
(大っきな船!)



と言いながら、笑顔で喜んでいたのだった。

この事により、守叔父さんの言った「オッキナフネ!」とは、「大きな(長い)電車」のことであることが分かった。

まさか、「電車」の事を「船」と言うとは予期できなかったし、「車両数が多くて長い列車」を「大っきな」と表現する事にも驚いた。

そして、守叔父さんは、わざわざ手間をかけて、私に京急の電車を見せてくれたことになる。

守叔父さんは、50歳を超えた甥っ子である私が、単なる普通の電車を見ると喜ぶと考えたのだろうか・・・? と少し疑問を覚えた。

対して、守叔父さんの表情は、小さな子供が電車を見て喜んでいるような風に見えた。

電車が出発し、ホームから見えなくなると、守叔父さんは満足したようで、クルマをゆっくりと発進させた。

 

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カーラジオから流れる音楽を聴きながら、守叔父さんの発した言葉を心の中で反すうしていた。

守叔父さんは、駅において「電車」を「フネ」と言い、八景島の「シーパラダイスタワー」の事を「フネをピューっとやるやつ」と言った。

その両者に共通することは何だろう・・・? と考えると、「フネ」とは「乗り物」の事を全般的に指しているのではないかと推測した。

船やクルマなどが「進んでいること」を「アルイテル」と言い、車両数を「コ(個)」で数えた事などから、「電車」を「フネ」と言ってもおかしくない。

これらの事から、守叔父さんの使える言葉が少なくなっており、言葉に問題を抱えていることはより明らかになった。

また、守叔父さんは、私の事を喜ばそうと考えて行動していることは理解できるが、その思考は、ある意味子供っぽくて「幼稚」であり、かつ「単調」なものであることがわかりはじめたような気がした。

(つづく)