2022年8月17日水曜日

「泣けない人」その26

 


26 、上京初日.7

二度の出陣によって、何の収穫もないと思ったが、ほんの少しだけ心の奥の方で違和感を感じていた。

横目で、かつ、歩きながら守叔父さんの家を短時間観察しただけなので、何に対して違和感を感じたのか、その時にはわからなかった。

その違和感が何であるかを調べるため、胸ポケットの挿していたボイスレコーダーとスパイカメラのデータをそれぞれの本体からダウンロードして確認することとした。

ボイスレコーダーの音声は、思ったより高音質で、自動車の音や歩く音、自分の呼吸の音などがクリアに録音されていた。それなりに使えそうな音質であった。ただし、現状では、特に誰かと会話したわけでないので、肉声がどの様に録音できるのかは確認できたわけではない。

宿を出発するときに録音をスタートしたため、25分程の先送りし、守叔父さんの家の辺りを歩いている時間帯の音を聞いてみた。しかし、その録音の中には違和感を見いだせなかった。

続いて、スパイカメラの映像を確認することにした。

スパイカメラには、映像のブレ防止機能が無いようで、全体的にブレブレの映像であり、見づらいものであった。少し見るだけで、船酔いしそうな感じの揺れ方であった。

映像のブレの主要因は、歩きながら使っていることではあるが、ポールペンを挿している胸を左右や上下に振って歩いているつもりは無かった。

しかし、人は歩いている状態で腕を振るのに合わせて、無意識に肩や胸も左右上下に振っていることに気付かされた。

人間らしい歩き方とロボット的な歩き方の違いは、体を全体的に動かしているのか、部分的に動かしているのかの違いなのだな・・・と考えた。

大事な映像を確実に撮影するためには、胸の動きに気を配らなければならないことを学ぶことができた事となる。

より良い映像を撮影するためには、歩くのをやめて、止まった状態が必要かもしれない事を理解した。

感度調整の機能により、夜間の暗い状態であっても、肉眼で感じた明るさより全体的に明るく写っていた。ブレさえなければ、肉眼で見えない部分も写っている可能性がある。ただし、ノイズが多く乗り、画質そのものは良いものではなかった。

 




 

 

ボイスレコーダーと同様に宿を出発するときに録画をスタートしたため、25分程の先送りすると守叔父さんの家の付近を通過している風景の映像となった。ブレブレではあるが無事に撮影できていた。

一度目の確認では、違和感を見つけることはできなかった。

何度か繰り返して見てみると、ブレブレが一瞬だけ留まり、そこに写っている車に違和感を感じた。繰り返し再生し、タイミングを計らってストップするが、なかなかその瞬間に止めることができなかった。

超スロー再生することによって、家の前に止まっていたシルバーのベンツのフロントガラスが一瞬だけ綺麗に写っている事が確認できた。

私が感じていた違和感とは、そのフロントガラスであった。

横目で見ながら部屋の様子と車の様子を同時に詳細に観察することはできなかったようだ。

そして、違和感の理由が映像として映っていた。

ベンツのフロントガラスの内側にサンシェードが広げられていたことであった。つまり、サンシェードのため、車の正面から車内が見えない状態で駐車されていたのだ。

もちろん、夏場ならば夜間であってもサンシェードに違和感を抱かないだろうが、今日は11月29日であり、冬季であるため日除け対策をする必要を感じない。

夕暮れから夜間にかけて、横目で見ていたベンツの車内が見えないことが違和感の原因だったのである。

なぜ、時季外れのサンシェードがあるのか?

この事により、このベンツは一体いつから駐車したままになっているのか?
最後に動かしたのはいつなのだろうか?

と言った疑問を持つことになった。

夏場の駐車時にサンシェードを付け、そのまま数か月使われていない可能性があるってことだ。

つまり、車の有無は、守叔父さんの在宅・外出に関係ない可能性がある。最悪、夏場から監禁されている可能性も考えることができることになった。

下手に近づくのは危険かもしれないと、改めて気づかされた。

明日、どの様に第三陣に出陣すべきか?
悩むこととなった。

(つづく)
 

 

 

 

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