2023年5月19日金曜日

「泣けない人」その62

 


62 、上京三日目.4


私が着くと同時に、駐車場からクルマを出してくれた。そのため、守叔父さんの家の目の前に居るのにもかかわらず、家の中に入ることなく、そのまま出掛ける事になった。

おそらく、守叔父さんは、何処か行きたいところがあるのだろう! さて、何処に連れて行ってくれるのだろうか・・・?

クルマの助手席のドアを開け、まず、カメラの入ったリュックを足元に置こうとすると、
 

 

「コレ、ウシロニ オイトイタホウガ イインジャナイ?」
(これ、後ろに置いといた方が、いいんじゃない?)

 


と声を掛けてくれた。 私は、守叔父さんの指示に従い、リュックを持ち上げ、後部座席に置き直した。

些細な事ではあるが、守叔父さんのその気配りだけをみると、認知症であるようには感じなかった。

私が、クルマに乗り込むと、守叔父さんは、

 

「ヨシ! オレハ、アソコニ イキタイ。
アノ ムコウノ ホウニ!」
(よし! 俺は、あそこに行きたい。
あの、向こうの方に!)



と言った。そして、クルマがゆっくりと発進した。

 

「向こうってのは? 何処?」



と、私が聞くと、

 

「エェーットネ、マエ、
リリィチャン トコ イッタトキニ
カンコクニ リョコウニ スゴイ
オモシロイトコロガアル。」
(えぇーっとね、前、
リリィちゃんの所、行ったときに
韓国に 旅行に
すごい 面白いところがある。)



と守叔父さんは答えた。

まさか、韓国に行くことは無いだろう。私がパスポートを持参しているかどうかの確認もないし。 当日、海外旅行へ行くって事はない。

おそらく、リリィさんと行ったことのある場所に行こうとしているのだろうと考えた。

昨日、飛行機の見える公園へ連れて行ってくれたので、

 

「飛行機が見えるところ?」



と聞いてみた。すると、

 

「ソウ、ソウ、ソウ!
クルマトカ、ナントカガ、イッパイアル。
ソンデ、ハイ、ドウゾ!」
(そう、そう、そう!
クルマとか、何とかが、いっぱいある。
そんで、はい、どうぞ!)



と言いながら、二つ折りになった厚手の紙を渡された。

「何とかが、いっぱいある。」とは、何なのだろうと疑問を持ちつつ、渡されたその紙を開いた。

中には写真が挟み込んであり、その写真には、守叔父さんと他二人の女性が写っていた。

中央の女性は、ピカチュウの小さなぬいぐるみを抱えていた。そして、似た顔をしているので姉妹ではなく、母娘であることが推測できた。

家族写真の様であり、中央に娘、両脇に両親というレイアウトの写真であった。

昨日、リリィさんの写真はスマホの写真で見せて貰ってはいたが、その顔をはっきり認識できるほどの時間ではなかった。話のつながりとして、察するところ、リリィさんとその娘さんの写真のようであった。 

その写真には縁取りがあり、「2015年08月18日 よこはま みなとみらい21 コスモワールド」と描かれていた。 そして、守叔父さんは、

 

「コノコネ チョウジョダカラネ イイヨネ!」
(この子ね、長女だからね、良いよね!)



と、昨日と同じような事を言い出した。リリィさんと考えて間違いないだろう。

私にとって、リリィさんが長女であろうが、二女であろうが、まして末っ子であっても、どうでも良いな・・・。と思いつつ、

 

「横浜って書いてある、コスモワールドだね!」



と伝えると、

 

「ソコ、イコ!」
(そこ、行こ!)



との返事が返ってきた。男二人で、コスモワールド・・・?とは思いつつ、横浜方面へクルマが向かっている事が理解できた。

ただ、「飛行機が見えるところ?」と私が聞いた時には、「そう、そう、そう!」と守叔父さんが答えたのはなぜだろう。

横浜から飛行機が見えるのだろうか?
飛行機を見るために横浜へ!とは聞いたことが無い。

(つづく)
 

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